ICT活用事例校レポート

関東第一高等学校<前編>

 今回は2023年11月22日に訪問した関東第一高等学校を前編・後編に分けてご紹介します。
 前編では田中善将先生によるChatGPTを活用した情報Ⅰの授業見学と関東第一高等学校の授業におけるChatGPTの活用について、加藤雅子校長先生、三原直也教頭先生、田中善将先生に取材させていただいた内容をご紹介します。

関東第一高等学校

 

<前編>
情報Ⅰの授業見学と授業におけるChatGPTの活用について

 この日は高校1年生の情報Ⅰの授業を見学させていただきました。ChatGPTを用いて自分用のチャットボットを作るというテーマで、それぞれの関心に合うチャットボットを作るため、ChatGPTへの指示(プロンプト)を考え、入力するというプロンプトエンジニアリングの学習を行っていました。
 英検準2級合格のためのコーチボット、カウンセリングなどの知識を搭載した恋愛アドバイザーボット、生き物の飼育方法を教えてくれるボットなど、自分の課題や興味に合ったボットを作成していました。授業の中で最新のツールに触れ、学ぶことができるので、「こういう授業が楽しい!」と話す姿も見られ、生徒のみなさんにとっても新鮮でワクワクするような学習になっている様子が見られました。

 授業の後半では、今までのプログラミングの学習を復習するために、ChatGPTを用いたトレーニングを行っていました。
 答えがわからない際は、生徒自身がChatGPTに尋ねる姿や、自分で検索して調べる姿が見られました。

—ChatGPTを授業に取り入れようと思われた経緯を教えてください。

田中善将先生

田中先生管理職の先生方の広い考え方、先進的なものや生徒たちのためになることはどんどん試していきましょうという方針があった中での提案でした。
 昨年のちょうど11月にこのChatGPTが登場し、最初はプログラミングクラブで使用しました。使ってみて、生徒たちが非常に興味を示したので、「これはすごいことになりそうだね」と教員と生徒たちで話をして、情報科の教員で会議をしました。
 その中でこれはプログラミングに活かせそうだという話になりました。
 昨年の12月の職員会議で先生方に見ていただいて、関東第一高校の中には4コース、特進コース、進学Aコース、進学Gコース、スポーツコースがあるのですが、どの子にとってもメリットを起こせる可能性があると考え、学級活動や探究の授業でも使えるということを提案して、今年の1月から本格的に検討が始まりました。最初は情報科と探究科で使用し、どんなメリットを起こせるか試すという実験段階でした。
 生徒たちの年齢が16~18歳なので、ChatGPT等のビックデータを扱うサービスを利用する際には、親の承諾が必要です。管理職の先生から「ぜひやりましょう」と声をかけていただいたので、親御さんに説明した上で、スタートしました。
 今は英語科での活用も始まっています。本校は英検取得も意欲的に行っており、コミュニケーションで英語を使うことを大事にしようという運動が始まり、その中でChatGPTも活用されています。他の教科でも、この情報科と探究科と英語科で試して出てきた経験値を基に、どんなことができるかを検討していく段階に入っています。

 

—英語科ではどのように活用されているのでしょうか?

田中先生英語科の教科会で私が最初に説明したときに、スピーキングで活用してみようという話になりました。ChatGPTの方から英語で話しかけてもらって、生徒たちが英語でなんとか答えて、ChatGPTにフィードバックしてもらうという使い方をしてみました。非常に分かりやすいと英語科の先生方全員が言われたため、スタートし始めました。
 英検を行う上でも、文法やリーディングでおおむね点数を取れたとしても、やっぱりスピーキングでは別の難しさがあるという課題感があったようです。ネイティブの先生方がお話の機会を多く作ってくださっているのですが、自分でトレーニングするというシーンがなかったのです。その穴を埋めるツールになるということを英語科の先生は言われています。

 

