社会性と情動の学習(Social Emotional Learning:SEL)

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社会性と情動の学習
(Social Emotional Learning:SEL)

コアネット教育総合研究所 横浜研究室室長 福本雅俊

SELとは?

 日本では、「社会性と情動の学習」と訳されるSocial Emotional Learningは、いわゆるIQ(知能指数)だけではなく、EQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)にも焦点を当てた学習の取り組み全般を指します。

 アメリカでSELを推進するCASELは、その要素として「自己認識」「自己管理」「責任ある意思決定」「関係性構築」「社会認識」の5つを挙げ、これらの要素について、授業において育むこと、学校の教育活動全体として育むこと、そして家庭と社会において育むことを目指していくべきであると定義しています。ただ、SELとは特定のプログラムがあるものではなく、上記の要素を様々な教育活動において折り込み、生徒たちに身につけさせていくことになります。つまり、既にSELを導入しているという学校についても、その具体的教育活動の内容そのものはそれぞれ異なるということです。

 まだ日本国内で、明確にSELを導入しているという学校は多いというわけではありません。一方、アメリカでの導入は進んでおり、チャータースクールのHigh Tech Highや、私立学校のNueva Schoolなどで導入されています。

近年、SELが注目を集める背景

 社会情勢が不安定で不確か、かつ複雑な今、学ぶことの目的や学びのあり方については全世界的に転換が求められていると言えるでしょう。学びとは、自分個人の中に閉じられたものではなく、学んだことを社会や他者のためにどのように活かしていくのか、あるいは他者と共にどのようにして学んでいくのか、ということまでを視野に入れて捉えていくべきものになってきています。つまり、学力を幅広く捉えた時、SELが定義する資質・能力もまた、学校教育において育成することを目指すべきものということになるわけです。

 また近年、脳科学や教育心理学の領域での研究が進み、「自己管理力」や「関係性構築力」が狭義の学力(知識習得型の学びの成果を測定する偏差値等)の向上にも影響を及ぼすということが明らかになってきています。私たちも、2020年度に主体的学びを科学する研究会を立ち上げ、参加校の先生方と共同で研究を進めています。それらの研究成果として、直接的にではないにしても、学校適応感や居場所感、友人や先生方との関係性などが動機づけに影響し、最終的に狭義の学力にも良い影響を及ぼしているということが分かりました。(参照:【「主体的学びを科学する研究会」研究発表会/資料ダウンロード】

 すなわち、SELで育成を目指す資質・能力は、それ単体としてもこれからの教育において育成を目指すべきものであり、かつ狭義の学力向上に影響を与える要素としても重要なものということになるわけです。

私学におけるSELの実践

 ただ、先ほども整理した通り、SELには特定のプログラムというものがありません。様々な教育活動において、SELが育成することを目指す要素を伸ばすための取り組みを落とし込んでいくということになります。

 私学であれば、例えばミッション系の学校は日々の礼拝等において自己と向き合い自己認識を深めたり、与えられた賜物をどうやって他者のために活かすのか、といったことを思考したりしています。宗教系の学校でなくても、新入生に対して数日間におよぶオリエンテーションを実施することで学校に居場所を作る、学校生活等における目的意識を醸成するなどの取り組みが行われているでしょう。広く捉えれば、これらの取り組みもSELの要素を取り込んだものと定義づけることができるのではないかと思います。

 つまり、改めて新しい取り組みの導入を検討せずとも、既にSELの要素を取り込んでいる学校は数多くあるということになります。そうだとすると、私学においては、改めてSELを意識しなくて良いということになるのでしょうか。

私学におけるSELをさらに効果的なものにするために必要なもの

 私学におけるSELの実践においては、2つ改善すべき課題があると考えています。ひとつは、狭義の学力も含んでトータルに資質・能力を育成していくという意識の下、改めて学力観、学習観を捉え直していく必要があるということ。もうひとつは、先生方ご自身もまた、SELで育むべき要素を育み伸ばすことを意識していく、ということです。

 学習指導要領でも新しい学力観が定義されています。ただ、狭義の学力と広義の学力を、依然として二項対立的な捉え方や、切り離された別々のものという捉えられ方をしているケースが少なくないと感じます。既に述べたとおり、これらは決して切り離されたものではなく、相互に関係し影響し合っているものなのです。自校における、広義の学力が向上していく構造を明らかにし、全教職員で共通認識化していくことが、今後益々必要になるでしょう。

 そして、教師のあり方が生徒たちに大きな影響を与えているということも、いっそう意識するべきでしょう。先生方も自己認識を深め、多様な他者が存在するということをよく理解し、生徒との関係性の構築、さらには教員同士のより良い関係性の構築のために努力をしていく必要があると思います。そうすることで、先生方の学校が、全体として「学ぶ共同体」となっていくのではないでしょうか。

 要するに、SELとは、学ぶ環境を作っていくための非常に重要な土台を構築していくことを目指した取り組みということになるのです。

これからの教育の根幹を支えるSEL

 SELは、OECDが立ち上げたEducation2030との親和性も非常に高いものです。ここで定義されているwell-beingを生徒が定め、student agencyを明確にするためにも、SELの実践が重要になります。

 私学には、この教育における土台を構築するポテンシャルがあると思います。自校としてのご実践を、ぜひ効果的なものにしていっていただきたいと思います。

(2021年7月)