関係主義的能力観 ―ポスト学歴社会の能力を考える―

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関係主義的能力観
―ポスト学歴社会の能力を考える―

コアネット教育総合研究所
神戸研究室 主任研究員 藤澤 憲人

関係主義的能力観」とは、従来の「能力は個人の中に蓄積・所有されるもの」と捉える個人主義的能力観に対し、能力を「人、環境、道具、文化的文脈などとの相互作用(関係性)の中で動的に構成され、発揮されるもの」と捉える考え方です。

個人主義や過度な競争が批判され、協働的な学びやICTを活用した探究学習が推奨される中で、育む対象である「能力(知識・スキル)」そのものをどのように捉えるのかを見直すうえでも重要な概念となっています。

なぜ今、「関係主義的能力観」が注目されるのか?

総合型選抜など、試験の手法は多様化していますが、現在の学校教育では、テストによって知識やスキルの蓄積量(所有量)を個別に測定している以上、「知識やスキルは個人の頭の中に蓄えられているもの」という前提は変化していません。
 しかし、様々な要素が複雑に影響し合い、将来の予測が困難な現代では、一人の優秀な人がすべての問題を解決することはできません。また、その「優秀な人」になるために必要な知識やスキルを、一覧としてあらかじめ示すことも極めて困難になっています。

こうした状況の中で、能力は各個人の内部に独立して存在するものではなく、自分自身も含めた人・物・環境など、あらゆるエージェントが相互に影響し合う関係性の中から、自然に(アンコントローラブルに)生じるものだと捉える考え方が注目されています。

ここで強調しておきたいのは、関係主義的能力観が「社会に役立つ人材」を育てるための新たな方法論として議論されているわけではないということです。むしろ、現在の学校教育が前提としてきた個人主義的能力観そのものが、競争や序列化、孤立を再生産し、現在表出している様々な問題の拡大に加担してきたのではないかという問いを投げかけています。
 そして、そうした前提まで立ち戻り、教育のあり方を見直そうとすることが、この能力観の議論の根底にあります。

「借り」の学習論

関係主義的能力観の考え方の一つが、ドゥルーズの哲学やポスト構造主義、ニューマテリアリズムの思想に依拠した楠見友輔氏の「借りの学習論」[1]です。

「借りの学習論」とは、学びや能力を知識やスキルの内部的な蓄積と捉える「所有の学習観」から脱却し、学習を、様々なエージェント同士が影響を与え合うことでアンコントローラブルに変化していくプロセスとして捉える考え方です。

借りの学習論を基盤とした授業設計においても、目的はありますが、その目的は絶対的なものではありません。他者や環境からの抵抗や働きかけ応じて調整され、ときには当初は想定していなかった方向へと展開することもあります。
 また、この考え方の下では、あらかじめ定められた一律のカリキュラム進度によって人を比較・管理するという発想そのものも存在しません。状況に応じて、それまで獲得した知識や考え方に固執せず、柔軟に手放す(アンラーニングする)ことも学びの一部として位置付けられます。

あらかじめ設定されたゴールへの到達ではなく、異質なものとの出会いによって生じる「予期せぬ変化や迷い(生成変化)」そのものに価値が置かれます。そのため、自分を揺さぶる他者や環境と相互に応答し続ける活動が不可欠となります。

関係主義的能力観が示すもの

関係主義的能力観は、決して「個人の努力や知識の蓄積」を否定するものではありません。むしろ、人が何かを成し遂げる際には、常に環境や他者との相互作用の中で学び、行動しているという現実に即した能力観・学習観です。

これからは、「何を知っているか(What you know)」だけでなく、「何と、誰とつながり、その関係の中でどのように変化したか(How you interact)」という観点も、重要になります。
 改めて自身の活動が前提としている学習観を見直し、学習観を「実体」から「関係」へと開いていくことが、これからの探究的・協働的な学びを支える土台になると考えられます。

参考文献

  • [1]楠見友輔(2026).『人新世の教育論:「借り」の学習と共(コモン)の創造』(慶應義塾大学出版会)

コアネット私学教育フォーラム2026

(2026年8月)