ICT活用事例校レポート

小林聖心女子学院<前編>

 今回は2024年6月19日に訪問した小林聖心女子学院を前編・後編に分けてご紹介します。
 前編では小林聖心女子学院の大川尚輝先生・大菅知樹先生・津田輝彦先生にICT活用や小中高の連携について伺いました。

小林聖心女子学院

 

<前編>
小林聖心女子学院のICT活用と小中高の連携

小学校・ICT教育担当
大川尚輝先生

—はじめに貴校がICTを導入された経緯についてお知らせください。

大川先生ICTが最初に導入されたのは私がこの学校に勤務を始めた20年近く前のことでした。その頃は学校全体でパソコンが2台という状態からスタートしました。
 それから、ノートパソコンが教職員に配布され始め、iPadを研究し始めたのが2013年からです。その時期はまだ1人1台ではなく、学校で十数台ほど導入して各クラスで必要な時に借りて利用する形でした。
 2016年~2017年頃には1人1台貸し出せる環境が整いましたが、自分の端末ではないので使いづらさがありました。コロナをきっかけに、1人1台自分の端末として持ち始めたのが2021年です。小学校ではコロナ前から教員研修を実施し、先生達全員が「ロイロノート」を使用できる状態で導入したため、大きな混乱もなくオンライン授業等ができました。

—中高でのICT活用についても教えてください。

中高理科担当
大菅知樹先生

大菅先生中高生は1人1台WindowsPCを使用しています。2018年から導入していて、現在はほとんどの授業で活用しています。使用しているツールは「MetaMoJi ClassRoom(メタモジクラスルーム)」と「manaba(マナバ)」です。「MetaMoJi ClassRoom」はリアルタイムでノートを書くことができ、書いた内容もリアルタイムで共有できるので、協働的な学びとして活用できます。「manaba」は授業ごとに連絡や資料配布ができる連絡ツールです。他に「Google meet」をオンライン授業時などに使用しています。
津田先生数学に特化して言えば、「GRAPES(グレープス)」という関数グラフソフトを使用しています。中学校のグラフを変化させる授業の際に使用しています。

—他にも活用されているアプリはありますか?

中高・数学科情報科担当
津田輝彦先生

大川先生「Cabri(カブリ)」というソフトウェアを2019年頃から算数数学科の図形分野に限って使用しています。
津田先生「Cabri(カブリ)」は普通に図形を描くのではなく、思考力を働かせないと描けないようになっているので、生徒たちにとっても面白いと感じる子がいるようです。図形で学ぶ要素がすべて入っていて、描きたい図を自由に描くことができます。
大川先生算数数学科の中で、これまでに中学校の先生が小学校で授業を行ったり、中学校の教科書内容を先取りしたりなど、小学校と中学校の算数・数学をどのように繋げていけばよいか様々な方法を研究してきました。その中で、「正しい先取りをするとその内容が深まっていく。学びが深まっていく」という仮説を立て、図形の分野に焦点を絞っての先取り授業を、小中高連携の取り組みとしてカリキュラム化しました。
 以前から小学校から中学校間は多くの内容が繰り返し学ばれているということが分かっていたので、重なっている部分を少し圧縮して、その代わりもう少し学びを深めたい部分を取り上げて行いたいと思っており、図形の分野ならそれが可能なのではないかと考えました。小学校時代にこのようなソフトウェアに触れることで、中高での学びにスムーズに移行出来たらいいなと考えています。

—ICTを活用することで児童生徒の皆さんや先生方はどのように変化していきましたか?

