2025年11月19日に取材した啓明学園中学校高等学校について紹介します。
啓明学園中学校高等学校は多様な背景を持つ生徒が多数在籍する中、一人ひとりに合わせた授業を展開しています。
後編では国際教育センター主任の能城 黎先生より、啓明学園中学校高等学校におけるICT・AIの活用についてお話を伺いました。
多様な生徒が学ばれる中、先生方はどのように連携されているのでしょうか。
本校は専任~非常勤合わせて60名ほどの職員が在籍しており、そのうちネイティブ教員は11名です。国際生プログレスクラスを担当する教員については、年度初めに担当者連絡会を設けて、その年度の新入生や在籍生について情報共有を行います。各学年に、どのような生徒がいて、どのような学習歴や言語背景があるのか、どういった点でつまずきやすいのか、そうした点を最初に共有しています。
このクラスを担当している教員同士での勉強会も行っていました。授業での悩みや、ここはうまくいった、こうすると分かりやすかった、といった事例を共有する中で、日本語力が十分でない生徒に対しては、プリントの説明の仕方の工夫や、試験問題の工夫などを紹介し合い、その後の授業に活かしています。
教員がそれぞれ蓄積しているノウハウを共有できる場を作ることが重要だと考えています。校内の情報共有については、学内ネットワーク上で生徒の基本的な情報を全教員が確認できるようにしています。生徒の簡単な学習歴や、どの教科でどのような配慮が必要か、どの言語を使っているかといった情報は教員がいつでも確認できます。
試験時に工夫した点についても各教科で入力してもらうようにしていて、他教科の教員がそれを見て、「こういうやり方があるのか」、「こういうアプリを使うとよいのか」と気づくきっかけにもなっています。
情報共有のツールとしてはMicrosoft Teamsも活用しています。Teams内で資料を共有し、やり取りを行っています。口頭で直接相談することもありますが、すべての情報を個別対応に頼るのではなく、見える形で残すことや全ての教員に知っておいてほしい情報については、できるだけ分かりやすく整理して提示するようにすることも意識しています。生徒について気になることがあれば、すぐに相談できる体制を取っています。
授業でのICT活用についても教えてください。
授業については、教科書中心というより、スライドベースで進める教員が増えており、生徒も端末を常に手元に置いて、授業中も必要に応じてすぐ使えるようにしています。
スライドであれば共有しやすく、復習もしやすいという利点があります。授業で使ったプリントや資料は、基本的にTeamsにアップするようにしていて、生徒は後から見返すことができ、翻訳をかける場合にも使いやすくなります。生徒ごとに時間割がバラバラなため、Teams内にプライベートチャンネルを作って個人ごとに蓄積するなどもしています。
生徒が学びやすくするために、通常の授業プリントにはふりがなを付けてもらうようお願いしていますが、そのまま翻訳にかけるとルビ部分まで翻訳されてしまうため、翻訳用のルビなしプリントも用意してもらい、二種類を使い分けています。
こうした対応ができるのは、本校が生徒ファーストの考え方でシステムを構築してきたためです。端末導入当初からファイル単位で翻訳できるような形にしてきました。英語だけでなく、他言語の生徒もいるため、教科によってはDeepLが向いている場合もあれば、理科など専門用語が多い教科ではGoogle翻訳の方が適している場合もあります。教員も実際に使って生徒に伝えるようにしています。
提出物についても、端末を使って提出する形が多いです。個人的には、Teamsを使って提出してもらう方が管理もしやすく、生徒にもICT活用を身につけてほしいので、その方法を取っています。
国際学級の国語の授業では生徒一人ひとりの進路や日本語レベルが異なるため、ある程度グループ分けはしますが、基本的には個別対応になります。Teamsの中に、生徒一人ずつプライベートチャネルを作り、そこに作文や課題を蓄積していく形を取っています。
作文学習では途中段階のものを載せてもらい、それに対してフィードバックを返しています。入力して書くほうが得意な生徒もいれば、手書きで書く方が得意な生徒もいて、入力したものはそのまま提出してもらい、手書きの場合はスキャンして保存しています。もし、担当教員が変わった場合でも、これまでどのような取り組みをしてきたかがすぐに分かるようにこのように記録に残すようにしています。
また、日本語の語彙を覚えるのに「Quizlet(クイズレット)」というアプリを使ってフラッシュカード形式で学んだり、クイズが作れる「Kahoot(カフート)」 などを活用している教科もあります。

