ICT活用事例校レポート

ICT×AL推進 生徒・教員1人1台iPadの利用 佼成学園中学校・高等学校

(2019.8.22)

佼成学園中学校・高等学校
ICT×AL推進 生徒・教員1人1台iPadの利用

今回は、ICT導入にいち早く取り組み、教育関係各所でICT活用事例が取り上げられている佼成学園中学校・高等学校の簗瀬教頭を訪問致しました。今回の取材では、佼成学園中学校・高等学校でのICT導入までの経緯やICT活用事例、そして成果と課題などを、簗瀬教頭よりお話し頂きました。

教頭 簗瀬 誠 先生

 

佼成学園のICT推進の経緯

佼成学園でのICTへの取り組みは、2011年の電子黒板を検討するところから始まります。2012年には韓国へ視察に赴き、2013年には校内にICT委員会を設立しました。2015年に全教室に電子黒板プロジェクター・Wi-Fi設備を整え、当時の高校1年生に1人1台iPadを購入して貰いました。そして2017年には全学年1人1台のBYODが実現し、現在に至ります。ICT推進の主たる目的としては、21世紀型能力を育成することのほか、本校教員の指導において「引き出し」を増やしたい、そして本校がICT教育といった社会の変化に対応できる学校でありたいということが挙げられます。
本校の特徴であるコミュニケーションを大切にしながら、身の丈に合ったICTの利用を進めています。(図1参照)

 

学内でのICT活用推進の取り組み

本校も、組織としてICT活用を推進していくことの難しさを経験しております。余程の状況でもない限り、文化を変えていくことは難しいことですから、浸透するまでには時間がかかることだと考えて気長に行っています。ICTを導入してからは、職員会議で実践報告を行いました。最初はこんな使い方していますよという程度のものでしたが、ある先生がジグゾー法とiPadを使った素晴らしい授業の発表をして、皆にとって大きな刺激になりました。他にも、教員に対して、システム業者に利用方法説明会や外部講師を招いての講演を行ったことがあります。一番効果的なことは、年1回のICT授業公開ですね。生徒募集と兼ねることで、ICTを用いた授業を工夫するようになりました。しかし、教員自身がICTで学んでいない、電子黒板やタブレットを使用した授業を受けたことがないにもかかわらず、電子黒板やタブレットを利用して授業をしなければならない。経験したことがないことをやらなければなりませんから、やはり、すぐにICT活用が浸透するものではないと思います。浸透するのに時間がかかることは仕方がないことでしょう。

 

佼成学園のICT活用と事例

本校ではiPadをBYODで導入しています。導入初期は容量の小さいものでしたが、活用が進むについて生徒たちから容量が足りないという意見もあり、現在では128GBのものを使用しています。生徒用のiPadには、モバイルデバイス管理のシステムを入れ、AppStoreを非表示にし、代わりに教員や生徒のリクエストにより認められたアプリをダウンロードできるようにしています。また、英語のデジタル教科書や「Classi」・「ロイロノートスクール」・「スタディサプリ」などを利用しています。

ホームルームやクラブなどの連絡においては、「Classi」を使用しています。本校では、特に「校内グループ機能」をよく活用しています。保護者も閲覧できるため非常に好評です。ペーパーレス化にも有効ですので、先生方の打ち合わせにも使っています。生徒・家庭・教員間のコミュニケーションが増え、ICTの“C(Communication)”が、より充実しました。

授業では、1人1台のiPadを活用し、新たな授業形態へ挑戦するようにしています。(図2・3参照)

 

例えば、英語の授業では「ロイロノート」を利用し、スピーキングテストを、組織として全学年定期考査においてCBT方式で導入しました。これは、全国で本校が始めての取り組みであると言えます。定期考査ではスピーキングテストを必ず実施するようになり、授業内でのスピーキング活動やライティング活動も増え、生徒も積極的に、音読・シャドウイングするようになりました。(図4-1・4-2参照)このような新しい授業を行っていく中で、確実に教員の「引き出し」が増えつつあると実感しています。

 

グローバルにICTを活用している事例としては、海外大学でのプレゼンテーションが挙げられます。海外でiPadを利用して、知的レベルの高い内容を、英語で発信することや、スライドを完成させる中で高度な内容・表現を英語で学ぶことができます。

