ICT活用事例校レポート

芝浦工業大学附属中学高等学校<前編>

斎藤貢市教頭先生

 今回は2023年10月19日に訪問した芝浦工業大学附属中学高等学校で行われている探究学習「IT」、中学校の自立学習「SD」、高校の「Arts and Tech」の授業について前編・後編に分けてご紹介します。
 斎藤貢市教頭先生、探究科主任の岩田亮先生、数学科・探究科の金森千春先生からお話を伺いました。

芝浦工業大学附属中学高等学校

 

<前編>
芝浦工業大学附属中学高等学校の探究学習「IT」とICTの活用

探究学習「IT」について

—芝浦工業大学附属中学高等学校では探究学習を「SHIBAURA探究」と題されていて、IT教育に特化した「IT」とグローバル教育に特化した「GC」の授業に分かれているとのことですが、「IT」の授業について詳しく教えてください。

探究科主任 岩田亮先生

岩田先生探究学習としてITが始まったのが3年前です。私は探究科としてカリキュラムを考えているのですが、教頭先生たちが「まずは試してみろ」と言ってくれるので、そのおかげで3年目まで来ることができました。
 私たちの学校の探究学習は「自立」をテーマに行っています。教員がああだこうだと指導しているようだと生徒たちが育っていかないと思います。「生徒に強みや好きになってもらうようなトランプのカードをたくさん持たせたい」といつも思っています。
 一番大事なのは知識や技能を教えることではなく、「楽しい」とか「ワクワクする」ことを見つけることだと思います。それが実社会とどうやって関連しているのかという、接続の部分も見せられるようにしています。

 ITは「遊ぼう」がテーマです。私はロボット制御が専門なんですけれど、ロボットは女子があんまり好きじゃなくて、本当に悩みどころなんです。最初はレゴEV3でやろうと思っていたのですが、レゴは面白くないと話していて、女子にワークショップを行うとスクラッチとドローンに興味を持っていたので、小学校で既習だと思いますが基本的なことを教えて、ドローンもピンク色にしたいとか、ドローンに鏡をつけたいと話していたので、そんな風に自分で考えたものを動かし、楽しめるような授業にしています。
 ドローン制御については1人でも、お家でもできるように、操作動画やテキストを作って、興味を持った子がどんどんできるようにしています。授業の中で分からないことは教え、1時間目に基本的なことをやったら2時間目は応用としてミッションを出し、達成を目指して取り組んでもらっています。
 中学2年生はデータサイエンスを行っています。高校、特にSSH他校がやっていることを「中2でもできる」と思って、Excel処理などを教えています。数学の先取りをしていないのでルートの計算がわからないと難しい面もあるのですが、授業の中で教えながら行っています。
 色々なデータを収集するようなプラットフォーム、例えばe-Stat、RESAS、Astrategyなど、企業の方が使っているものを使用して分析し、そこから本質的な課題を探して提案をしていくという練習をまさに今行っています。
 また、生徒が身近に使っている電車である東京メトロさんにご協力をいただいています。東京メトロさんの建設、設備、土木、車両、電気などの部署の方に1クラス1名ずつ入っていただいて実際に悩んでいることを話してもらい、生データも頂いて、課題解決のための提案を考えています。メトロさんには厳しめに評価していただいているので、去年は1つも採択されませんでした。今年は1つでも採択してもらえるように、何ができるかを考えて取り組んでいます。

 中学生が一番頭が柔らかいし、柔軟だし、大人みたいに人、モノ、金など考えないので、柔軟な発想かつ持続可能で、即実行可能なものを提案できると思います。色々な先生やお父さんお母さんなどの大人ともコミュニケーションをとり、学びを広げています。
 すでに自走している子もいて、最終的には「今日の課題はこれだよ」と言って自分たちで考えて行っていけるような、教員がいなくてもできるという風にしたいと思っています。
 金森先生がものすごくファシリテーションが上手で、生徒の良さを引き上げてくれるので、その良さを伝播していくのと、理解がまだの子は理解できている子たちの発言やしぐさとかを見ながら気づいていけるようにしたいと思います。自立学習もすでにできている人の姿を見て勉強していくと思います。伸びていける子は創造力などもぐっと伸ばしてあげたいなと思っています。

—教科学習で先取り学習はしないけれど、探究学習の中で自分の能力を伸ばしていくんですね。

岩田先生そうですね。この探究を軸にして5教科の必要性に気付いてもらいたいし、そのような仕組みづくりをしています。5教科の先生達にコミュニケーションをとって「今どこをやってる?」「何をやってる?」と聞いて、それを探究の方にも入れています。そうすると教科の学習と探究学習が子どもたちの中でつながっていくと思います。

