ICT活用事例校レポート

大阪信愛学院小学校(後編)小学校から取り組む情報教育

小学校から取り組む情報教育
―生成AIを「考えを深めるパートナー」として使いこなす―

2025年10月9日に取材した大阪信愛学院小学校についてご紹介します。大阪信愛学院小学校では、学校設定科目として、2週に1コマの「情報」の学習を行っています。また、コニカミノルタジャパン株式会社が開発した、tomoLinksの対話型生成AI「チャッともシンク」を授業に導入しており、今回は実際の授業見学と先生へのインタビューを行いました。

前編では情報専科の高橋 脩先生に、大阪信愛学院小学校独自の情報カリキュラムについて伺い、後編では生成AIの学習活用のお話と、実際の授業の様子をレポートします。


【チャッともシンク】
コニカミノルタジャパン株式会社の学校教育向けソリューション「tomoLinks(トモリンクス)」において、協働学習や探究学習で安心・安全に利用できる対話型生成AIサービス。
AIの回答パターンに教員側の意図を入れることができる、有害ワードのフィルタリング機能、利用時間の制限や児童生徒の利用状況・履歴確認ができることから、年齢制限なく利用ができる。また、対話回数の上限がない、tomoLinksのIDでサインオンできるためユーザー登録や管理の負担が少ない、といった特長がある。

〈授業の概要〉
  • 小学6年 情報
  • 単元「生活をよくするシステム作り ~問題解決とAI活用~」(全6時間中3時間目)
  • 本時の流れ
    • 課題の選択:2030年の日本の生活について気になったキーワードを書き出し、朝日新聞デジタルの記事などから、問題の現状を調べる。
    • 生成AIとの対話:生成AI「チャッともシンク」に書き出したキーワードや新聞記事の現状に関する質問を投げかけ、問題の発見・深堀・細分化を行う
    • 振り返り:「質問の深さチェックシート」を参照しながら、生成AIに投げかけた質問について振り返る

質問の深さチェックシート

本時の授業のねらいを教えてください。

今日の授業は、AIに「問題の細分化を助けてもらう」ことがねらいでした。

以前までは、6年生は「自分たちで何かのシステムをプログラミングで作る」という課題を行っていました。例えば、「電車事故をなくすにはどうすればいいか」というテーマをしたこともあります。ただ、「事故をなくす」といっても範囲が広いため、子どもたちは、「運転士の体調管理の問題」「信号の作動不備」「スピード制御の仕組み」などに分けて、問題を細分化して考えるようにしてきました。しかし、これまでは教員が一つひとつヒントを出しながら個別対応する必要があり、非常に大変でした。

そこで、今回の授業では、その「問題の細分化」の部分をAIがパートナーとして支援してくれるようにしました。AIを活用することで、教員の負担が減り、子どもたちが自分のペースで考える時間が増え、個別最適な学びがしやすくなるというねらいがあります。

たとえば「労働力不足」を問題視した児童は、「ロボットが人間の代わりに仕事することはあり得ますか?」「配膳ロボットは人がいると避けてくれるけど、どういう仕組みなの?」と生成AIに質問していました。高橋先生がご覧になって、子どもたちの反応はどうでしたか?

最初はやはり、AIに対して「何を聞いていいか分からない」という子が多かったですね。

そこで、こちらで用意した「質問チェックシート」を見ながら、質問の仕方を考えるようにしました。たとえば、
 「もっと具体的に聞いてみよう」
 「“なぜ”を加えてみよう」
 「自分の考えと比べてどう違うか聞いてみよう」
など、AIとの対話を深めるための観点を提示しました。これによって、AIをただの答えを出すツールではなく、「一緒に考える相手」として扱う感覚が少しずつ育ってきていると思います。

貴校では対話型生成AI「チャッともシンク」を導入されていますね。

先行トライアル時から導入しています。「チャッともシンク」は、現在は授業内で必要な時に使っています。AIのプロファイリング設定ができるので、「小学校の先生の人格」で子どもに返答してもらうようにしています。今回の授業では、子どもに質問されたらAIは「あなたはどう思う?」と聞き返すことが多かったと思います。

※プロファイリング設定:個人や物事に関する特徴や属性、履歴などをまとめた情報のこと。あらかじめ設定することでAIがそのプロファイルに沿った回答ができる。

チャッともシンクとの対話

AIに「あなたはどう思う?」と問い直された児童が、WEBサイトで情報を探して自分の考えを練り上げて工夫して質問をする姿が見られました。なかには、「あなたはどう思う?」と聞かれたら対話ログをリセットして一から質問し直す児童もいましたね。

そこはAIの人格設定にも依るところかもしれません。例えば、AIが2回「あなたはどう思う?」と返したらヒントを出してあげたり一度回答を示してあげたりするなど、プロンプトの作り方の工夫でフォローできるところが多いと思います。

6年生の授業で生成AIを扱うのは、今回の単元が初めてですか?

1学期にも扱っています。チャッともシンクにあらかじめ下の枠内のようなプロファイリング設定をした後で、生成AIの質問に応答する形で児童が自分の情報を生成AIに伝え、一緒に自己紹介文を作成する活動を行いました。

【自己紹介文の授業で高橋先生が作成したプロファイリング設定】

あなたは小学校の先生です。
児童は自己紹介をするために話しかけます。まず、自分の得意なこと、好きなことを考えてくるのでなぜそれが好きなのか、どんな場面で得意なのかを聞いてあげてください。
ある程度まとまると自己紹介文をあなたに書いてもらいます。
児童のプロンプトを読んで自己紹介文を書いてあげてください。
最後にプロンプトの評価も2行程度で行ってください。
プロンプトに対する助言も2行程度で行ってください。

子どもたちは生成AIに対してどのような印象を持っていますか?

