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【セミナーレポート】デジタルを基盤とした「ミライの学校」への挑戦

今回は2024年6月27日に行われた2024教育DX推進セミナー第2回「デジタルを基盤とした「ミライの学校」への挑戦」の概要をお伝えします。セミナーでは兵庫県・雲雀丘学園中学校・高等学校の道北秀寿教頭先生よりお話を伺いました。

1.雲雀丘学園中学校・高等学校の特色について

本校では7年前から、学力や進路目標別によるコース制をやめ、中学から入学する生徒は全員「一貫探究コース」、高等学校から入学する生徒は全員「文理探究コース」で学んでいます。

中学校3年生の探究の授業では「自分で作る研修旅行」に取り組んでいます。2年生の冬休みに生徒一人ひとりが、「自分が行きたい修学旅行のプラン」を作り、それをクラスで発表します。そして、クラス代表に選ばれた生徒は学年全員を前に発表し、最終的に6コースが選ばれ実行に移されます。

本校の中学生は「自分で決める」という経験が非常に乏しいと感じています。今までの教育活動のなかでは、そのような機会が十分ではなかったのではないかという反省があり、「自分で決める」という自己決定経験を持たせたいという思いから、このような取り組みを進めています。

また、本校では探究学習を授業外にも課外活動として行っています。「Hibari探究ゼミ」と題して、校内で本校の先生が、自身の興味に応じて放課後等にゼミ活動を行っています。また、「Hibari探究プロジェクト」として、夏休みなどに校外に出かけ、研究者や専門家、企業の方と探究学習を行うプログラムも行っています。今年の夏休みも多くの大学・企業の協力を得て、遠くは東京まで出かけるプロジェクトも実施します。これらはすべて本校オリジナルで、教員が企業と直接交渉しながら企画を練っていきます。このような取り組みは「探究」という言葉が登場する15年以上前から行っています。そのため、本校の教員は抵抗なく探究学習を前に進めることができていると感じています。

2.DXハイスクールの指定を受けた経緯

本校は2024年度より、2つの研究事業を行っています。文部科学省の「高等学校DX加速化推進事業」いわゆる「DXハイスクール」と兵庫県の「HYOGOグローバルリーダー育成事業」です。

「DXハイスクール」は端的に言うと「情報Ⅱ」を教育課程に含めることをねらいとしており、どちらかというと理系によった内容です。一方、「HYOGOグローバルリーダー育成事業」は、探究的な学び、グローバル教育全般に関わる幅広いテーマを対象とした研究事業です。本校の場合はこの2つの研究事業を一体として「データサイエンスを基盤とした文理融合型探究人材の育成」をテーマに掲げ、教育活動の体系化・再構築を図っていくこととしています。

本校は2019年4月の中学新入生からiPadを導入しました。導入した1年後、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われました。休校となった2020年3〜5月、生徒端末の必要性を感じ、すぐに全生徒分の端末の確保、校内通信環境の強化・整備に着手しました。

新型コロナの流行も落ち着いた2022年、情報教育をもう一段階前に進める検討を行った時に、高校生の端末がiPadでいいのかとの意見がありました。これから必要となる高等学校におけるプログラミング学習、探究の論文作成、表計算ソフトによる統計分析などを行うにはWindows環境が必要だと考え、2023年度から高等学校はWindowsタブレットに切り替えています。

3.学校現場におけるデジタル化

学校現場におけるデジタル化については、特定の作業をデジタル化する「デジタイゼーション」に始まり、プロセス全体をデジタル化する「デジタライゼーション」、それから今回非常に大切な、モデル全体をデジタル化するという「デジタル・トランスフォーメーション」を目指すことが、現在の教育における最大の課題だと捉えています。

デジタイゼーションについては、パソコンでプリントを作成したり、パソコンで出力したりすることで、多くの先生が新型コロナの流行前から当たり前に行っていたことと思います。
 デジタライゼーションは新型コロナで一気に進んだように思います。これは、プリントを生徒に配信するなど、今まで行っていた作業をそのままデジタルに移行したものです。

