ICT活用事例校レポート

芝浦工業大学附属中学高等学校<後編>

 今回は2023年10月19日に訪問した芝浦工業大学附属中学高等学校の取材記事の続きをお送りします。
 中学校の自立学習「SD」と高入生を対象とした「Arts and Tech」の授業についてお話を伺いました。

芝浦工業大学附属中学高等学校

 

<後編>
自立学習「SD」と「Arts and Tech」

自立学習「SD」について

—芝浦工業大学附属中学高等学校では授業時間の中に自立学習(SD)を取り入れられていると伺いました。自立学習(SD)を始めた背景と内容について教えてください。

数学科・探究科 金森千春先生

金森先生2021年から自立学習(SD)が始まりました。今年の中学3年生は中学1年生から3年間SDをやってきた学年になります。1日6時間授業で土曜日が4時間ある教育課程なのですが、新学習指導要領が始まったときに、先取りをしないカリキュラムにしました。教科学習が週6時間あったところを4時間にして、国語数学理科社会英語の主要科目は週4時間にしました。
 以前から「先生たちがすごく教え込んだり、補習したり、追いかけたりして、やっていて効果はあるけれど、やらなくなったら本当に効果は下がるのか」ということの検証を学校全体で行っていました。その結果、変わらないということがわかりました。それなら教え込みすぎず、生徒が学べるようにしようと考え、授業時間を減らしたことで中学1、2年生で週2時間、中学3年生で週3時間のSDを入れることができました。
 SDは「その時に自分に必要な学びを自分で選択して学ぶ」がモットーになっています。提出日が迫っている課題をやる子、英検の学習をする子、Qubena(キュビナ)などのデジタル学習ツールを使って復習する子もいます。
 中には、「課題は家で絶対にやるから、家でやらないものや苦手なものをあえてその時間でやる」という意識の高い子もいます。中学1年生の時に取ったアンケートでは、生徒たちの3割が大変有効に活用できていて、5割の子がまあまあ有効に活用できていると言っています。その状況は今も変わりません。

—今までの学校は教科学習で時間がほぼ埋まっていて、「自分のために学ぶ時間」はほとんどなかったように思います。SDの時間があることで、生徒たちも自分で学ぶことを決めて、主体的に学べるようになってきているんですね。

金森先生最低限の時間を生徒たちに渡したことは、生徒たちの健全な生活を取り戻すというところですごく大きいのではないかと思っています。電車で1時間くらいかけて通ってきて、部活もして、そこからまた1時間かけて帰って、ご飯食べて、お風呂に入っていたら宿題をやる時間が本当にあるのかと。
 先生は教えるだけ教えて、定着を生徒任せにするというのは本当に適切かという議論もしていました。数学だと1年ぐらい先取りをして高校にあげるのが普通だと思うんですけど、それをしないという選択はすごく大きかったと思います。
 SDを行っての教員としての実感は、集団がばらけることが減ったと感じます。それは進度を落としたからか、SDがあるからかはわからないですが、数学とか英語は中学3年生になるとついていけない子が多く、勉強が嫌になる子も多いのですが、今は集団の分散が小さくなったと感じています。

—SDは生徒自身で計画を立てて行っているのでしょうか?

金森先生そうです。学校としてClassiを使っているので、SDの時間の前に自分でやることを入力し、終わった後にどこまで進んだかを記録して生徒自身が管理しています。自習の記録を溜めている段階です。

斎藤教頭先生中学の3年間を通して自立学習の力を養い、高校に上がったときに自立学習が完成していることを目指しています。最初からできる子もいますが、少しずつできる子が増えていて、今の中学3年生はうまく定着できていると感じています。
 ベネッセの定点観測を学力推移調査で行っているのですが、学習時間はそんなに増えていません。家に帰ってさらに学習させようとはしていなくて、効率よくやってくれれば一番だと思います。
 この学年は学力が上がっているのでいい形になっていると思います。