先行知識やご家庭でのやりとりで「怖い」とか「間違っている」といったネガティブな印象を持っている子もいました。でも、使ってみるとやっぱり楽しいという反応が多いです。普段は発言が少ない子が、AI相手だと積極的に話しかけるようになることがあります。また、文章を書くのが苦手な子も、AIとの対話を通して「質問文を組み立てる練習」になっているようです。

小学生でも生成AIを上手に使いこなせていますか?

AIに質問しても一発で期待している答えが得られないことがあります。要は質問の質が低いとAIから有用な情報が得られないということですね。だからこそ、「自分もちゃんとした質問をしないと求めている情報が得られないので、質問の工夫をする」というのが今回の授業のねらいの一つですね。

本日の授業を拝見していても、質問を重ねるごとにAIとの会話がどんどん深まっていく印象がありました。授業でAIを活用する際に意識していることはありますか?

一番意識しているのは、「AIの答えを鵜呑みにさせないこと」です。AIの回答に対して、「本当にそうかな?」「別の見方もある?」と問い直すよう促しています。

つまり、AIを使うこと自体が目的ではなく、AIを通して思考を深めることが目的です。その意味で、AIは「考える練習台」として、とても有効だと感じています。実際に、子どもたち自身が「AIを上手く使うには、こちらが考えないとダメなんだ」と気づき始めているのが大きいですね。

なるほど。AIが“教える側”ではなく、「考えるきっかけを与える存在」という位置づけなんですね。

そうです。これまでは、プログラミングでも「動かして終わり」という子が多かったのですが、AIを使うと「なぜそう動くのか」「どう変えれば良くなるのか」を考えるようになりました。

今後は、AIを使って調べた内容や仮説を、グループで共有し合う学び合いの場を増やしていきたいです。「AIがこう言っていた」「私はこう考える」「じゃあ実際はどっちだろう?」というやりとりを通して、より主体的な学びにつなげたいと思っています。

授業の様子

情報の授業の中で生成AIについて学ぶことに意味があると考えています。例えば、国語や算数など他の教科で生成AIを使うスキルやリテラシーを学ぼうとすると、教科が持つ目標がぼやけてしまうことがあると思います。だからこそ、情報でしっかりと生成AIの使い方を学んで、学んだことを他の教科の活動で使ってみましょう、という逆転形式で現在は取り組んでいます。

そう考えると、やはり小学校段階から情報や生成AIのスキルを学ぶことは非常に重要なことだと改めて思います。生成AIの学習について、今後さらに取り組みたいことや課題はありますか?

課題は大きく二つあります。

一つは、AIの回答の精度や倫理的側面です。
 生成AIは便利ですが、誤情報や偏った表現も出てきます。そのため、「AIが言っているから正しい」ではなく、「出てきた情報をどう判断するか」をきちんと教える必要があります。

もう一つは、教師側の慣れですね。
 AIの回答をどう活用するか、どこまで任せていいかなど、教員自身が体験的に理解する必要があります。そのため、教員研修でもAIを使った授業づくりに関する研修を少しずつ取り入れています。

確かに、先生方がAIの特性を理解していないと、児童にうまく指導できませんね。

そうですね。
 AIを禁止するのではなく、「どう付き合うか」を考えさせるのがこれからの教育の大事なポイントだと思っています。大人も含めて、AIとの「距離感」を学ぶ必要があります。

最後に、今後の展望や先生ご自身の目標をお聞かせください。

AIやICTはこれからますます進化していきます。でも、どんなに技術が進んでも、「人間が考えることの価値」は変わらないと思います。

だからこそ、「AIに使われる」のではなく、「AIを使いこなす」人を育てたい。ICTやAIは、あくまで手段です。大切なのは、子どもたちが自分で考え、他者と協働しながら問題を解決する力を育てることです。そのための道具として、AIをどう位置づけるかが鍵になると思っています。今後も、「AIと共に考える学び」「人とAIが協働する教育」を小学校段階から自然に経験できるようにしていきたいです。

また、AIをどう活用するかを考える過程で、「人間らしさとは何か」というテーマにも自然と向き合える。教育におけるAI活用は、最終的には「人間理解」につながると感じています。

とても印象的なお言葉です。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 今回の取材と授業見学で印象的だったのは、小学校6年間の体系的なカリキュラムで実施されている情報教育によって、タイピングやプログラミング思考といった基礎スキルを自らの道具として定着させている6年生の児童の姿でした。生成AIの活用もその延長線上にあり、「ICTを特別なものとしない」「学びを深めるパートナーとしての生成AI」といった高橋先生のお考えが浸透しているようでした。
 また、インタビューの最後に、高橋先生が生成AI活用の目的を「人間理解」に帰結させている点が、大阪信愛学院小学校がキリスト教の教えに根差した教育・人格形成を実践している学校であることを象徴しているようにも感じられました。学校独自の情報教育カリキュラムを持つことはもちろん、根幹となる教育理念を持つ私学ならではの非常に優れた先進事例校だと思います。

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