DXには「デジタルによる新製品・サービス」という意味が含まれます。教育においてこれまでにない「新製品」を作らなくてはいけない。そこを考えていこうということがDXハイスクールの重要な点なのではないかと考えています。「これまでできなかったことをデジタルで実現しよう」を掛け声に、学校全体で取り組むことこそDXハイスクールのテーマだと思っています。この点では本校もまだまだ発展途上です。

また、ここには生徒の能動的な態度が大切とも書いています。これは本当にその通りで、「学校現場として望ましい端末の使用」の実現は教員だけではできません。生徒がどのように考え、動くかがとても大切で、「今までできなかったことを学ぶために」と、端末使用のマナーなど生徒たちに協力を求めなくてはいけない場面も多いと思います。本校では、探究ゼミ・プロジェクトで少人数の生徒たちと直接やり取りすることが多いので、その中で端末の使用について意見を交換しています。

4.DXハイスクールに挑戦する理由

なぜ本校がDXハイスクールに挑戦するのかということをお伝えしたいと思います。

現在国内ではデジタル人材不足が深刻です。もちろん、社会の変化をまったく拒絶したり、社会から切り離された状況で学校を運営したりはできません。社会の流れや社会の要請は一定程度聞き入れるべきとも思いますし、「デジタル人材の育成を強力に図る」という国の主張には一定の説得力があると私は思っています。

また、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校がどのような教育活動を行っているか、DXハイスクール指定校は知っておく必要があると思います。さらに、公立も私立も含め、特色なく他と同じ学校だと、これからの存続は難しいのではないかと私は思っています。

この10年間の高校入試において、本校の併願校(主に公立)が大きく変わりました。本校を併願校とする学校、いわゆる「ライバル校」のほとんどはSSH指定校です。そのため、SSH指定校の取り組みに負けないようにといつも考えています。

また、DXハイスクールの指定を受けると補助金が交付されます。これを活用して、大学の先生などの専門家とのつながりを作ることもできます。大学研究者と個人レベルでの付き合いはできるのですが、研究指定なしでは組織と組織のつながりが作りづらいです。専門家、研究機関との連携を強固に、継続的にするにはSSHやDXハイスクールの指定は非常に意味があると考えています。

そして、広報の面から言えば、学校の「特色・魅力づくり」ができることが大きいです。「あの学校に子どもを行かせれば、こんなことをしてくれる。デジタル分野ではこんなことができる」というように、話題になることが大切で、そのような学校作りをしていきたいと考えています。

また、校内的には、教員のレベルアップ効果、研究や研修体制の充実の効果もあります。さらには、研究指定を契機として教育課程を変えることにもつながります。

5.DXハイスクールを推進する方法

DXハイスクールを進めて行くには、すべての教科科目で取り組むことが大切だと本校は考えています。デジタルは専門性が高いだけに「一部の先生、得意な先生がやればいいでしょ?」という雰囲気になりがちですが、それだけは絶対にダメだと思います。また「一部の生徒だけがやればいいんだよね」という考え方も違うと思います。これは国も言っているように「すべての人がデジタルに通じて、デジタルに明るくなること」が目的だからです。本校ではすべての生徒を対象とし、すべての教科・科目で取り組むことができる仕組みづくりを現在考えています。

運営組織については、紫色部分の新領域授業委員会を中心としています。緑色部分の管理職も新領域授業委員会の会議に毎回参加し迅速な意思決定を行なっています。青色部分が有識者による外部委員会で大学・企業の専門家の先生に依頼しています。

このなかで、探究科・情報科・グローバル探究部はそれぞれの授業内容の開発・検討を、教務部は教育課程の編成、カリキュラム委員会の運営を担います。教務部長・副部長を含む新領域事業委員会委員会で教育課程の原案を作り、カリキュラム委員会で審議するよう、これまでの教育課程編成の方法を変更しました。

