
国際教育センター主任 能城 黎先生
2025年11月19日に取材した啓明学園中学校高等学校について紹介します。
啓明学園中学校高等学校は帰国生や外国籍の生徒が多数在籍する中、一人ひとりに合わせた授業を展開しています。
前編では国際教育センター主任の能城 黎先生より、多様な背景を持つ生徒一人ひとりに合わせた授業をどのようにして実現されているのか詳しく伺いました。
啓明学園中学校高等学校では多様な背景を持つ生徒が在籍している中、一人ひとりに合わせた授業を実現していると伺いました。どういった工夫をされているのでしょうか。
本校は、中学生が学年2クラスの約60名、高校生が学年4クラスの約120~130名で、そのうちの約35%が「国際生(帰国生や外国籍の生徒)」です。帰国生を受け入れるところからスタートした学校で、もう85年ほどになります。
本校は英語の授業以外、すべて日本語で授業を行っていますが、帰国生や外国籍の子どもたちが日本の教育環境やカリキュラムにソフトランディングできるよう、自分の強い言語を活用しながら、日本語で学べる環境を整えています。主要四教科である国語・数学・理科・社会については、正規の時間割の中で「取り出し授業」を行い、やさしい日本語や自身の母語を使いながら学べるようにしています。本校では「国際プログレスクラス」と呼んでいます。
また、オールイングリッシュで学ぶ「国際英語クラス」のほか、英語以外で学習をしてきた生徒用の「外国語保持クラス」を5つの言語(中国語・韓国語・ドイツ語・フランス語・スペイン語)で設け、海外で身につけた言語を維持伸長させます。
時間割も特徴的で、通常の時間割(クラス単位)を一度組んだ後に、取り出し授業クラス用の時間割を新たに組みます。その後、生徒一人ひとりの学習状況に合わせた「個別の時間割」を作成しています。同じ国際生であっても個々の学習歴や日本語力は異なるため、個別にどの教科を国際プログレスクラスで学ぶかを決めます。そのため、同じ学年・同じクラスであっても、一人ひとりの動きはばらばらになっています。
例えば、ある生徒の時間割は主要教科すべてで取り出し授業、別の生徒は国語と数学のみ取り出し授業、さらに別の生徒は国語と社会と化学基礎のみ取り出し授業、というように異なっています。そのため、同じホームルームに所属していても、ある生徒は月曜日の1時間目に国語、別の生徒はその時間に物理基礎、別の生徒は数学を行う、という形になります。中学1年から高校3年までこのような時間割になっています。

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- 中学1年生の時間割例
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- 中学3年生の時間割例
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- 高校1年生の時間割例
「個別の時間割」など生徒一人ひとりに合わせた授業を提供されているのが非常に特徴的ですね。
「国際学級教室」では、国語と数学の取り出し授業を行っています。生徒はみな個別の時間割で動いているため、同じ時間に複数の学年が同じ教室で学ぶ状況が生まれますが、本校では日常的なスタイルです。
中学生数名と高校生数名がきて一緒に学ぶなど、横のつながりだけでなく縦のつながりが非常に作りやすい環境になっており、後輩は先輩たちから学習面や生活面について「どうやって学んでいるか」「何を使って学んでいるか」「困った状況にあった際にどのように対応したか」といった情報を得ることができる場にもなっています。
教師も生徒の困りごとに対してあえて先輩の生徒につないで、「自分はこういうやり方をしたよ」とアドバイスしてもらうこともあります。このような「ピアサポート」を大切にしています。
英語が得意な生徒や、第一言語が英語で、ほぼ初めて日本で高校生活を送る生徒の場合は、教科の先生が英語でその教科を学習できるサイトを紹介したり、事前に英語で予習をしてから授業に臨むといったこともしています。
私は国際学級の国語を担当していますが、学年ごと、クラスごとにまとまって授業をするわけではないため、個々のレベルに合わせた教材を自校作成しています。教材は一人ひとりに配布し、基本的には自分のペースで取り組める形にしています。同じ時間に集まってはいますが、集団授業というより、それぞれが自分の課題に取り組みながら、学ぶための日本語を鍛えていくスタイルです。
課題の最後には作文を設定し、生徒自身が思考することも重視しています。考えるときは、自分の強い言語を使ってよいことにしていて、例えば英語が得意な生徒であれば、英語で考えを整理し、方向性を決めてから、アウトプットは日本語で行うという形にしています。
思考の相手としてAIを活用することも勧めています。テーマの設定や、結論に持っていくには何が必要かといった壁打ち相手として使います。ただし、アウトプットは必ず自分で書く、ということは確認しています。
国際学級から通常のクラスに戻った場合も、すべて日本語で授業を受けることに慣れない生徒もいます。その場合、パソコンの翻訳機能などを活用することも認めており、教員によっては、まとめや記述を自分の言語で書いてよい、としている場合もあります。
最終的には日本語でできるようになることを目指しますが、そこに至るまでの過程は個人差があるため、一定期間は柔軟に対応しています。



先生方はどのような点を意識して指導されていますか?