高校の「Arts and Tech」について

—芝浦工業大学と連携して行われている「Arts and Tech」の授業についても教えてください。

斎藤教頭先生中学ではSTEAM教育の「エンジニアリング」を教えるのが難しいので、大学の先生に来ていただいて中学1年生でスパゲティブリッジ作り(スパゲティの乾麺で橋を作る)、中学2年生でロボット作り、中学3年生でデザイン工学を中心とした選択制の学習を行い、iPadのインターフェイスを作るなど色々なことをしています。
 モノづくりを体験し、モノづくりの面白さと難しさを知るとともに、大学の先生に最先端のロボット技術の話を聞いたり、橋の構造の話を聞いたりなどしながら手も動かす中で、まずは楽しいと思ってもらいたいと思います。
 中高一貫の方は6年間あるので、探究などもやりながらじっくり取り組んでいきます。高入生の方はあまり時間が無いので、大学を含めた高大の7年間で教育を行いたいと思っています。高入生の場合は7割ぐらいが実際に進学しています。
 高入生の「Arts and Tech」という授業では、ArtとTechnologyの分野の先生に来ていただいて、授業をしていただいています。高校2年生になるとデザイン工学やSDGsの授業が入るのですが、体験したり実験したりする学習を取り入れてもらっています。
 この他にも理系講座を受けたり、大学の授業を実際に受けて、学科や研究室も見に行くなどしているので、生徒たちも高校にいる時点で研究室を考えるまでになっています。
 高校3年生は、理工系の学生として大学に行く際に必要な内容について学びます。内部推薦に必要な研究計画表やレポート作成、プレゼンテーションについて学んでいます。他大学に推薦を出す際も、このことを学んでいるので、生徒がある程度完成したものを持ってきてくれます。他にもPBLだったり、Excel処理、データサイエンスやChatGPTなどさまざまなことを行っています。
 「Arts and Tech」は高入生にとっての探究学習になっています。今までは年に何回か特別講座として行ってきましたが、この豊洲に移ってきてから授業として組み入れられるようになり、大学にも歩いていけるので大学の学生や院生もたくさん来てくれています。2クラスの少人数だからこそできる教育でもあります。
 中高一貫生は、高校では「SHIBAURA工学探究」を行います。中学校の段階で、探究学習やIT等の知識・技術が身についているので、高校ではもっとハイレベルなものを提供できるように、大学とも連携して行っていきます。

「Arts and Tech」の授業

 芝浦工業大学附属高等学校の「Arts and Tech」の授業では、大学附属のリソースを最大限に活かし、大学の教授から直接学ぶ機会を多く作られていました。
 この日見学させていただいたのは材料力学の授業です。スパゲティブリッジ作りを通して、橋の構造について学習していました。設計図を見ながら集中して橋を組み立てていく姿が印象的でした。
 附属大学に進学するための準備教育として、高校3年生では理工学に関する専門的な内容を学びます。
 この日は統計の授業を行っていました。ウィルコクソンの検定やマン・ホイットニー検定などに触れ、大学でも難なく扱うことができるようにしていました。
 

担当の岩田先生は、
「~の研究をする時にこれを使うんだよ」
「これを知っていると入学後に役に立つよ」など、数年後の生徒の姿を見通した声掛けをされていました。
 はじめは「難しそう」と思っていた生徒も、実際に触って扱ってみる中で、その使い方に慣れている様子が見られました。


~ふりかえり~
取材をさせていただくなかで特に印象的だったのが、探究学習をはじめとした学校の変革を通して先生自身のマインドセットが変化したというお話でした。先生方から「失敗を糧にする」、「やらず嫌いではなく、まずはやってみる」という言葉が出てきていたように、まずは新しいことにチャレンジして、うまくいかなければ都度改善してよりよいものにしていこうという前向きな姿勢を感じることができました。
大学附属のリソースを生かした専門的な授業をされていることや、ICTツールをふんだんに活用されていることからも、学校や環境、先生、生徒が持っているポテンシャルを生かせるような風土づくりをされているとわかり、芝浦工業大学附属中学高等学校の大きな魅力となっているということを改めて感じた取材でした。

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