ICT活用事例校レポート

大阪信愛学院小学校(前編)小学校から取り組む情報教育

小学校から取り組む情報教育
―ICTを「特別扱いしない道具」にできるスキルとリテラシーの育成を目指して―

2025年10月9日に取材した大阪信愛学院小学校についてご紹介します。大阪信愛学院小学校では、学校設定科目として、2週に1コマの「情報」の学習を行っています。また、コニカミノルタジャパン株式会社が開発した、tomoLinksの対話型生成AI「チャッともシンク」を授業に導入しており、今回は実際の授業見学と先生へのインタビューを行いました。
前編では情報専科の高橋 脩先生に、大阪信愛学院小学校独自の情報カリキュラムについて伺い、後編では生成AIの学習活用のお話と実際の授業の様子をレポートします。


大阪信愛学院小学校(大阪府大阪市城東区)
カトリックの精神に基づく「一人ひとりを大切にする」教育で、信頼と愛の心を育み、明るく健全な未来を担う人づくりを目指している学校です。豊かな心と確かな学力を育てるため、少人数教育の中で対話的な学びや体験的な活動を重視。英語教育やICT活用教育に早くから取り組み、これからの時代を自ら切り拓く力を育てています。温かな共同体の中で、子どもたちは「信じ、愛し、行動する」ことを日々の実践を通して学んでいます。

大阪信愛学院小学校では、約20年以上にわたり独自のカリキュラムで情報教育を行っていますね。小学校6年間でのカリキュラムの全体像を教えてください。

本校では、1年生から6年生を通して体系的にICT教育を展開しています。ざっくり言うと、
 ・1〜3年生:基礎スキルの習得期
 ・4〜6年生:応用・発展期
という形です。
1〜3年では、キーボードやマウス操作、ファイル保存などの基本操作に加え、プログラミング的思考の基礎――たとえば「順序」「繰り返し」「分岐」「変数」といった考え方――を学びます。また、フローチャートを使って「処理の流れ」を可視化する練習もしています。

4年生以降は、センサーやモーターを扱う外部出力の制御へ進みます。同時に、情報リテラシー面――マナー、著作権、ファクトチェックなど――を含めた教育も実施しています。

1年生 コンピュータ機器の名前を覚え、自分の名前のローマ字入力やマウス操作をする。タブレットで自己紹介ポスターを作成するなど自分のイメージが実現できることを学ぶ。また、コンピュータが生活の身近にあることを学ぶ。
2年生 名前以外のローマ字入力を行い、様々な新聞を作成する。また、コンピュータの中の動きについて学習し、コンピュータがどう動いているかを図にまとめる。
3年生 プログラミングの基礎を学ぶ。ブロックプログラミングを使って、プログラムの3要素を学び、算数の図形やゲームなどのプログラミングを行う。また、インターネットの適切な使い方についての学習をする。
4年生 ロボットプログラミング、超音波や光のセンサー、「光」や「音」を使った表現にも取り組む。音楽で習った歌をプログラミングしたり、ロボットと一緒に演奏したりと「表現」にも力を入れる。デジタルでのコミュニケーションやインターネットの仕組み、個人情報の扱いなども学ぶ。
5年生 4年生までに勉強したモーターやセンサーなどを用いたプログラミングについて取り組む。センサーで動くおもちゃやオルゴールなど、実際の「制作」を通して、プログラミングされたモノを作る体験する。また、デジタルシティズンシップの育成を念頭に、様々な権利など、これからの社会に必要とされるスキルを高める。
6年生 6年間の集大成として自分で考えたプログラム作品を制作する。様々な企業からの課題や学校生活の問題などを分析し、解決する方法をシンキングシートでまとめ、プログラミング・動画・画像・テキストなど様々なツールで発表する。また、企業との交流などを通して自分のキャリアについての考えを深めたり将来に向けての思いを培ったりしていく。

高校段階での情報を先取りで学習している印象ですね。

もともと私は前任校の高校で情報を教えていました。そこで生徒の様子を見て「圧倒的なスキル不足とリテラシー不足」を実感しました。10年以上前の話ではありますが、高校生でもタイピングができない生徒や、なかには電源ボタンが分からずPCを起動できない生徒もいました。

