企業取材レポート

STEM教育を取り入れた小学生向けスクール「STEMON」

(2020.2.5)

これからの時代に必要な力を育む
STEM教育を取り入れた小学生向けスクール「STEMON」(ステモン)

今回は、小学生向けにSTEM教育を取り入れたスクール「STEMON」を運営している株式会社ヴィリング代表取締役中村一彰さんに起業の経緯や現在実施されている取り組みについて取材を行いました。

株式会社ヴィリング代表取締役 中村 一彰 さん

埼玉大学教育学部卒。1年間の教員生活を経て不動産会社に転職、その後株式会社エス・エム・エスでは創業期からマザーズ上場、東証一部への市場変更までの7年間で新規事業・人事の責任者を歴任。2012年8月に退社。同年、株式会社ヴィリングを創業。時代にあった教育への改革を志し、民間教育/公教育の両面から実践に取り組む。公立小学校のプログラミング教育にも携わる。著書に『AI時代に輝く子どもーSTEM教育を実践してわかったこと』
平成30・31年度東京都教育委員会プログラミング教育推進校4校にて支援企業として、教科教育においてどうプログラミングを活用するかという授業案を作成している。

 

ステモンの紹介

―どのような経緯でステモンを開発されたのですか?
問題意識として、社会で活躍することや生き生きとした人生、面白い人生を送るための力と、子どもたちが置かれている「学びの環境」に大きなずれがあるということを感じていました。それを埋める活動、つまりこれからの時代に必要な力を育む事業をしていこうと考えました。具体的に何をするかを模索した時に「STEM教育」と「探究型の学び」がよいと思いました。STEM教育に関しては、シンガポールの教育、アメリカのタフツ大学の事例がとてもいいなと感じました。何がいいかというと、学校ではまだまだ学べないけど、社会では必要である「テクノロジー」「コンピューティング」を学べる事。もう一つは単に理数教育でなく、「自分でつくる」「自由に表現する」というような個性が大事にされていた事です。その後、国内外の様々な教育機関や学校を見学し、子どもたちの新しい学びの場をつくろうと思いました。

 

―2013年にスタートしたとお聞きしましたが、その頃日本では「STEM教育」というワードは知られていなかったですよね?
そうですね。当時STEM教育としてのスクールは日本で初めてだったと思います。2013年10月にスポーツジムの中で講座をはじめました。日本国内でカリキュラムがない状態から、自分たちで時間をかけて作り上げました。ベースとなっているのはマサチューセッツ州の理数カリキュラム、イギリスのプログラミング教育、IBカリキュラムを参考に日本の学習指導要領をすり合わせ、作成しました。そして、2014年4月から教室展開をスタートし、その1年後に4教室を展開。その後教室を増やしていき、現在は75教室です。実際に授業をやってみると簡単すぎたり、逆に難しすぎたり、1時間では終わらない等、課題に対して何度か大きな改定をし、40レッスン×6年間のカリキュラムがようやく完成形になってきたと思います。

 

―今やプログラミング教室はたくさんありますが、それとSTEM教育「ステモン」の違い、また特徴はどのうようなものですか?
STEM教育というコンセプトでやっていることです。わかりやすい違いといえば、科目的な違いです。ステモンでは、理科(物理)の科目が多いことが特徴です。実際に物理のカリキュラムが半分近く占めています。海外では「プログラミング教育」という言い方はせず、「コンピューティング」という言葉の中にITリテラシーとかプログラミングなどがあります。それと同様にステモンでは「プログラミング」に限定せず、「物の仕組み」もしっかりと学びます。
次に、手法の違いは、子供たちが作るための組み立て書がないことです。“テクノロジーを活用したアート教室”というコンセプトからもわかる通り、アート、自由に表現する、工夫する、改造するということを大事にしています。なので、出来上がるものは皆違います。学びの狙いに沿い、その機能をきちんといれていれば、どう作るかは自由です。多くのプログラミング教室では、組み立て書があって、それ通りに作って、完成して動かしてよかったねということだと思うのですが、ステモンはそのような情報処理的なことを学ぶのではなく、自由につくる、表現するという「創造」を大事にしています。