—本日拝見させていただいた情報Ⅰの授業では生徒の皆さんが質問ボットを作られていました。プログラミング的思考を育てるために、他校様でもスクラッチを使用したり、プログラミング言語を学ぶなど、いろいろな思考錯誤をされて取り組まれているということを感じています。AIに対する指示であるプロンプトを考え、AIの回答がどのように変わるのかの試行錯誤という形でプログラミング教育が行われていると感じました。

田中先生ボットを作るのはとても難しいです。私たち情報科教員でさえ時間がかかる作業のため、生徒たちにプログラムをゴリゴリ書かせるようなことをやると、ついていけないこともあります。生徒たちにプログラミング本来の魅力である「組み上げる楽しさ」みたいなものが伝わらないという課題感がずっとありました。
 ChatGPTの本質は、曖昧な指示で動くというところです。こんな風にやってと言うだけで、本当にやってくれるので、プログラミングのハードルが低くなったと感じています。
 また、先週からボット作るというのを始めて、ちょうどChatGPT側も「ボットを作って公開しましょう」というサービスが始まったので、いい機会だなと思ってそういうことを始めてみました。
 ご覧になった通り、恋愛相談ボットや料理ボット、英検ボットなど、生徒たちが今興味のあることを作ってくれたと思っていて、その中に試行錯誤がちゃんとあって、生徒たちの中で順次処理というか、一番優先順位が高いのはこれで、その次にこういう分岐に行くよ、という風に考えて作られています。
 どんなテーマでも、そのような質問をすることでプログラミング的な流れを覚えることができます。意図としては、ハードルが下がったということと、曖昧な指示でもプログラムができるということを感じられると最高の体験になると思います。ChatGPTもそのために存在しているので行っています
 

—普段アプリやPC、タブレットを使うというのは当たり前の世界になってきていますが、それらがどういうふうに動いているのか、仕組みがどうなっているのか、ということを感覚的に学べるプログラムになっていると感じました。

田中先生部下の人に仕事を任せるときに、自分の伝えた想定と違う成果物が出てきて、それに対してより正確にこうやって欲しいと伝えるというコミュニケーションが発生することがあると思います。
 そのように指示を出せるようにならないと、なかなか自分でやりたいこと、実現したいこと、形にしたいことを人に伝えられないのですが、今の生徒たちはChatGPTがもう来てしまったので、自分の部下のようにこういうことをお願いと言えるようになったのです。
 自分でやりたいことをはっきりさせ、それをするために必要な情報を整理して、上手に伝えることをプロンプトエンジニアリングというのですが、このことを通じてコミュニケーションの大変効率のいい仕方も学べるチャンスだととらえています。それを生徒たちに伝えていきたいです。
 また、ゴールを伝え、必要な知識を与えて、ステップを与えていくこと、2学期はこれを常に一気通貫して取り組んで行っています。

 

—例えば、課題をChatGPTに聞けば、ある程度答えらしいものが出てくるということがあると思います。それが良いことと捉えられる方と、それで本当に教育になるのか?と懸念をする方などそれぞれあるのと思うのですが、先生としては、そういったことをどのように捉え、そこも含めてどのように指導されているのでしょうか?

田中先生以前から、そもそもインターネット上に情報が落ちていて、調べれば出てくることのほうが多いですよね。教科書に載っていることは全部インターネット上にあるので。
 調べれば出てくることに対して、ChatGPTだけそのように言われるのも変なのではないかなというのが、個人的な感想です。
 情報科としてこのことをどう捉えていくかという中には、2つの側面があると思います。
 1つ目はガンガン使おうねということですね。調べたら出てくるのだから、調べなさいというのが、情報科の役目の1つだと思っています。
 2つ目が、加藤校長先生、三原教頭先生も含めて、私たち教員が生きてきた時代は、知識をガンガン詰め込まないと話にならなかった時代でした。だから今、ChatGPTが出てきてそれを応用することができます。今日見てもらっている生徒たちは、ChatGPTを最初から使える。高校1年生や中学1年生の時から使えてしまう。そういった時、ChatGPTがないと何もできなくなってしまうのではないかという懸念点がでてきます。ただ、ここはまだ誰も研究していない分野です。
 暗記力のようなものはある種落ちていくのだろうなと思っています。しかし、その代わりに仕入れた情報を素早く組み上げるというような能力がこれから身につけないといけない能力だろうなと思っていて、そこは実験段階からも感じています。同じような意見を持っているベテラン先生もいらっしゃって、その通りだと思います。

