今回から2023年8月23日に開催された「コアネット私学教育フォーラム2023」で実施された講座の中から、「教育データ活用」をテーマとした内容を抜粋してお届けいたします。今号は東京大学大学院工学系研究科准教授の吉田塁先生にご登壇いただいた講座「教育におけるChat GPTの利用」についてです。
ChatGPTをはじめとする生成AIが教育に与える影響は3つ考えられます。1つ目が授業レベルの評価を揺るがすというものです。評価の中でも選択回答式問題や記述式問題といった単純かつ筆記の課題に対してChatGPTは大きく影響を与えると考えられます。このため、ChatGPTに対応できる評価方法の策定が肝要となるでしょう。学習目的、授業内容の再検討も合わせて行う必要が出てきます。現時点でも、ChatGPTを使わせない方法にする、ChatGPTを積極的に使う、授業内の学習活動と形成的評価を組み合わせるなどの方法が考えられます。
2つ目はChatGPT は学習者の学習プロセスを支援し得るというものです。AIへの指示であるプロンプト※を工夫することで、難しい概念を身近な例で説明してもらう、苦手な英単語を組み込んだ物語を作ってもらう、自分専用の課題を作ってもらうなど、個別最適な教材を用意することも期待できます。一方で事実に基づかない情報をAIがさも正当なものであるように生成するHallucination(幻覚)と呼ばれる現象もあり、それを踏まえて事実確認を行いながら使用するといった利用方法が必要になるでしょう。
3つ目が教員の授業作りを支援し得るというものです。シラバス作成、課題作成、授業設計、ワーク設計、選択問題、自由記述問題作成など幅広い活用が考えられます。 Hallucinationの問題は同様に課題となりますが、上手く活用していくことで教員にとっても非常に有用なものになると考えられます。
ChatGPTを利用する上で押さえておく必要があるのは、教員や生徒がメインとなるpilot(操縦士)として利用し、生成AIはあくまでも補助してくれるcopilot(副操縦士)であるということです。最終的な確認や判断は自分に委ねられており、どのように使うのかの判断は非常に重要になります。
また、プロンプト次第で出力される結果は大きく変わります。プロンプトを工夫することで臨む形の出力ができる一方、期待しない結果になることも十分あり得ます。プロンプトは知見が深まってきているので、公開されているものを参照していくことも重要です。
実際に利用していく中ではHallucinationを常に考慮していく必要があります。理路整然とした文章の中にデタラメが入ることもあり、それをそのまま鵜吞みにするのは非常に危険です。専門知識を持つ、1次情報にあたる、情報の信頼性を検討するなどのことが重要になります。
このような点を踏まえつつ、積極的にまず利用してみることで生成AIへの理解を深めていくべきでしょう。
※…生成AIに対する指示や質問のこと。AIへの質問そのものから回答の仕方の指定などを指します。