系列・付属校に対する法人本部の戦略的マネジメントのあり方(2)

  • 第2回 系列・付属校の生徒募集のポイント

     

    小中高の受験マーケットの特色

     学生・生徒募集の方法は、大学、高校、中学校、小学校という学校種別によって異なる。その学校種別特有のやり方もあるし、その年齢の受験生特有の考え方も存在する。法人本部はその規模からしてふだんは大学のことを中心に考えがちであるが、その感覚で小中高にアドバイスをすると、失敗してしまう可能性もあるので注意が必要だ。
     その意味で、まず、小中高の受験マーケットの特色を整理しておきたい。ここでは3つの違いを指摘しておこう。1つは、募集地域の違いである。大学では、大規模であれば全国から学生が集まる。しかし、小中高校は(寮制学校は除いて)、通学できる範囲で選ばれるので、募集地域は狭い。狭い中での競合校との取り合いなのである。つまり、生徒募集上、細かなエリア戦略がとても大切になる。
    高校は公立との併願が意識されるので、県内受験が比較的多い。それと比べると中学校の方が遠方からでも受験されることが多い。通学時間は大半は1時間以内であるが、1時間半、2時間という生徒もいないことはない。小学校は通学のことを考えると遠方は少ないが、一部の有名校にはかなり遠方からでも通学している児童はいる。
     生徒募集におけるエリア戦略を考える場合には、遠方はたまたま気にいってくれた受験生がいれば受験をしてくれるかもしれないが、こちらからアプローチするのは、1時間圏内でいいだろう。効率と効果を考えれば、エリアを2倍の広さにするぐらいであれば、範囲を広げずに2倍の資源投下をしたほうがいい。また、エリア戦略でいうと、首都圏では下り電車で通うことへの抵抗が大きい。つまり、学校の所在地よりも都心寄りはターゲットとしては可能性が低いと考えるほうが妥当である。ただし、弱いエリアを強化するのか、強いエリアにもっと力を入れるのかは、状況によっても異なるので、一概には言えないことは付記しておきたい。

    受験率の違いによってターゲットは異なる

     特色の2つめは、当該年齢における受験率の違いである。大学であれば、高校3年生の約半数が受験しているわけだが、高校入試では、中学3年生のほぼ全員が受験に臨んでいる(公立高校を含む)。中学校入試は、首都圏で16%程度、全国では8%程度である(公立一貫校を除く)。小学校入試はもっと少なく、首都圏で3%程度、全国では1.8%しかいない。
     このことが何に影響するかというと、生徒募集活動のターゲットがどこになるかである。もちろん、受験生に直接アプローチしたいのであるが、個人(家庭)へのアプローチは難しいので、受験生が集まる所へアプローチするのが得策である。ほぼ全員が受験する高校入試では中学校がターゲットになる。ほぼ全員のことなので、中学校としても進路指導を実施しているからである。しかし、中学校入試や小学校入試では、全員が受験するわけではないので、学校や幼稚園では進路指導をしない。学校へアプローチしても無駄なのである。しかし、中学校入試や小学校入試は受験そのものが特別なことなので、ほとんどの受験生はダブルスクール=塾に通っている。つまり、塾をターゲットにするのが正しい選択である。
     大学は高校訪問を主要な学生募集施策としているが、それは大学進学率が高い高校をターゲットにすればよい。高校はレベルがはっきりしているので、自分の大学に進学する受験生がどこにいるのか見当がつくので、ターゲットを絞りやすい。高校募集における中学校訪問は、学校ごとにレベルの違いがないので、エリアで選別するしかない。また、高校募集においても、近年は中学校の進路指導機能が弱体化してきており、その分塾が肩代わりしているので、塾訪問も主要な生徒募集施策になっている。塾は、明確ではないまでも、ある程度はレベルが分かる。訪問すべき塾の選定は、エリアだけでなく、塾の種類(進学塾、補習塾、個別指導塾等)による選別も行うことが必要である。まず、各塾の特色を把握することから始めなければならない。
     小中高の受験マーケットの特色の3つめであるが、それは保護者(親)の関与である。近年は高校や大学でも保護者が口を出すようにはなっているが、やはり低年齢のほうが保護者の関与度は強い。小学校は100%、中学校でも実質上はほぼ保護者の意見で学校選びが決まっている。本人に決めさせる保護者もいないことはないが、多くの家庭では知らず知らずに子どもに保護者の意見を刷り込んでいるので、実質的には保護者が決めているといっていいだろう。受験生本人が決定権を持つ場合と保護者が決定権を持つ場合では、明らかにアピールすべきことが違う。そのことをきちんと認識して広報しなければならない。
     また、近年は、母親ではなく父親が子どもの受験に関与するようになっていると言われている。中学校入試を行う学校の中には、父親向けに会社帰りに寄れる夜の時間帯に学校説明会を開催しているところもある。低年齢ほど父親の関与度は高いが、父親の観点は母親と異なるところもあり、父親を意識した広報を真剣に考え始めた学校も増えている。