授業の中で日常的にICTが活用されている

スライドベースの授業はどの生徒にもわかりやすく、復習もしやすい
AIも授業などで活用されていますか?
探究学習等で活用しています。探究学習を指導する際に、AIにテーマ設定を伝え、調べる内容やアンケートの作り方などをAIと対話しながら考えたりしています。またスピーチ原稿を作成するうえでの「推敲」としても活用しています。
AIは学校として禁止しておらず、むしろ、正しく・賢く活用することを前提にしています。大学では、AI活用が前提になりつつあるため、高校段階でも使い方を意識することが必要だと考えています。
ただし、答えをそのまま出させる使い方ではなく、思考を整理するための相手として使うことを重視しています。探究の場面では、自分の考えや方向性を持ったうえで、抜けがないか、どこを強化すべきか、といった点をAIに問いかける使い方をしています。答えを聞くのではなく、考えを深めるための壁打ちとして使うという位置づけです。
しかし、生徒の中にはAIを使って文章をそのまま出してしまうケースもあります。そうした場合には、AIチェッカーを使って確認しています。しかし、生徒の話をよく聞くと、日本語で表現するのが難しいため、一度自分の言語で書きそれを翻訳しただけというケースもあります。
その場合には表現の練習としては問題ないが、最終的に自分の力で書けるようになることが大切だという話や、翻訳された日本語には自分が普段使わない言葉が含まれることがあり、そのまま使ってしまうと自分の言葉にならないため、注意が必要ということも伝えています。
学校としてはAIの使い方について、明確なマニュアルを設けているわけではないため、今後は一定の方針を示す必要があると考えています。もともと多様な背景を持つ生徒が集まっている学校であり、そのような学校文化があるため、AIについても最初から線を引いてしまうよりも他のICTツールの延長として紹介し、自然に使えるようにする方が、生徒には合っていると感じています。
実際に、生徒は数学の質問や理解できない問題の考え方を聞くために、AIを使うこともあります。動画を探すよりも効率がよい、という理由からです。
大切なのは、使うか使わないかではなくどう使うかだと考えています。
最後に貴校で特に大事にされていることについて教えてください。
学校として最も大切にしているのは「対話できる力の育成」です。相手の意見を聞き、自分の考えを伝え、批判的な意見も受け止めながらも対話を続けられる力です。
国際生が多い環境では、考え方が違うことが当たり前です。日本の文化を理解しつつ、それだけにとどまらずに、世界の中でどう考え、関わっていくのかを常に考えさせています。
ロシアとウクライナ、中国と台湾、韓国と日本など、さまざまな背景を持つ生徒が在籍している中で、自分はどう考えるのか、なぜそう考えるのかを、言葉にする必要があります。白か黒かを求められる場面で、日本的な曖昧さを残す姿勢だけでは、通用しない場面もたくさんあります。自分の立場を示す力が必要になりますし、それと同時に、相手の立場を尊重し、お互いが納得できる点を探る力も求められます。
本校は、「世界を心に入れた人の育成」という理念を持っています。この理念のもとに対話を通して平和をつくる人を育てたいと考えています。簡単なことではありませんが、多様な背景を持つ生徒が共に学ぶ本校だからこそ、その力を育てることができると考えています。

(編集後記)
啓明学園中学校高等学校では、多様な背景を持つ生徒がともに学ぶために、さまざまな工夫がなされていることが分かりました。生徒一人ひとりの学習進度に合わせて、本来の時間割とは別に個別の時間割を作成したり、理解度に応じた手作りのプリントを用意したりと、きめ細やかな対応が行われています。
また、授業スライドについても、復習や翻訳がしやすい形式で作成・共有されるなど、生徒の学びを後押しする仕掛けが随所に見られました。さらに、こうした学びを実現する手段としてICTやAIを活用するという視点からも大変学びの多い取材となりました。
啓明学園中学校高等学校で実践されている学びは、外国籍、帰国生の生徒に限らず、どのクラスに在籍する生徒にとっても求められているあり方なのかもしれません。これからの「個別最適な学び」の時代に向けた、大きなヒントとなる実践であると感じました。












