学校法人四天王寺学園
今回は、大阪市天王寺区にある四天王寺高等学校・四天王寺中学校に訪問し、ICTの導入経緯や活用について、ICT教育推進委員の香月先生、永友先生とICT支援員の上野様よりお話をお伺いしました。
インタビュー
―導入経緯について、いつ頃からWi-Fi整備・機器・学習ツール導入をされたのでしょうか。
香月先生:そろそろICTの流れがくるだろうと予測はしていました。
2019年の夏休みWi-Fi導入し、2学期にはプロジェクターを設置、高1中3にsurface Goを配布しました。
使い方やルールよりもまずは導入が先行となりました。
高2では情報の授業もあり、2学期からの導入だったため翌年の学年で使えるようにと、先に高1・中3に配布しました。
GIGAスクール構想もあり、ICTの取り組みを考えたとき、全校一斉は無理なため、段階的に進めました。2020年の新型コロナウイルスの影響で予定を前倒しに、PCを各学年に配布していきましたが、早めに対応していたため、コロナでの休校時もスムーズな対応ができました。
―コロナ禍での対応もスムーズだったということで事前の準備が非常に効果的だったたんですね。伝統校ですと、導入に関して苦労することもありましたか?
香月先生:他校などの成功例を情報収集して参考にし、できる範囲で学校用に落とし込んでいきました。2018年にClassiを導入しており、教員側から生徒・保護者に向けて端末を通してアクセスできる状態ができていた為、本格導入への抵抗は少なかったです。
―最初から詰め込んでしまうと中々抵抗があると思うので、できる範囲から落とし込んでいくという点は重要ですね。そうした導入の際に、ICT支援員のサポートなどはあったのでしょうか、されている場合は内容をお伺いできればと思います。
香月先生:2018年にICT推進委員の教員が、前任校などの経験を踏まえて、大規模の学校では、教員が保守点検を行うのは不可能と考えておりましたので常駐の支援員は絶対に必要と判断しました。ですので、2019年の導入前から支援員の方に来ていただいております。
業務としては端末保守サポート・先生からのICTに関する質問・研修を幅広く行ってもらっています。重要なのは保守点検だけではなく、ICTに関する教員への研修があることと考えています。機器があるだけでは、意味がないのでどのようにICTの活用をするかが大事です。
導入当初はプロジェクターの利用方法の質問が多数あったため、対応出来るマニュアルを作ってもらったり、慣れてきたらロイロノートなどのアプリやツールの提案もしてもらったりしています。
きちんとした研修というより、普段の会話の中で教えられることが増えてきています。そうした部分でも支援員が常駐していることはすごく大事だと感じますね。
教員が行うと時間的にも、科目ごとの違いから客観的な判断も難しいです。
第三者に教えてもらえるので、客観的なアドバイスをもらえますし、大きな研修よりも、教員同士の口コミで情報が伝わる形がいいと思います。
一つの固まったマニュアルではなくて、マニュアルはあるけど、それをもとに使いやすいように利用できたのがよかったです。
上野支援員:2020年5月にはオンライン授業に向けて、学校が方針を決定されました。それに合わせて、Zoom研修を行いましたが、先生方も非常に意欲的に研修に参加してくださいました。
教員同士だと、お互い忙しいので、ちょっとしたことが聞きにくかったりされるようですので、ちょっとした会話を通してお悩みが解決でき、その解決策が「便利だよ」と口コミで広がるよう意識しています。
―ICT支援員の方が活用研修の実施をしたことで先生方のICT活用へ意識が向いていることが分かります。導入当初から活用に目を向けられている点はすごいですね。そうした研修の結果、休校中のツール・授業はどのようにされていたのでしょうか。
永友先生:オンライン授業は2種類実施しました。第一段階としてオンデマンド配信、録画による動画配信を実施。緊急事態宣言が延長になったため、さらに踏み込んだオンライン授業を検討しました。
そして第二段階で双方向授業、Zoom,Teams,Meetを試し、学校として何が一番使いやすいか検討したうえで、Zoomに決定し利用しました。生徒は授業ごとに教室に入れるような感覚にしたかったので、全クラス・分割・選抜授業すべて網羅できるようにアカウントを用意しました。同時に教員用のWebカメラも購入し、双方向授業に向けて、ICT支援員の方と教員と20日連続で毎日研修しました。校長・教頭をはじめ全教員がみな同じ方向を向いていたため、一気に進められたと思います。
それ以外にもZoomに関しての研修は個人のアカウントを使っても練習してもらいました。
Zoom体験会をやって、ホストを経験してもらい、そこで新しいコミュニケーションがとれたので、教員も学び合えたのだと思います。
生徒が困らないようにしたい、なんとかしてあげたい、その気持ちが強かったです。