私が本校に着任してから8年間、試行錯誤を重ねています。学習指導要領では、小学校での情報教育は教科として体系的には定められていません。そのため、私が小学校での情報の授業で重視しているのは、高校で実感したスキル不足やリテラシー不足について、その基礎を小学校段階でどう育てるかです。

例えばキーボード入力では、普段使いのスマートフォンだとフリック入力や音声入力でよいという子もいますが、仕事をする上ではやはりキーボードを使えなければいけないと考えています。本校では、1年生からローマ字表を見ながらキーボード入力の練習をします。3年生の国語の授業でも改めてローマ字の学習をすることで、ローマ字入力を定着させています。実際にやってみると、意外と低学年でもキーボード入力ができるようになります。

「読み・書き・計算」と同じ基礎的なスキルとしてタイピング能力を重視されているのですね。見学させていただいた6年生の授業では、どの児童もすらすらとローマ字でのタイピングができていましたね。

iPadでキーボード入力する児童

4年生以降の学習についても教えてください。

4年生では理科の単元と関連づけて「回路」や「スイッチ」を扱うことがあります。センサーというのは、突き詰めると「しきい値を超えたらスイッチを入れる」仕組みです。

つまり、理科の回路図とプログラミングのセンサー制御は、実は関連がある教科なのです。

5年生の理科の授業では子どもたちがセンサーを持って学校中を測定し回っています。「ここの明るさは○lux(ルクス)だ」「湿度は○%だ」などと調べて、「自分たちが一番〇〇しやすい場所はここだ」といった結果を数値やグラフで示してプレゼンテーションしています。

このようにして、子どもたちは「数字で世界を表す」「条件によって反応を変える」ことを体験的に学びます。このような経験を通して「コンピュータが扱う世界はすべて数値で成り立っている」という感覚を、小学校段階でつかませたいと考えています。そして、これが5〜6年生でのプログラミング思考の基礎につながっていきます。

情報リテラシーに関する指導についてはどうですか?

警察庁のデータなどを見ても、小学生のスマートフォン利用率は年々上がっており、インターネットとの接触は早い段階で始まっています。

そのため、端末を持つ前に「インターネットとは何か」を理解させる必要があると考えています。「ネットワークは世界中がつながっている」「ウェブ(Web)は“クモの巣”という意味」など、身近な言葉から説明していくようにしています。

iPadの使い方のルールやマナーについて、子どもたちと一緒に考える授業もします。やっぱり遊びに使ってしまうこともあるので。iPadを使う頻度を横軸、社会的マナーが守られているかどうかを縦軸にした四象限を作り「みんなはどんな使い方を目指したい?」って聞くと、「右上(使う頻度が多くてマナーが良い)が良い」って言うんですよね。自分でよい使い方の方向性を考える時間にしてほしいと思っています。

小学校全体として、ICTやAIの教育をどのように位置づけていますか?

本校としては、「ICTを特別なものにしない」というのが基本方針です。つまり、「道具として自然に使いこなす力を育てる」ということです。

授業だけでなく、日常的な場面でもICTを活用しています。例えば、朝の会や係活動、行事の振り返りなど、紙のプリントに書く代わりにロイロノートを使って共有するクラスもあります。

こうした積み重ねが、結果的に「ICTを使うことが当たり前」という感覚につながっています。

「ICTの日」や「AI特別授業」といったイベント扱いにすると、子どもたちにとっては非日常になってしまいます。そうではなく、国語や社会、理科などの学習の中で、ICTが自然に存在している状態が理想です。

学校の先生方のICT活用もかなり進んでいる印象ですが、校内の体制づくりで工夫されている点はありますか?

小学校にICT委員会を設置し、定期的に会議を行っています。学習アプリの活用方法、授業での事例紹介などを研修会で紹介し、先生方が「自分のペースで学べる場」をつくるようにしています。

また、「できる先生が全部やる」ではなく、みんなで少しずつ引き上げ合うという文化を大切にしています。以前は「ICTは苦手」「パソコンは得意な人に任せたい」とおっしゃっていた先生も、今では「自分の授業でこんな使い方をしてみた」と共有してくださるようになりました。

つまり、先生方にとっても、ICTが「特別なこと」ではなく、「授業をより良くするための道具」として受け入れられてきたのだと思います。それが一番うれしい変化ですね。

インタビュー後編では、生成AIの授業活用に関する高橋先生のお考えや、見学させていただいた小学6年の「情報」の授業の様子についてご紹介します。(後編に続く)

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