今回は情報セキュリティに対応した教育機関向けプライベートGPTを導入している昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校に取材させていただきました。情報科の栗田先生にお話を伺いました。
インタビュー
—昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校での生成AIの活用について教えてください。
本校は、2023年度からChatGPT(GPT-4)を利用した「昭和GPT」というシステムを導入しています。生徒は、校内で学校Wi-Fiに接続したときのみ、昭和GPTを利用できます。使い方は基本的に自由で、生徒への制限などもなく自由に使っています。
検索エンジンと比べると、正しく指示語を入れないと意図した結果が返ってこないという面があり、出てきた結果に対して本人の経験や知識の部分で取捨選択する必要があります。また、正しくない情報が出てくる場合もあるので、それを正しいものか見極めることが必要になってくると思います。
—昭和GPTを使用している教科とその内容について教えてください。
昭和GPTは、主に情報科、社会科、数学科などの教科で活用しています。
社会科では、最初の授業で生成AIに関するリテラシーの部分、プロンプトの書き方や著作権の話、信憑性の話と言うところを生徒達に認識させた上で、その信憑性を確かめることをしています。例えば、官公庁の機関にあるデータを用いて正しいかどうか調べるという学習をしています。また、社会科で「これについて答えなさい」という学習があった際にも、ChatGPTを利用していくつかの資料を用いたレポートを書かせ、その信憑性について確かめていくという授業を行っています。
また、探究の授業でテーマを決めるときに、生成AIとのやり取りの中で一番興味のあるものを探すということもしています。例えば、SDGsについてでしたらSDGsについて特にどの部分に興味がありますか? のような形で、生成AIと対話して、5つぐらいのテーマに絞るということをしています。そのまま使うというより、1つの意見としてAIの意見を取り入れ、自分の課題に対する答えを作っていくための補助ツールとして使用しています。
—学校全体での先生や生徒の活用状況について教えてください。
現在はまだ全体の先生というより一部の先生で使われている形です。社会科や数学科や探究学習などではよく使用されていますが、ほかの教科はこれからという形です。
また、プロンプトの内容が教科に特化している内容なので、全体に共有することの難しさも感じています。プロンプトを作成する際に他教科の実績から、見出しとして使用する#(シャープ)を使うなどのスキル面のような部分では参考になるのかなと考えています。
先生の中には文章のテンプレートなどを使って業務の効率化などに活用している先生もいます。
高校生くらいになると生成AIはもうほとんどの子が使ったことがあると手を上げている状況で、生成AIを使って情報を集めることが普通になってきています。昭和GPTのような閉鎖空間の中で生成AIを使用できるのは生徒たちにとって可能性がすごく広がるのではないかと考えています。
—生成AIを使用するにあたっての今後の課題は何ですか?
生徒にはプロンプトの書き方という部分は教えていく必要があると思っています。
スマートフォンやSNSの使い方などのテーマの中に、もう一つ生成AIというものを入れて教育していくということはこれからの重要な課題だと考えています
また、生成AIで文章は作成できるのですが、スピーチの際などは自分で考えて物語を作らないと伝わらないですし、友達の雰囲気を見て話し方を変えたり、内容を変えたりなどという、その臨機応変の対応能力というところがやっぱり大切だと考えています。
うまく使ってほしいですが、一方では自分の頭で考えなければいけないといいますか、「問いを持つ」というところが必要だと思っています。自分のフィルターを通して発信することは自分の中に体験や考えがなければいけないですし、それが無ければ同じ事しか言えない人になってしまうと思います。
—昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校での今後の生成AI活用の展望について教えてください。
現時点では情報収集や文章の作成などに活用できると考えています。これからどんどん普及していって、色々な教科で生徒も思う存分に使えるようになるといいなと思っています。
例えば数学科で面白い問題を作っていたり、社会科では独自にガイドラインを作ったりしていて、それに沿ってプロンプトを作ることができます。昨年の7月に政府のガイドラインが出ましたが、例えば読書感想文を書かせるときにどのように活用するかというところが課題になってくると考えています。このような問題は、インターネットからのコピー&ペーストなどと同様で、ずっと以前から起きている問題であるため、そのような部分が今回の生成AIの登場で浮き彫りになっていると考えています。
また、データ分析に関してはある程度知識や経験値がないとできないことや、データを何年間も蓄積する必要もあることから、データの取り方やそれを活用する方法などについても今後行っていく必要があります。
評価の部分に関しても教師の主観は入ってはいけないので生成AIなどに手伝ってもらって行うのはいいことなのではないかと思います。例えば、時間割だったり座席表などもAIの機能を使って割り振ることが可能だと思うので行っていきたいです。今後はあまり人の感情を入れなくて済むものは自動化していくのかなと思います。新しく教員側が学ばなければいけないというところもありますが、やれるところはどんどん転換して行かないといけないと思っています。
また、本校では学校全体として現在「エンジニアリング」に力を入れています。レーザーカッターを使って自分でデザインしたものを作るなどということも行いました。環境が人を育てるという言葉がありますが、ある先生が新しいことを始めると他の先生もやってみようとする雰囲気が本校にはあります。また、1つのコースだけがやるではなく、全てのコースが取り組むようにしています。
色々な先生が色々なところで情報を取得して、新たな取り組みを行っているのが本校の強みであり、先進的なものを取り入れる原動力になっていると思います。
これからの教育における生成AI活用の重要性をいち早く察知し、すぐに校内で使えるシステムを導入したことが昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の先見性と決断力の高さだと感じました。
栗田先生のお話しから、学校現場で生成AIを活用する良さとともに、活用の中で学ぶべきことも多くあるということが分かりました。このことは、昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校が実際に生成AIを活用していく中で見えてきたものだと思います。
生成AIを活用した今後の教育の可能性を感じられるような取材でした。