レジリエンス教育

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レジリエンス教育

コアネット教育総合研究所
放課後ラボ事業部 主任 佐々木梨絵

要約

レジリエンスとは、逆境やストレスに柔軟に適応し、回復する力であり、教育ではしなやかな心を育むことを目的とします。自己肯定感や問題解決力の向上に寄与し、変化の激しい社会での適応力として注目されています。高めるには「つながり」「健康」「目的」「健全な思考」が重要で、心の問題を予防する「予防教育」や「非認知能力」の育成にも効果があります。

レジリエンスとは、「強いストレスや外圧を受けた時に、それを跳ね返す柔軟な力」のことを指しており、「レジリエンス教育」とは、逆境や困難を乗り越えて、しなやかな心を育むことを目的としています。一般的には、「レジリエンス教育」によって、自己肯定感、自己効力感、楽観性、問題解決能力などを高めることができるとされています。

 

レジリエンスとは

幼少期のトラウマや逆境を通して、子どもがどのように、それらを乗り越えて成長していくのかという研究から、レジリエンスという言葉が学術用語として使われ始め、今日まで研究をされてきました。そのため、心理学においては、レジリエンスとは「困難な経験(逆境、トラウマ、悲劇、脅威)を跳ね返し、上手に適応するプロセスのこと」を指しています。また、レジリエンスは、そもそも物質科学に由来する言葉であり、力を加えて曲げると元の現状に戻ろうとする物質の復元作用を示すものでもあることから、回復力や復元力などとも言われることもあります。

日本にて、レジリエンスという言葉が広まったのは東日本大震災以降のことで、「復旧・復興」や「強靭化」といった政策的な話の中で、レジリエンスが取り上げられるようになりました。また、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界が混乱に陥ったコロナ禍においても、レジリエンスの重要性が再び注目されました。変化が激しく、不確実性が高い状況下では、柔軟な心を持って困難を乗り越え適応していく力、すなわちレジリエンスが必要であり、それらが育まれることによって、大人も子どももwell-beingな状態へと繋がると考えられています。

 

レジリエンスの基本構造と高めるためのポイント

一般にレジリエンスとは、ポジティブな適応(順調な生活、柔軟な適応、回復・持続)により、逆境(adversity)や撹乱・ストレスを乗り越え、健全な生活(well-being)や健全な機能を取り戻すことです。そのため、レジリエンスは、「逆境」と「ポジティブな適応」の二つが揃って初めて成立するといえます。例えば、逆境がない状態で、ポジティブな適応をしたとしても、それはレジリエンスとは言えませんし、同様に、逆境を経たとしても、健全な適応ができなければレジリエンスではありません。

では、レジリエンスを高めるためにはどうすればよいのでしょうか。

アメリカ心理学会WEBサイト(https://www.apa.org/)では、レジリエンスは筋肉を鍛えるとの同じように、時間と努力をすれば高めることができ、「つながり」「健康」「健全な思考」「人生の意味」などの各ポイントを意識して行うことで、困難やトラウマといった経験を乗り越え、経験から学ぶ力やしなやかな心を養うことができると紹介しています。

 

【レジリエンスを高めるポイント】

  • つながりを築く
    • グループに参加する
      一対一の人間関係に加えて、市民団体などの地域団体に積極的に参加することで、社会的な支えが得られ、希望を取り戻すのに役立つと感じる場合があります。
  • 健康を育む
    • マインドフルネスを実践する
      瞑想などの精神的な実践は、人と人との繋がりを築き、希望を取り戻すことにおいて役立ちます。
    • ネガティブな感情を吐き出すことを避ける
      ストレスを消し去るのではなく、ストレスに対処するためのエネルギーを蓄えることが大切です。
  • 目的を見つける
    • 積極的に行動する
      自ら率先して行動することで、ストレスを感じた時においても、モチベーションと目的意識を持ち続けることができると気づき、再び辛い時期を乗り越えられる可能性が高まります。
    • 目標に向かって進む
      小さな目標でも構わないので、現実的な目標を立て、目標達成に向けて前進できるようなことを定期的に行うことが大切です。
    • 自己発見の機会を設ける
      人は苦難を経験した際に、何らかの形で成長したことに気づくことがよくあります。自己価値を高め、人生への感謝を深めるのに役立ちます。
  • 健全な思考を受け入れる
    • 変化を受け入れる
      変化は人生の一部であることを受け入れることが大切です。また、変えられない状況を受け入れることで、変えられる状況へと集中することができます。
    • 楽観的な見通しを持ち続ける
      楽観的な物の見方は、良いことが起こるであろうといった期待する力を与えてくれます。
    • 過去から学ぶ
      過去の困難な時期に、誰や何が助けてくれたかを振り返ることで、新たな困難な状況においても、効果的な対処方法を見つけることができます。

こうした各ポイントを押さえながら、レジリエンスを高めていくことが、レジリエンス教育には必要です。また、レジリエンスは、健全な肉体と精神を養うことにも繋がるため、レジリエンス教育は子どもたちの心の問題を予防する「予防教育」としても位置づけられています。

そのほか、レジリエンスは、学力につながる認知能力の土台となる非認知能力においても重要な要素でもあることから、レジリエンス教育を行うことによって、子どもたちの学びへ向かう姿勢についても変化をもたらすでしょう。

コアネット私学教育フォーラム2025ではレジリエンスをテーマにした講座を行います。
是非ご参加ください。


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[参考資料・文献]

  • 平野真理著(2022)『レジリエンスは身につけられるか 個人差に応じたサポートのために』東京大学出版会
  • 秋山薊二(著), 中村 和彦(編集)(2023)『レジリエンス研究 レジリエンス思考に基づくソーシャルワーク』福村出版
  • American Psychological Association “Building your resilience”
(2025年7月)