大川先生私たち教師が見えていなかった部分がよく見えるようになりました。授業をしていると無意識のうちに同じ子にたくさん当ててしまったり、一部の子の意見しか吸い上げていなかったりしたことに気づきました。iPadやロイロノートによって自分の意見がクラスのみんなに共有されることで、今まで発表しなかった子も自信を持って言えるようになったと感じます。
大菅先生プリントをMetaMoJi ClassRoomで配信すると、配布、回収、返却と様々な場面で時間が短縮でき、時間の使い方が変わったと実感しています。また、少人数のクラスであればその場で採点が出来るため、効果的な指導がやりやすくなりました。ICTを導入したことにより、生徒が自分の考えを共有することはもちろん、プレゼンテーションを行う機会も増えたので、生徒たちに表現力が身についてきたと感じています。
津田先生先生間や先生・生徒間の連絡がスムーズになりました。2019年ごろから1人1台パソコンを持たせていましたが、ちょうどその頃にコロナになって、突然オンライン配信しなければならない状態になりました。それまでは本当に一部の先生だけが一生懸命使っていましたが、全先生がオンラインで授業を発信しないといけないということになったことで、先生一人ひとりのICTスキルが上がり、ICTを使って授業することが日常になっていきました。そして、オンラインという形態を取ることにより、コンパクトに学習の履歴が残しやすくなり、教師側にとっても管理しやすくなりました。
 学習記録を次の年の生徒にも見せたりできるようになり、デジタルの財産というものができたと感じています。

—小林聖心女子学院では小学校・中学校・高等学校の12年間を通しての学びを蓄積していると伺いました。どのように記録蓄積されているのでしょうか?

大川先生校務支援ソフトの「Siems(シームス)」を導入しています。
 学校が蓄積する学習記録と、児童生徒自身が蓄積していく学習記録の2つを記録していて、評価については、その2つを合わせて評価しています。
 生徒たちの学習記録は先ほどご紹介したロイロノートの中に蓄積しています。
 本校ではICT導入前から振り返りを大切にする習慣がありました。振り返りを書くことで、今日学んだことや分かったことを共有しています。また、6年生の理科の授業では、単元ごとにプレゼンを作成し、実験の様子や結果を見せて「この実験は、こんなことを調べるためにこんな実験をしました。わかったことはこんなことです」と自分の言葉でプレゼンを作らせて発表・発信することもあります。
 自分でプレゼンを作成したり発表したりすることで、作成しながら「なんだっけ?」と友達と確認したり、自分の言葉で発表することで、わかっていないところが見えてきます。私たち教員は発表そのものだけではなく、そのプレゼン作成の過程も含め、授業での学びに向かう様子、学習の蓄積も見て評価し、それをSiemsの指導記録という形で貯めています。実験の際の子ども達のつぶやきや実験の結果からさらに出てきた疑問など、普段の授業中の具体的な様子を記録することで、“思考・判断・表現”や“主体的に取り組む態度”の評価などペーパーテストだけでは見ることのできない評価の材料としています。
 本校は小学校段階から教科担任制に移行しているので、教科の専門性を活かすことや、子ども達もたくさんの先生と関われることなどのメリットも多いのですが、反対に担任が自分のクラスの児童の様子を見取ることは難しくもなりました。教科を持っている先生が指導記録の蓄積を貯めていくことで、個人面談や成績の所見を書くときに担任の知らなかった一面をそこで確認できますし、年間や学年をまたいだ生徒の変化や成長を見ることもできます。
 指導記録は、全教員の入力を合わせると年間で約8,000件の記録の蓄積があります。これは、子ども1人に対して担任や教科担任の先生からのコメントが年間平均で約20件貯まっていることになります。教科担任制になってもいろんな視点で子ども達を見て、評価を返すことができる仕組みになっています。

—12年間を通しての児童生徒の記録が見られるのがすごく良いですね。

大川先生Siemsのシステム内では高校3年生になったときにも、小学1年生の時に何があったのか確認できます。ベースは校務システムのため、成績を入力することもできますし、指導記録を書くと成績上の所見や要録の所見に反映することもできます。
 昨年からはテスト前にどの単元が弱いかなどを可視化できるようにStage IIの5年生から8年生までは独自のシステムで個票を作成していて、5・6年生は個人面談の際に、7・8年生は中間・期末テストの前に児童・生徒が自分のここが弱くてここが強いというところを自分で知るための資料としています。自分の学習を客観的に振り返ることで、復習もしやすくなると思います。また、先生方もデータを用いた指導が行いやすくなります。
 担任の先生が変わった場合や、科目ごとに先生が変わったときでもしっかりと共有しながら指導できることもICTツールやDXツールを活用するメリットだと思います。