加藤雅子校長先生

加藤校長先生私は国語科の教員で、ChatGPTに試しに聞いてみたりしていますが、やっぱり自分でよく知っているものに対する答えは、結局既知の事実の組み上げに過ぎないなと思っています。
 そこからは面白さもないし、新しさもないような気がするので、それを見分けられるようになるということが本当の知識というか勉強ということだろうなと思います
 ある程度は自分で知って、それを噛み砕いて、どんなふうに考えるかというところまで人間側が到達していると、ChatGPTとはいいお友達というか、いいパートナーになれるのではないかと思います。
 自分の中でどう考えるかということを養えるくらいには勉強していないと使いこなせないのではないかなとも思います。大学の先生方は、そのようなところにすでに到達しているので。おそらく拾い上げてきたものの付け焼きというか、ただ貼り付けただけのものは、きっと見破れるのではないかと思います。
 よくコピペなどで済ましてしまって、自分で考えなくなるのではないかいうふうに言われていますが、私はそういうことは思っていなくて、使う側にそれを見分ける能力を備えないといけないと思います。

 

—こういう新しいもの、ChatGPTに限らずかもしれませんが、新しいものを取り入れるときに、他校の管理職の方ともお話をすると、反対意見などが出てくることがあります。貴校でもそのようなことがあったのでしょうか。

三原直也教頭先生

加藤校長先生私は結構新しいものを使ってみなければというのがあります。これを試しにやってみよう!と。

三原教頭先生反対する方というのは、あまりChatGPTを理解していないのではないでしょうか。

田中先生慎重派の方のメディアを盲信していることが多いと思います。ゼロリスク思考というか。

三原教頭先生反対派の方はChatGPTも辞書と同じようなものだと思っていて、不完全な辞書だと思われていると思いますが、全く違います。
 先ほどChatGPTというのは、自分が知っていることだとあまり面白くないという話がありましたけれども、猛烈に今勉強したいと思った時に、すごく良い相棒になる存在だと思います。勉強したい人が使うもので、すぐ答えが欲しい人には別に不要なのではないでしょうか。

田中先生12月1日からSurfaceに基本搭載されますから、世の中が個人アカウントでどんどん使うようになるので、そういう意味では、このような議論はあと少しかなと思います。デスクトップ上のファイルを整理してくれたりもするので。保護者もその便利さなどを感じて納得してくれるようになると思います。

三原教頭先生ゲーム感覚でできるので、ChatGPTを使ってゲーム感覚で学んでいる方がいいかなと思います。

※ Microsoft Copilot for Microsoft 365

 

—最近の児童生徒さんの年代だと、どんどん手を動かしてみるというのが当たり前になっていると思います。今日の授業を拝見していても、エラーなどで思い通り動かないということも、どんどん手を動かして経験しているし、Googleで調べて、それをやってみるという生徒さんもいましたね。

田中先生今日使用したのはTry on Chat GPT といって、ChatGPTを触ったことがない人でもお試しできるサイトですが、実は全然ChatGPTの本質ではないです。裏側でこの大言語モデルを呼び出して、色々なアプリが使えるというところが、本当のサービスです。
 プログラミングクラブが関一祭という文化祭の案内サイトをChatGPTを用いて作りました。例えば、このお店に行きたいと入力したら、何階のどこにあるか案内してくれる、というサイトです。
 そこまでの道のりや地震の時の避難経路なども出てきますが、それを学習させて、サービスに組み込むということが本質で、まさに今日やったようなチューニングというものを、プログラミングを使うともっと高度にできるということが本質です。
 本当はそこまで行きたいのですが、情報Ⅰで扱える範囲ではないので授業ではあのような形になっています。

後編では関東第一高等学校でICTを活用されるようになった背景と、これからの活用についてのご紹介します。

 

 

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