<後編>
情報Ⅰの授業見学と学校全体でICTを活用するコツ
高校1年生の情報Ⅰの学習を見学させていただきました。
この日は災害に対応したアプリの開発について学んでいました。
どのようなアプリにするかMicrosoft One Note上に書き出して、グループで共有していました。
写真左:分からないことは自分のスマホも使って調べていました。
写真右:グループで話し合いながら、アプリのデザインを考えていきます。
昨年度の高校1年生がAdobe XDで作成したアプリの紹介もされていました。
高校生とは思えないほどのアプリの完成度の高さに驚きました。
—昨年の高校1年生が作ったアプリの完成度の高さに驚きました。本日作っていたアプリは情報Ⅰの時間内で完成させるのですか?
杉山先生情報は高校1年生が行うのですが、タブレットなどに慣れてほしいという思いから、週に2回行っています。アプリもこの時間内で作成しています。
ここである程度使えれば、他教科でも、学年が上がっても使えるようになります。高校1年生のうちにパソコン、タブレット、そしてスマホも併用しながらどういう風に使っていくかということを学べるようにしています。
動画作成用のAdobeのソフトも入れています。あとは使いたいものを使えるように、Adobeを使う生徒もいれば、Clip champというWindowsのアプリを使う生徒もいて色々です。防災アプリの作成もAdobeのCreative Cloudを使っています。今日の授業はプログラミングではなく、デザイン設計の領域になります。作った防災アプリをスマホで触れられるので、実際の動きが確認でき、作りながら学べます。完成したものにフィードバックをして、互いに評価し合っています。プログラミングの学習も行います。
今日見ていたクラスは比較的ITが苦手な子が多かったですが、Adobe XDは使い慣れてくれるといいなと思います。そのようなツールに触れるということは大きいと思います。行ったり来たりしながら作れるのもいい点です。
八重樫さんこれは高校3年生が英語の時間に1時間でプレゼンテーションを作って発表するという授業です。このくらいのプレゼンテーションなら30~40分で作れます。中学生の時から総合やLHRなどでもプレゼンテーションを作っています。学園祭の時などは、校外学習や修学旅行のことをプレゼンテーションにして発表したりしています。大学に行く前にはだいぶプレゼンテーションに慣れた状態になっています。
杉山先生自分の意見を言う一環としても、色々な教科で活用できると思います。
—様々なITツールを積極的に導入されているんですね。慎重派の方からは「使ったときの効果を測定しているのか」と言われることもあるかと思うのですが、効果検証などはしていますでしょうか?
杉山先生様々な要素が関わってくるため一概には言えませんが、例えば最近は総合型選抜入試で合格する生徒が増えてきました。国立大学などにも合格者が出てきています。
体感としては学習時間が変わってきたのかなと思っています。今までは机に向かってまとまった学習時間をつくることが多かったですが、端末やスマホで学習や調べものを行うことも増え、隙間時間でのちょっとした積み重ねが増えていると感じます。学内のICT環境整備を行い、授業や学校生活で当たり前に端末や学習ツールを活用している効果もあると考えています。その意味でも、本人が使いやすい学習アプリを使えるといいと思います。
八重樫さん少し話は逸れるのですが、現在グローバル教育を推進しています。カナダにターム留学をした生徒は、自分のことは自分でしないといけないという状況になり、人としてしっかりして帰ってきたように思いました。アフリカに行った生徒もいるのですが、虫なども飛ぶ中で寝ないといけないので、一層たくましくなって帰ってきました。
ICTもそれに近いところがあって、何々をしたからこうなりましたではなくて、こういうところでプレゼンテーションをすることで自己肯定感がついたり自信がついたりして、前に出ていける生徒になるというか、タブレットPCやアプリはそのようなツールになっているのではないかなと思います。
教員に対しては、学習面はもちろん、今後は校務改善を重視した活用やツール選定も同時に行っていきたいと考えています。
教員の端末をデスクトップPCからsurfaceのようなノートPCに変更した際、教室にPCを持っていくことさえ躊躇してしまう人もいました。しかし、今では当たり前にSurfaceを出席簿と一緒に持って移動していますし、プリントや資料は印刷せずTeams上で共有するなどの変化も起こっています。
—ICTを活用することで業務改善、省力化された実感もありますでしょうか。
杉山先生Teams上でリアルタイムに情報共有できることが大きいですね。教職員間はもちろん、生徒や保護者との面談もオンラインでできるようになり、コミュニケーションの在り方が変わってきました。
—学校全体でICT活用を進めていくにあたって気を付けていることや特に力を入れていることはありますか?
杉山先生できるだけ無理を強いらないようにしています。様々な最新ツールの情報収集は継続して行いますが、まずはITに興味のある先生に利用してもらい、問題なければ全体に伝えて使ってもらうようにしています。
最近はMicrosoftが主催するICT教育の教職員コミュニティに参加して情報収集する教員も増えており、教科の集まりなどで「こういうツールがいいよ」などと共有しています。コミュニティ内で他の小学校~大学、特別支援やICT支援員など様々な方と情報交換ができるので新しい情報を得ることができています。
—ICTが活用できる環境と活用できる人材がちゃんとそろっているという点が足立学園さんの強みなのだと思います。学校全体で進められていて、しっかり予算もついているところも素晴らしいところですね。最後にこれからのICT活用の方向性について教えてください。
杉山先生新しいものをどんどん触って生徒の経験値を上げていきたいと思います。その中から自分に合うものを使っていくことや、自分なりに経験値を上げていくことが大事なのではないかなと思います。
ChatGTPをはじめとした生成AIに関しては自分で判断する力も必要で、Chat GPTの文をそのままコピペしていくのか、自分の文章の改善に活用するのかでも違っていくと思います。常に最新を知るということもしていかなければならないなと思っています。
私は授業でしばしば新しい情報を生徒に伝えるようにしているのですが、興味のある生徒とそうでない生徒がいるので、あまり掘り下げすぎずに「自分で調べてみたらどう?」と言っています。そこから使い始める生徒も、YouTubeを見たり、本を見る生徒もいるので、きっかけ作りをいっぱいしています。授業内では掘り下げていくには限界があるので。情報過多なぐらい伝えていきたいと思っています。
~ふりかえり~
足立学園では2015年からICTによる授業改革が行われ、2016年からは1人1台端末の導入が始まり、Microsoft Showcase Schoolにも認定されています。
今回各教科の様子を見学させていただいたことで、どの授業でもICTを使用することが足立学園の「当たり前」になっていることを改めて知ることができました。ICT活用は足立学園の「文化」ともいえるほど日常的なものになっており、先生たちが日々新しいツールを取り入れ、学んでいこうとされている姿勢をひしひしと感じることができました。
新しいものを導入する際には少なからず抵抗が起きますが、その抵抗は起こりうるものと捉え、無理せず、まずは「使うと楽になる」ということを体感してもらうことが必要と話されていたことからも、まずは使ってその良さを感じてみるという発想が、今後学校全体でICT教育を進めるにあたっての大切な考え方になるのだろうと思われた取材でした。