最初はHRで出席確認から始め、実際に授業が行われる教室ごとにアカウントを設定し、生徒がいつもの教室に入るような方法で行いました。Wi-Fiがどこまで持つかを検証せずにスタートしましたので、最終的には普段より短めの40分授業としました。
―研修の効果が出ていることがよくわかります。中々時間をとることが難しい学校様が多い中、これだけ研修に力を入れられているのは素晴らしいですね。そうした取り組みの中で、ICT情報共有ツールは活用されているのでしょうか。
香月先生:以前から使っていたものを徐々にClassiに移行していきました。
しかしコロナの影響でClassiが使用できなくなり、工夫してほかのツールを先生方が積極的に使用するようになり、複数の方法が使えるようになりました。ロイロノート・ミマモルメなどの導入です。
コロナの中で、一つのものだけではなく複数で情報ツールを持つことで担任から生徒・保護者へ同時に連絡を発信するなどして連絡漏れを防いでいます。
―なるほど。複数のツールを利用することで連絡の漏れがないようにしているんですね。校務だけでなく、授業の中でICTのツール使用方法も教えてください。
香月先生:6月からの分散授業が始まり、多くの先生がPC持参で授業に向かうようになりました。プロジェクタ・スクリーンを使用しての授業が非常に使い勝手がよかったため、一気に浸透していきました。板書の時間を省けますし、授業内容の緻密さ、スピードUPにもつながっています。同じ教科内での共有もしやすくなりました。
Zoomを対面授業に使用する先生もいます。後ろの席の子や、プロジェクターが見えにくい生徒もいるのですが、Zoomで画面共有をしたり、ロイロノートで配布すれば記入も可能なのでそういった活用もしたりしています。なんでもできるんだということで、自分で色々選択して工夫していくに考え方に変わっていったと思います。
―企業での対面会議で資料共有が便利な部分を、工夫して授業でも利用して日常に入り込んでいる印象を受けます。
香月先生:ほかにも出欠確認は電話ではなくClassiで提出可能にしました。コロナ不安の生徒に対しては、定点配信での授業配信で対応しています。プリントもたまりますが、PDFで配布可能になり、更に担任だけでなく、教科担当からも配布できる状態なので特に問題はありません。緊急事態時だけでなく、発展させて今も継続しています。
―コロナ禍でも先生方の柔軟な姿勢の表れですね。
永友先生:使ってみてわかることも多かったです。光の関係でプロジェクターは実は見えにくかったのですが、使い勝手を優先して、全教室に遮光カーテンを導入することが決定されました。すべてが計画的に進めたわけではないですが、皆さんのやる気で成り立っていると感じます。現場・事務局・支援員と相談しながらいい方にうまく改善できていると思います。
―学校独自の問題・環境に対応していける対応のスピード感、やってみて問題を見つけて改善していくことが大事ですね。
香月先生:ICT化に反対する先生がおらず、反対の声が大きく上がってきませんでした。
困ったことがあれば、共有し改善に向けての行動が早いので、ICT化がスムーズに加速しています。卒業式などの式典に関しても、生徒と別会場の保護者に配信映像で見ていただきました。配信映像は自宅でも海外でも視聴できますので、式典にどうしても参加できない保護者も実際多いので、式典の映像を配信できたのは保護者にも喜んでもらっています。
学校側がどんどんICT化に踏み切ったこともあって、教員全体にもICT化が進んでいます。今や、Zoomはないと困るツールになっています。
―コロナをきっかけに始まったツールを利用して、これからもよりよい方向に活用していっているんですね。
永友先生:生徒会選挙での所信表明などをZoomで行うなどもしています。さらにClassiのアンケート機能を使い生徒会選挙は今年から全学年で電子投票を導入しました。
教員がICTに取り組んでいる姿を見ている影響もあって、生徒のスキルも向上しています。年配の教員も協力してくれています。
他にもアメリカからZoomで講演してもらうことなどもやってみました。
―前向きな土壌、風通しのいい職場、成功事例を取り入れやすい環境、使いやすいツールを色々と試していいものを活用。これらができていることこそ、成功している要因ではないでしょうか。
永友先生:よりZoomが使いやすいように説明会にも使える動画配信用のスタジオも作りました。そこでは、原稿を読み上げる際に下を向かずに、原稿が前に映る機械も導入しました。
Zoomのほかには芸術鑑賞ツールのVimeoのアプリも非常に良かったです。
Vimeoはきれいな映像を生徒が観られて非常にいいですね。
少しでもいいものがあれば、試してみて生徒が喜べばと新しいものも導入していっています。
―様々なツールを効果的に活用していることが分かります。他には文化祭や部活ではどうですか?
