教育におけるVUCA

3分でわかる! 今話題の教育キーワード特集

教育におけるVUCA

コアネット教育総合研究所
横浜研究室 主任研究員 熱海 康太


 

VUCAとは

 VUCAとは、

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実性)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

の頭文字を取った言葉で、元々は冷戦終結後の「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」である国際情勢を意味する軍事用語として使われました。
 昨今ではビジネスや経済の世界で使われるようになり、教育界でもこれからの子どもたちを取り巻く状況を「VUCA時代」「VUCAワールド」などと示すことが増えてきました。

 これからの子どもたちが生きる時代や世界は、「よく変わり、予測が難しく、複雑で、つかみどころがない」ものだということです。また裏を返せば、それだけ多様な可能性と選択肢があるものと捉えることができます。

教育におけるVUCA

 ただ、上記の説明ではそれこそ「つかみどころ」がないものになってしまうので、もう少し具体的に昨今の教育時事に落として考えてみたいと思います。

  • Volatility(変動性)
    教育における昨今の変動性とはなんでしょうか。例えば、GIGAスクール構想によりタブレットが子ども1人に1台配布された教育DXはそれに当たるでしょう。これにより、旧来からの学び方は大きく転換されただけでなく、ソフトのアップデートが容易に可能になることから常に変動的に指導を考えていく必要が出てきました。
  • Uncertainty(不確実性)
    教育においても、大きな影響を与えた出来事として「コロナ禍」の襲来が挙げられます。コロナ禍において教育現場も大いに混乱をしましたが、これからの時代においても未知なることで、同じような錯綜する状況がないとは言えません。不確実で予測しえない事態が発生した場合、コロナ禍の教訓を生かすことができるかが問われます。
  • Complexity(複雑性)
    教育の複雑性は、例えば人生のゴールが多様になったことを挙げることができます。少し前までは、良い大学を出て、良い企業に勤め、老後は退職金と年金で生活…といった幸せのロールモデルを多くの人々が見ている時代でした。しかし、今や幸せの形は千差万別で、複雑です。それぞれの個性を見極めてキャリアの素地を育てる必要があるのです。
  • Ambiguity(曖昧性)
    「詰め込み教育がいい」「いや、ゆとり教育が必要」と0か100とまではいかなくても、教育の方向性が分かりやすい時代がありました。しかし、昨今は、「主体性」「学びに向かう力」「資質・能力」など、抽象的で捉え所の難しい教育キーワードが乱立しています。それをどこまで噛み砕いていけるかは教師の大きな課題となります。

教育におけるVUCAへの2つのヒント

  • トライアル&エラーの仕組みを回せるようにする指導
  • 一括りにしない思考

 このような教育を取り巻くVUCAにおいて、教師はどのように対応していけば良いのでしょうか。それこそ、多くの教育書やサイトで語られている通り、様々な方向からのアプローチが必要になります。しかし、ここに抽象を書いても、皆さんに利のない3分間になってしまうのであえて具体を2つ提示します。

 

トライアル&エラーの仕組みを回せるようにする指導
 それぞれの目指すゴールの多様性を考えれば、教師や親が「こうするといい」「言う通りにしておけば幸せが訪れる」と教え込む時代は終わりました。また、知識や技能を詰め込んでも、いくらでもネットで調べたり、システムが代替したりしてくれる世の中になっています。
 つまりは、自分でトライアル&エラーを繰り返していく中で、方向性の決定や問題解決ができる資質や能力を身につけていかなくてはならないのです。
 具体的な方法としては、PDCAサイクル(それをより具体化して教育に落としたものに「けテぶれ学習法」などがあります)、ラーニングコンパスでも示されているAARサイクル、OODAループ思考、自己調整学習理論など自律的な仕組みを学ばせることです。これらの仕組みを子どもたちに伝え、最も大切なことは取り組みを「伴走により支える」ことです。

一括りにしない思考
 「男だから」や「〇〇人だから」などの一括り思考は教育的にNGなのは、言うまでもありません。学校ハラスメント案件で原因になるのも、一括りに児童生徒を当てはめた結果、気持ちに齟齬が発生してしまったことによるものが多いです。
 ただ、「〇〇さんは、理数系が得意だから」「〇〇さんは、世話好きだから」はどうでしょうか。これも「その子らしさ」という一括りで、子どもを捉えてしまってはいないでしょうか。しかし、VUCA時代、VUCA世界には多様な選択肢があり、「その子らしさ」という枠すら小さい可能性があります。傾向や特性を掴むことは重要なことですが、そこを踏まえた上で一括りに縛られない思考が教師には大切になってきます。

(2023年7月)