学校全体として「自己肯定感を育む」という考え方を大切にしています。
帰国生や編入生は、生徒本人の意思ではなく、保護者の都合で本校に入学するケースがほとんどです。国が変わり、言語が変われば、それまでできていたことができなくなるのは当たり前です。もどかしさを感じることもありますし、人間関係もリセットされ、文化や流行も違います。そのため多くの場合、マイナスからのスタートになります。
今まで学んできた内容や文化などが違うのにも関わらず、一律の基準に当てはめてしまうと、どれだけ努力しても結果が出ず、「自分は能力が足りないのではないか」、「自分はできないのではないか」という感覚が植え付けられてしまいます。
本校では授業の中で、「努力すれば結果がついてくる仕組み」を作っています。それが自己肯定感を育てるうえで、とても大事だと考えています。
成績は極力、個人に対する絶対評価に近い形で付けています。取り出しのクラスでも、きちんと成績が取れるようにしています。そして、最終的には通常クラスに戻れるよう、単元をそろえ、できるだけ同じ内容を扱っています。同じ内容でも、やさしい日本語で学べる少人数環境にすることで、質問しやすく、相互にフォローし合える場になっています。
このような環境のもと、国際生はそれぞれの言語の力を伸ばしていきます。そして、多くが難関私大への年内入試や一般入試、さらには国公立を目指します。そのため、それぞれに応じた進路選択を実現していけるよう個々の持つ言語を伸ばしながら、進路実現に向けたサポートを行っています。
外国籍の生徒等で、より日本語の基礎的な支援が必要な生徒については、国語を日本語に置き換えて学ぶ「日本語クラス」も設けています。このクラスでは日本語教育を専門に学んできた教員が担当し、中学1年から高校3年まで合わせて、毎年15人ほどが在籍しています。早い子では1年ほどで基礎が身につき、国語の取り出し授業に移行する生徒もいます。外国籍の生徒に対しては大学進学のために、日本語能力検定のN1やN2を在学中に取得できるようサポートしています。
国際生はどのように受け入れられているのでしょうか?
本校では、編入を随時受け入れています。学期途中の編入も可能で、高校3年生の9月編入まで受け入れています。多くの学校では、年度の最初のみ受け入れるというケースが多いですが、それには課題もあると考えています。海外の学校では、学年や修了の考え方が日本と異なるため、途中で帰国した場合、そのままでは大学進学に不利になるケースが出てくるからです。
例えば、アメリカの大学では、中学や高校の修了が認められていないと、大学の出願自体ができない場合が多くあります。そのため、本校では修了を重視し、途中からでも学べる仕組みを整えています。毎年多くの編入生を受け入れていますが、個々の学習歴や履修状況などの情報を常にアップデートし、各教員へ周知しています。
学年ごとに、生徒一人ひとりについてどの教科を国際クラスで受けているか、どの教科を通常クラスで受けているかを一覧で管理しています。変更があれば、その都度修正し、時間割も更新しています。
学期末には各教科から生徒のクラス分けについての相談が来るため、そちらをもとに、本人の状況と時間割を確認し、年明けには各教科の教員に共有して、クラスの変更を行っています。このような調整は時期を限らず常に行っています。
生徒の学習管理や進行の方法も教えてください。
私も所属している国際教育センター(国際教育部)で帰国生・外国籍生徒の学習管理、運営、調整を担っています。
業務内容は学習面だけでなく、進路やキャリアに関することも含まれています。海外経験が長い生徒の場合、日本の学校文化やルールに慣れるまでに時間がかかることがあり、成績表の見方や学校生活の進め方についても、丁寧に説明しています。
また、文化的な違い、時間感覚や友達との距離感、男女の関わり方など、国や地域によって考え方が大きく異なります。実際に違う国からの帰国生の間で価値観の違いが表面化することもあります。そうした場面では、双方に説明を行い、調整を行います。
生徒から「この地域について学びたい」、「この国に関心がある」といった声が上がることもあり、そのような場合には、国際交流部やキャリアに関わる部署と協力し、「チャイナデイ」「ラテン・アメリカンデイ」などのような企画を立ち上げ運営しています。
国際生が多いこと自体が本校の大きな特徴であり、強みです。その環境をどう教育に活かすかを、常に考えながら取り組んでいます。
インタビュー後編では、啓明学園中学校高等学校におけるICT・AIの活用についてお話を伺いました。(後編に続く)