例えば、滑車の仕組みを学んで、仕組みをいかしてエレベーターをつくるというテーマでも、どういうエレベーターをつくるかは自由ということです。大事なのは、「自分はどのようなものを作りたいのかを自分で気がつく」ということだと思います。大人になるとなかなかそれが難しいですよね。それは、自分以外のところに評価軸があるからです。それを気にし過ぎることが当たり前になってしまうと、自分で作りたいものを自分で認識できなくなっていく―これは、これからの社会で活躍するにはあまりよくないことです。「こんなものがあったらいいじゃないか」というものを自分でイメージできて、それを形にできるという態度がこれからの社会では重要だと思います。

 

―「自分でつくりたいものをイメージする力」ですね。とても大事だと思いますが、なかなか難しいようにも思いますが。
こういうものを作りましょうと用意されているものがあり、そのために必要な作業をする力を育むことも悪くはないと思いますが、それは工業社会的発想です。自分は何をしたいのか、何を作りたいのか、何を解決したいのかに目を向けたいですね。そこをロジカルに考えられると思考力が鍛えられると思います。それから、イメージするために必要なのは、「原体験」なんです。原体験とは、「山を登った」「川で遊んだ」「ボールを投げた」「木から葉っぱがひらひら落ちてくるのを見た」とか。自然科学現象とか物理現象とかを遊びの中で体験すると、別の機会にもそれが再現でき、頭の中にイメージできて活かせるんです。私たちは「BOKEN(冒険)」という自然体験プログラムを持っていて、そこで行う里山体験や豪雪地域体験などは子どもたちにとって重要な原体験となっています。五感で感じるこのような体験がポジティブな感情(例えばお父さんとお母さんと一緒で楽しかったなど)を伴うとより映像が強く記憶されますね。「言語」「映像」「ポジティブな感情」の3つを組み合わせるとすごく思考力が高まると思います。

 

―6年間実施されてきて、子どもたちの成長や様子はいかがでしょうか?
やはり、理科や算数は好きになっていきますね。数の概念、空間の認知などは、ブロックや電子教材を使って自然と学んでいきます。例えば、動滑車も難しい分野ですが、自分でつくって動かしてみると、力の入れ方が変わる等、体験を通して理解します。そうすると公式もすっと入ってきやすくなるんだと思います。一番の狙いは「学ぶことって楽しい」と思ってもらうことです。学んだことが身近な生活に活かされていて、そのことで便利になったり、安全になったり、快適になっているんだという、ポジティブな体験がタイムリーに行われるので、「学ぶって意味がある」と感じてもらえてるのではないかと思います。

そして、「人と違ってよい」という態度を育むことを大事にしています。小学校3年生くらいから通いはじめると最初は何を作ってよいかわからなくて周りをキョロキョロして手が動かないという子もいます。でもそういう子も2か月くらいすると周りを気にせず自分に集中して、手が動くようになる。先生の期待なども気にせず進めていけるようになっていますね。学校では手を焼いているんだろうなと思うような子もここでは輝いていたりするケースもあります。新たなヒーロー、ヒロインが生まれるというのもプログラミングのよいところだと思います。

 

―今後の展望をお聞かせください。
子どもたちの「新しい学び方」の一つとして日本にもっと広めていきたいと思います。これまでは「賢い」=「学力」で、その学力とは読み、書き、算数でした。しかし、これからの「賢い」というのは、つくるとか、表現できるとか、伝えられるとか、失敗をおそれない気持ちとかそういのを含めて「賢い」ということになると思います。学び方として、例えば、プリント学習のような多くの子どもが小さい頃からやる学習方法もあると思います。ただ、筋トレ感覚で楽しくできる子もいれば、そうではない子もいると思います。往々にしてまずはそういうものをやるべしという発想では勉強が嫌いな子を作ってしまうことにもなります。プリント学習を批判しているのではないですが、このようなものが合わない子にとって、ステモンのような新しい学び、こういう学び方もあるんだよというものを用意してあげたいと思いますね。自分にあう学び方を認識することが大事だと思います。今後は300教室を目指して全国に広めていきたいと考えています。

 

―ありがとうございました。

 

◆Tips

  • STEM教育:Science,Technology,Engineering,Mathematicsの頭文字をとった「STEM」教育。これからの社会に生きる子供たちに必要な自発性や創造性、問題解決能力を育み、伸ばしていくためにSTEM教育は今、注目が集まっている。

 

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