デジタル併願制

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デジタル併願制

コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長補佐 中村 恭弘

※この記事は2025年6月20日現在の情報を基にしています

要約

デジタル併願制は、受験生が複数の公立高校に志望順位をつけて一括出願できる制度です。従来の単願制と異なり、受験生は成績や内申点等がデジタル処理によって総合的に評価されます。この制度の導入により公立高校の併願先として受験してきていた私立高校の受験者層が減少する可能性があります。私立高校にとっては、公立高校以上の魅力をどれだけ打ち出すことができるか、という点がさらに重視されてくるでしょう。

デジタル併願制とは

デジタル併願制とは、受験生が複数の公立高校に対して志望順位をつけた上で一括して出現できる制度です。出願や選抜のプロセスはデジタルシステム上ですべて処理されます。
従来の単願制(公立高校への出願は原則1校のみとする現行の制度)と異なり、受験生は成績や内申点等がデジタル処理によって総合的に評価され、公立学校内においては、出願した複数の学校のうち、受験生に適した学校1校への合格判定がなされることになります。
現状検討されている仕組みは、経済学のマッチング理論の一つであるDAアルゴリズム(受入保留アルゴリズム)というものです。これは、受験生の成績や内申点等の総合的評価の結果と、志望校の優先順位をもとに、志望した複数の学校から受験生にとって適当な進学先を示す仕組みで、ニューヨーク市の公立高校入試でも活用されている実績がある仕組みです。

高校授業料無償化とデジタル併願制

合わせて確認しておきたいのが、授業料の無償化です。公立高校は全国で完全無償化。私立学校においては、自治体により異なりますが、東京都では所得制限なしに上乗せ支援を実施、大阪府では、公立・私立とも完全無償化を段階的に導入中です。その他の自治体でも、国の基礎支援に上乗せするかたちでの独自支援を行っている自治体は多いです。こうした制度は現状私立高校にとっては追い風にもなってはいるでしょうが、授業料以外の諸経費も考慮すれば、依然として公立高校に進む方が、経済的な安心感が担保されることに変わりはありません。

デジタル併願制による受験者層の変化とこれから

デジタル併願制が導入されれば、公立の高校に合格できず、やむを得ず私立の高校に進学するケースは減少することが見込まれます。結果として、これまで公立高校のすべり止めとして私立高校を受験していた層が減る可能性が高く、私立高校の受験者層にも影響が及ぶと考えられます。公立高校と私立高校の金銭的な差は縮まってきているとはいえ、私立高校の立場からすれば、公立高校の併願先として受験してきていた層が極端に少なくなることも予想されます。

それがどれだけの規模になるかは現状未知数ですが、私立の高校には、公立の高校以上の魅力、公立の高校には無い魅力を、どれだけ打ち出すことができるか、という点がさらに重視されてくることになるでしょう。このタイミングに、改めて自校ならではの教育の理念とメソッドを明確にし、自校の魅力はどこにあるのかを整理してみませんか。

(2025年6月)