永友先生:去年はオンライン文化祭を実施しました。各クラスで作品をつくり、HPに載せたものを生徒・保護者に閲覧してもらいました。
肖像権・著作権・セキュリティーなどの問題がでてきましたが、子どもたちに体験させたいというということを軸足に調整できました。
高学年はすでにsurface Goを持っていてカメラもついていたので、生徒もできないというより、こんな感じかな、となんとなく感覚がわかっていたので、教師主導で作品を作ることはなかったです。デバイスがWindowsでカメラ付きだったことが正解でした。教師も生徒もWindowsで障害がなく教えやすいし、何より使いやすかったです。デバイスが違うと混乱してしまっていたと思います。
―文教用の環境・ツール選択・活用の選択もよく、混乱が少なく済んだんですね。
永友先生:Windowsに慣れているため、卒業生は大学に行っても困ることが少ないのではないかなと思います。大学が今どうなっているのかは、調べておく必要あると思いますが。
―キーボードを含め、使いやすさは大事ですね。保護者面談もZoomを利用されたのでしょうか。
香月先生:保護者からの希望があればZoomの使用もできますし、対面も可能です。
クラス・コース会では対面でも実施し、同時に配信もしています。
オンラインも使用するようになって参加率が上がりました。ご両親参加の人もいますね。説明会など録画配信もするので、保護者はその時間に参加できなくても、確実に情報を知ることができます。
―生徒だけでなく保護者も活用するICTというのがいいですね。ICTツールは個別学習・共働学習・小テスト配信・回収などには活用していますか?
永友先生:個別学習としては小テストや問題を解いたノートを写真にして提出するのが主流です。他にもAI型の学習ツールやオンデマンド配信を利用しています。
協働学習としては総合の授業でPowerPointを共同編集したり、中一の探求授業ではロイロノートやsurfaceのツールを使って発表をしたりしています。
―学習面でも様々なツールを使われていますね。Classiを利用されておりますが、学習履歴などにClassiを使用していますか?
永友先生:担任を持っている教員の中には使用している人もいます。それぞれが使えるツールを使ってくださいという感じです。担任の先生が独自に、生徒自身が勉強時間のコントロールをするのに使っている事例があります。学校から使うように指示をだしているわけではないのですが、この雰囲気が教員にとって非常にいいと思います。他にも「模試自己採点の提出・目標設定・次にやること」などを提出させるのに使うことがあります。
ツールはあるから、使うかどうかは教師自身で選択できるようになっています。
―使えるツールを使ってくださいというのは、できる範囲から落とし込んでいくという部分に通ずるものがありますね。これからの展望・活用法やビジョンをお聞かせいただければと思います。
永友先生:今、上野支援員からの提案で、デジタル採点システムの導入を検討しています。
上野支援員:先生方の業務効率化につながればと思い、ご提案し、検討を進めています。
現在は、無料トライアルで、実際使ってみて、実際どれくらい業務時間が短縮するのか検証していこうと思っています。そうした改革によって、業務短縮で生徒の為により時間を使える環境をICT化によって実現できればいいと思います。AIとICTの融合が目標になります。
―どんどん挑戦していき、新しいものを取り入れていく姿勢ですね。
香月先生:教員がしっかり時間を使えるように、便利なツールを使うように考えています。
紙よりもデータ。授業や作品もデータで残るようにして先輩から後輩に残していきたいですね。ICTに順応してきているので、何がこれからできるようになっていくか楽しみが大きいです。ICT環境があるから、それによって可能性が広がっていると感じます。ルールに縛られなかったのがよかったのかとも思います。結果としてICTが日常にうまく溶け込んでいます。
まず生徒中心に考えて、教師と生徒が接する時間を増やすことを第一に考えて、便利なものを取り入れたいです。経営者の考え方・決断が速いと、校長先生も旗を振りやすい、そして教員たちも動きやすいと思います。
―雰囲気が作りづらい 経営陣の決断が得られないことを悩んでいる学校も多い中、生徒の為のベクトルで動けているところが非常に魅力的です。
ありがとうございました。
インタビュアー:岡田育也(コアネット教育総合研究所 新教育推進室)