部活動においても、iPadを活用しています。もしかすると、部活動での使用が、一番のアクティブラーニングかもしれません。本校のアメリカンフットボール部は日本一になったのですが、相手校のフォーメーション研究やミーティング時にiPadを使用しています。生徒からも、iPadの導入によりミーティングが楽になったとの意見があります。

 

eポートフォリオについては、授業の振り返りを次のステップのために活用していこうとしています。本校ではeポートフォリオの実証研究として、教員が教える授業ではなく、生徒たちが学び合いとeポートフォリオでの振り返りを中心とする授業を行いました。開始直後に書かれた生徒の振り返りでは、事実・次の行動・感想しか書かれていませんでしたが、1ヶ月後には、書き方を工夫し自分の学習方法についての具体的な分析、次に向けての具体的行動について言及するように変化していました。この授業を通して、生徒の振り返りが深まり、学びに対して主体性が増したほか、定期考査での平均点が上昇するという結果に至っています。

ICTを使って、ルーブリックの利用も行っています。聞き手がiPadで発表者を撮影し、「ロイロノート」を用いてルーブリック評価を発表者に送ることで、生徒間での相互評価が可能です。(図5-1・5-2参照)ジグソー法とルーブリックを組み合わせた授業も行っています。iPadを用いての調べ学習、「ロイロノート」を使用してグループワークを行い、発表し相互評価を行うのですが、授業アンケートの評価は概ね肯定的であり、講義の少ない授業でも生徒たちは十分に問題に対応できる学力が身についているという結果が出ています。このような結果からも、ICTを利用した授業をたまに取り入れることで、教員の「引き出し」が増えていくと考えています。

ICT活用教育の効果検証

本校では、ICT活用について、実証研究を行っているほか、定点観測として毎年高校1年生に対してアンケートを取っています。
生徒たちの活用度合いについてのアンケートにおいても、6割以上の生徒がiPadを利用して学習を進めており、分からないところや気になることをすぐに調べられる、授業でよく使われているというようなことが、ICT活用の肯定的な理由として挙がっています。一方で否定的な理由としては、ICTを遊びに使ってしまう、欲望に負けてしまうというのもありますが、ICTを使っている教科とそうでない教科がある、使ってない先生がいるというものも不満として挙がっています。これについては、ICTを使った授業と使わない授業について、どちらが良いと思うのかというアンケートも行いましたが、6割の生徒がICT活用型授業を好むとの結果が出ています。学力についても、先ほど述べたとおり、実証研究の結果で、定期考査での平均点が上昇する結果に至っていますから、従来型の授業は否定されつつあると言っても過言ではないでしょう。(図6参照)

また、2017年に常勤・非常勤含めて教員に対しても、ICT導入後の授業について変化についてアンケートを実施しましたが、7割以上の先生方が、自身の授業スタイルが変化したと回答していますので、ICT推進について概ね上出来と思っております。

 

佼成学園の成果と課題

ICT推進の成果ですが、教員の「引き出し」が増えたことで、生徒の学びや授業スタイルに変化がありました。また、生徒・教員間のコミュニケーションが密になり、本校の特徴である生徒と教員間の距離の近さもより確かなものになったように思います。そして、ICT導入から現在に至るまで、色々なことに挑戦してきた中で、学校自体も大きく成長したと言えます。今回のように、他校の先生方が本校のお話を聞きに来てくれるような機会や、こちらから他校へお話をしにいく機会も増えました。2013年当初の目的は、達成できたと考えています。

今後の課題として、一つ目は変化しない体質との闘いが挙げられます。従来通り、例年通りならば問題がない状況で、前例の無いことに如何に挑戦していくのかということですが、これからの教員は、先例のないことに挑戦する姿を生徒たちに見せることで、彼らのロールモデルにならなければいけないと考えます。二つ目は、生徒のゲームやいたずらなどの目的外使用や不適切な使用への指導や対応です。生徒たちが自らの学びのために自らを律して適切にICTを利用するように育成していきたいと思っています。三つ目は、管理についてです。初期不良・破損・修理はどうしても出てきますし、パスワードを忘れてしまうようなことも起こります。また複数のシステムを利用しているため、アカウント管理も大変です。これらをどのように解消するのかが、今後の課題と言えます。

最後に、ICTは使い方次第であり、ICTの利点を活かすことで時空を超える学びを与えることができます。ICT利用を推進していくことにより、生徒・教師・学校がより成長していくのではないでしょうか。

 

(2019年6月11日 取材)

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