—ICTの活用についても教えてください。

岩田先生ICTは使えるだけ使うようにしています。はじめは「こういうものがあるんだよ」と紹介するのですが、あとはYouTubeなどを見て、「これは便利だな」とわかって、自分で学びを進めていける子が多いです。
 生徒用のSurface Goを使ったり、パソコン室のパソコンを使ったり、探究科で持っているiPadもあるので、Windows系もMac系もどちらも使えるようにしたいです。動画制作も教えています。
 生徒が自分に合ったツールを使った方が作業も早いし、モチベ―ションも高いです。中学1年生の時は技術の先生と連携して、このツールを使うから、そっちを頼むねなどと話をしていて、使うツールに重複がないようにしています。また、ツールは使用することで使い方がわかってくるので、できるだけ使っています。
 ChatGPTも使っている子がいて、どんどん使ってほしいと思っています。授業でも使っている子はいますが、やっぱり本質的な部分はなかなか出てきません。生徒もそれがわかって、「やっぱりこれぐらいだよね」という風に理解しています。とにかく使わないとわからないので、やらず嫌いではなく、「まずはやってみる」、「試して、実験してみて」といつも言っています。

金森先生よく岩田先生が「失敗も成果」と言ってくれます。教頭先生たちも「やってみてうまくいかなくてもそれはそれでいい」と言ってくれるので、先生達もそのマインドセットで動いていて、会議でベストの状態のものを出すけれど、生徒にはまるかはまらないかはやってみないとわからないので、うまくいかなかったことは来年度の課題というようにとらえています。先生達がそのマインドセットでいるので、生徒たちもそれにのってきてくれます。生徒も一緒に作っていく授業だよというところが生徒もわかっているので、前のめりにやってくれていると感じます。

—プログラミングと情報Ⅰの授業について教えてください。

岩田先生今の中学1年生と中学3年生のデジタルスキルが全く違うんです。中学1年生は小学校の時にGoogleスライドで発表したりしてきているからすごく慣れています。今の中学3年生と高校3年生も全く違います。
 僕が作ったスクラッチの教科書にしても、ドローンの教科書にしても、今まで2時間まるまるかかっていたのが、1時間で終わってしまうようになりました。早く終わってしまう子のためにもミッションを作ってあげないといけないと考えています。「つまらない」となったら教員が悪いので。ワクワクするような授業にしたいと思っています。
 中学1年生の授業ではスクラッチをしています。中学2年生でRuby、中学3年生でArduino(アルディーノ)というC言語に近いものを使って制御できるようにします。高校1年生の情報でC言語をやります。
 プログラミングはC言語が基本です。高入生に対してもC言語を基礎からやっているし、CADも中学3年生でやっています。本校は理系のプログラマー、情報の先生たちが多いので、基本をちゃんと教えたいと思っています。
 HTMLやCSSもやりたい子はやっています。電子技術研究部という部活があるのですが、そこの子たちがサイトを作ったりしています。CADも僕の専門なので、本当は中学1年生でやろうと思ったのですが入れられる時間が無いので、中学3年生の1学期に行って、キーホルダーを作るなどしました。

—情報の教科書に載っているPythonやJavascriptなどの指導もされていますか?

 電子技術研究部ではPythonを中学校から教えるんですね。JavascriptもHP作りなどで使用するので、興味がある子は中学1年生から使っています。最初からPythonは難しいと思っているので、できれば基本のC言語から教えたいと思っています。Pythonは賢いのですが、基本がわからないとクリエイティブのゾーンに行くのが難しいのです。
 模写とか写経ならだれでもできるのですが、プログラミング言語を使って何かを作れるようにしていかないといけないと思っています。
 実は英語とプログラミングは1人でもできます。だからこそ、それを「好き」にさせる必要があります。これが情報や技術の教員の大切なところだと思っていて、好きにさえできればITパスポートにしても基本情報技術者にしても気になったら自分で取りに行きますから。
 ITでは中学2年生でデータサイエンス、データのエビデンスについて学んでいます。高校3年生では統計の選択授業、クリスカルウォーリス検定やマン・ホイットニー検定などを行っていて、大学の統計まで達しています。

 

探究学習 「IT」(Information Technology)の授業

 ITの授業も見学させていただきました。この日は中学1年生がデータサイエンスの学習を行っていました。

 課題解決の一連の流れをグループで学ぶ授業を行っていました。
 話し合い時には1人1台端末はもちろん各班に1台iPadが渡され、Google Jamboard を用いて思考を整理したり、Astrategyを用いてネット上にある情報を検索・収集していました。
 iPad上で自分のアイデアを図示してグループメンバーに共有する姿も見られ、端末やアプリを使いこなしながら学習を進めていました。

後編では、中学校の自立学習「SD」、高校の「Arts and Tech」の内容と授業見学についてお知らせします。

 

PAGE TOP

教育ICTキーワード

教育分野におけるWeb3.0とブロックチェーンの活用

企業取材レポート

みんなの会話をリアルタイムに視覚化するサービスVUEVO(ビューボ)

セミナー情報

タブレット&PC端末導入のメリット

セミナー情報

【セミナーレポート】デジタルを基盤とした「ミライの学校」への挑戦

ICT活用事例校レポート

小林聖心女子学院<後編>