教育課程については難しいところだと思います。これまでの教育課程の編成作業は、各教科に必要単位数を提案してもらい、それらを合わせてカリキュラム委員会で調整していましたが、各教科にとって教科書を終わらせるには単位数が必要で、どの教科の単位数を減らすのかで揉めてしまうことが多かったと思います。反対に減らさない方針をとると、7限授業の実施、土曜日授業とどんどん授業時間が増えていってしまいます。こうなると、「生徒たちのことを考えているの?」となってしまいます。生徒が「1週間どのように勉強しているのか」という生徒の状況を考えず、教員側の事情だけで教育課程を決定することは非常に問題であると思います。

DXハイスクールに関し、情報Ⅱをどのように教育課程に盛り込むのか悩みました。本校では、今までと違う視点で「教育課程を見直しませんか?」という流れで教員にアプローチにしました。情報Ⅱについては、理系は全員必修にしました。単位数については情報と探究を一体にして考えることで調整しています。授業の運営体制も情報科だけで行うのは難しいので、教員配置や実習助手について、現在調整しているところです。具体的には、「データサイエンス(DS)探究基礎」を高校1年に入れ、数学科が担当します。「理数探究」は高校2年で理科が担当します。

そして、大きな問題は情報、数学、理科以外の教科に、DXハイスクール事業をどのように展開していくかです。本校では「データサイエンス(DS)探究実践」を高校2年文系に設置し、「スポーツ科学実践」としてスポーツとデータサイエンスを組み合わせた取り組みを保健体育科が、「生活科学実践」として福祉などに関する問題をテクノロジーで解決する取り組みを家庭科が、「地域科学実践」として地理・公民の授業でデータを使った授業実践を地理歴史・公民科がそれぞれ企画しています。さらに、国語科が探究の論文指導を、英語科が英語による発表活動の指導をそれぞれ担当するよう計画しています。

授業開発の段階で、「データサイエンスがわからない」「情報機器の取り扱いがわからない」という教員がいれば、大学で研究されている先生を紹介し、相談できるようにするなどをして、すべての教員が能動的に関与する体制づくりを目指しています。

最後に施設整備のことですが、本校は「これをやるから、これがいる」という考えを徹底しています。まずは「このような授業がしたい」を明確にしてから、必要備品を考えることが大切だと思います。本校ではまず、多くの授業で活用でき、オンライン授業やオンライン集会などにも使える「スタジオ」を整備しようと考えています。

よく、3Dプリンタを導入すると耳にしますが、それを使う(使える)教員が異動したらどうするのでしょうか? 教員個人に必要な備品ではなく、学校全体として推進する授業内容に必要な備品を購入するというスタンスが大切だと思います。

6.まとめ

1つ目に私がいつも考えているのは「生徒たちはどんな環境で何を学びたいと思っているのか」ということです。最近本校の生徒は、「こんな探究をしたいからゼミ作ってくれませんか?」と逆に提案してきます。このような生徒の姿勢には本当にうれしくなります。

2つ目に、「生徒たちをどんな環境に置けばやる気を出すのか」を考えるということです。「やる気は絶対みんなの心の中にあるから、それが出るか出ないかが問題。どんな環境、どんな学校だったらやる気が出るんだろう?」とよく生徒と話しています。おそらく生徒がやる気を出しやすい学校と出しづらい学校があるのではないかと私は思っています。「人がやる気になる環境」について教員一人ひとりが自らの学習経験に基づき考え抜くことが、この議論のスタート地点なのかと思っています。

3つ目に、「DXハイスクールは『なりたい学校』から考える」ことです。ここで紹介したことは私がこの数年やりたかったことです。もちろん一人では決めてはいません。「こんなことやりたいね」と周囲の教員に、ときには一緒に食事などしながら話してきたことです。

そして、4つ目は「全員でやる」です。理系の内容が中心のSSHでは全員の教員で取り組むことは難しいですが、DXであれば、その対象も広く全員で取り組むことは可能だと思います。

最後に「大学受験の先を生徒に見せること」。もちろん、私立学校である以上、大学入試は気になりますし、結局「進学実績」で周囲から評価されることも事実です。しかし、私は説明会でよく「2つ先の段階を考えませんか?」と話しかけます。さらに「大学院は? 就職は? 10年後、お子さんはどこで何をしているのか考えませんか?」と問いかけます。本校が、グローバル教育や企業との探究学習を進める理由がここにあります。

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