—ICTに関して小中高でどのように連携されているのかも教えてください。

大川先生ICTに関してはICT委員会で話し合いや情報共有を行っています。小学校では私が委員長をしていて、中高では青山先生という先生がICT委員長をされており、週に1度ICTの会議を開いて小中高で情報共有をしています。
 小と中高で端末が異なるため、日々の運用の仕方も少し違っていますが、何か決定する際には学校全体を見通して、「小中高でこんな風にしていきましょう」という共通理解は必ずするようにしています。
大菅先生中高は多くの教員が中高どちらの授業も担当するので、情報を交換する機会が多いです。特に教科会などで良いツールなどを知らせると他の先生も使用するようになり、他教科の先生も使うようになる、という流れで広がることが多いです。
 また、小中高合同の職員会議やStage1~3の会議などもあるので、その際に情報を共有することができます。

—生成AIの活用についても教えてください。

大菅先生学校としては許可も禁止もしていない状況です。授業内で使用することもあり、中3の総合学習の時間に使用したと聞いています。
 理科ではテストに生成AIの回答を出題し、この回答の間違いを生徒に指摘してもらうということをしました。AIもいつも正しい答えを教えてくれるわけではないので、使用する中でよい使い方ができるようになるといいなと思っています。
津田先生生成AIは大いに利用してほしいと私は思っています。今の社会の動きとしてもAIがこれからどんどん賢くなっていくので、新しいものを禁止するのではなく上手に利用することが大事だと思います。時に失敗することもあると思いますが、その失敗から学んでいくことが大切だと思います。
大川先生先ほどの指導記録の蓄積をAIに分析させることで、指導記録をベースに各教科の様子を面談資料として作成したり、学習の理解度をフィードバックして教員の次の指導に活かしたりするための資料として活用しようと試みています。そのためのプロンプトについて現在研究中です。AI活用はそれを活用するためのビッグデータの存在が不可欠となります。指導記録は校務支援システムが運用開始された2019年から数万件の蓄積があります。これらをAIを利用して解析させることができればさらに子ども達の教育活動に活かせるのではないかと考えています。

—今後の展望について教えてください。

大川先生Cabriに関しては、最終的には念頭操作ができるようになってほしいと考えています。立体の図形を頭の中だけでイメージするのはなかなか難しいのですが、小学校の数図ブロックの操作と同様で、ソフトを使うことで頭の中でイメージをしやすくしたいと考えています。立体図形のイメージをきちんと持つための活動の1つとして取り組んでいます。
 私自身、ICTを推進する立場として大事にしているのは、「機器はツールである」ということです。ベースはやはり授業で、授業の中でICT端末をどのように使っていくかということをずっと考えています。ロイロノートを用いた学習を行う際にも、必ず「この学習に本当にICTが効果的か」を自分自身に問い直すようにしています。アナログでもデジタルでもより良い方法を教師も子ども達も自分自身で選択できるようになってほしいと考えています。
津田先生これは個人的な展望ですが、授業以外で家庭学習でも使用できるような教材を作っていきたいです。動画教材を作ったり、学校以外でも学べたりできるような仕組みを作っていけたらと考えています。生徒たちは塾や習い事があり忙しいので、時間の合間を見つけてできるような簡単な教材も作っていけるといいなと思っています。

 

小林聖心女子学院の先生方のインタビューで特に印象的だったのでは、新しいツールを積極的に活用されていることと、小中高一貫教育を生かした学年を超えた連携・学びの蓄積を行っていることです。
様々なICTツールを活用することで生徒の学びが促進され、12年間の学習記録もしっかりと残すことができるため、生徒の成長・変化を多面的に捉えることが可能になっているということがわかりました。
小林聖心女子学院のICTを活用した教育実践や12年間の学習データの蓄積を活かした教育について、今後も注目していきたいと思います。

 

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