今回は2022年8月20日に実施した「コアネット私学教育フォーラム2022」の内容から、「ICT活用と教育DX」をテーマとした講座「デジタルテクノロジーは教育に何をもたらすのか」より、デジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐の佐藤昌宏先生にご登壇いただいた内容を抜粋してお届けします。
この20年、30年でテクノロジーは大きく進化を遂げてきました。技術の進化と共にそれらが汎用化されており、その技術の活用によってどのように社会が変わるのかが試されている状態です。デジタルテクノロジーが教育に活用されていくことで起こるのが、学びの個別最適化です。
学びの個別最適化は、学習者一人ひとりの個性や特徴、興味関心や学習の到達度も異なることを前提にして、各自にとって最適の学習機会を提供していくことです。これまで学ぶために学校という場が必要でしたが、インターネットの普及によって知識習得の面においては学校に行かずとも可能となりました。学習者がリーズナブルに知識を習得できるようになった中、教育の在り方を考える必要があります。
そのために重要となるのがスタディ・ログなどの学習履歴を蓄積することにより、学びの情報が可視化でき検証可能で、再現性のあるものになることにあります。スタディ・ログは個別最適化に必須ともいえるもので、学習の状況を常時観測できるようになることで、日々変動する学習者の成長を読み取ることが可能になります。これらデジタルテクノロジーによりこれまでの学習としての最適解とも言えた学校での授業や受験といった仕組みが変わっていくと考えられます。
世界で使われているデジタルテクノロジーを見ていきましょう。利用されているのは教育に特化したものではなく、YouTubeやGoogle検索などの汎用的なツールです。特別なものが利用されているのではなく、背景にあるのは技術の普及と汎用化です。また、利用する学習者にも変化が見られます。DYOR(Do Your Own Research)、この自分で調べなさいというスラングが示す通り、自分の手のひらで簡単に調べられるようになったことで学習者の学びは多様化しています。TwitterやInstagramなどのSNSにおいて勉強仲間と繋がるためのアカウントや、study with meと呼ばれるYouTubeのハッシュタグでは勉強している様子を流すだけの作業用動画が数多く視聴されるなど、本来は想定されていない利用方法で自ら考えてモチベーションコントロールなどに利用されています。
こうした汎用的なテクノロジーによる学習者の変容は、学びの行動変容として4ステップあると仮定できます。はじめに意識もなくできない状態をSTEP1。次に意識はあるけれどできない状態をSTEP2。その次に意識も行動もできるようになってきた状態をSTEP3。そして無意識でもできる状態がSTEP4とすると、セミナーや雑誌などはSTEP1と2で大きく有効です。興味を引く必要があるのでエンターテイメント性が求められ、今のYouTubeなどの動画はこの部分が重視されています。一方で学校教育で必要なのはSTEP2から3,4と行動を変容させることです。この部分は「キュレーション(Curation)」という言葉が近いと考えており、いろんな教科や先生といった要素を収集、選別、編集を考えて組み合わせることが教育なのだと思います。
今、デジタルテクノロジーがもはやインフラと化している中、どのように活用しどう教育の質の担保をするかを考えるかが重要になります。これまで教育の質を担保してきた学習指導要領、教材、教員といった要素に加えてに加えてカルテ(ログ)が加わり、国によるEBPM(Evidence-based policy making)から先生によるDBCM(Data based classroom making)が必要になってくるでしょう。統計や傾向だけでなく、一人ひとりの生徒のローデータをみて指導を決めていく必要があります。テクノロジーを道具として如何に利用していくかが重要となり、どのように変えていくのかを考えていく必要があります。