    入試制度によっても生徒募集効果が違う

     学校種別によって入試制度も異なる。大学は近年、入試が多様化しており、一般入試だけでなく、センター利用入試、推薦入試、AO入試など様々な方法で入試をしている。高校では、県によって方法は異なるし、名称も違うのであるが、いわゆる一般入試と推薦入試の二本立てで入試をしているところが多い。東京都では、一般入試に都立高校との併願優遇制度を取り入れている学校も多い。この場合、推薦入試のように中学校の内申点の基準を設けるので、多くの学校で中学校の内申点で左右される入試を採用していることになる。高校入試はこの内申基準の高低が生徒募集に大きく影響している。生徒が集まらなくなると、基準を下げればなんとかなると考えがちであるが、それは間違いである。基準を下げた年度の入試は志願者が増えるかもしれないが、次の年度には落ち着いてしまう。そうすると、また下げなければならなくなる。こうなると、レベル低下の悪循環に陥ってしまう。安易に基準を下げる方策は禁物である。いかに基準を上げられるかを考えなければ、生徒募集を永続的に維持することができない。
     中学入試は、全国的にほとんどの学校が一般入試のみである。そして、以前は多くの学校で学科試験とともに面接試験を入れていたが、近年では実施しない学校が多くなってきた。学科試験は、国語・算数の2科目から理科・社会を加えた4科目で実施する学校が増えてきている。つまり、ペーパーテストでの学力勝負にシフトしてきているのである。1回の入試本番で実力を出すことが望まれるのである。その代わり、高校とは異なり、私立の併願をたくさんできるようになっている。東京・神奈川では2月1日から6日ぐらいまでの6日間、大阪・兵庫・京都では1月16日から19日ぐらいまでの4日間に主に入試が設定されている。また、多くの学校で複数回の入試を行っており、2度以上チャレンジできる学校が増えているのである。さらには、午後入試まで登場しており、1日に2度受験することが可能になっているので、体力さえあれば相当の学校数を受験することができるのである。そのことは、学校側から見れば、入試日程をどこに置くか、どのような入試制度にするかが生徒募集上の戦術として非常に重要になるということである。入試日程の置き方ひとつでレベルを上げてきた学校も少なくない。
     小学校入試は、私立小学校の数が少ないので、選択できる学校も少ないのであるが、やはり私立同士の併願ができるような入試日程にはなっている。それこそ就学前の子どもが入試にチャレンジするので、入試がとても厳しい試練であることは確かなことである。小学校や中学校の入試は、受験生本人も大変であるが、それを支える保護者も大変である。本人以上に緊張し、ヤキモキしながら受験をしているのである。そのことをきちんと分かってあげて、受験生や保護者にやさしい入試制度を取り入れる学校がマーケットには受け入れられているのである。

    生徒募集施策は受験生の学校選択行動に合わせる

     生徒募集の施策の種類は、大きくいうと学校種別によって違いはない。広告、印刷物、ウェブサイトなどのメディア、オープンキャンパスや相談会などの説明会、学校訪問、塾訪問などの訪問活動、入試制度の4つが生徒募集施策の根幹だろう。
     メディア施策でいうと、新聞・雑誌広告、交通広告などのマス広告と自校で発信する学校案内、ポスター、ウェブサイトなどとのバランスが学校種別によって異なることがポイントの1つである。認知してもらうための施策、興味をもってもらうための施策、理解し志望してもらうための施策というように、受験生側の出願までの学校選択行動の流れの中で、どこが弱く、どこに資源を投下すべきかを考えて施策を打たなければならない。
     首都圏の中学校の例になるが、昨年の秋に受験生保護者に学校認知度とイメージについてのアンケート調査を行った(コアネット教育総合研究所「私立中学の校風調査」)。調査では、私立中学校の名前を挙げて「よく知っている」「ある程度は知っている」「少しだけ知っている」「名前だけは知っている」「全くわからない」の5段階で認知度を尋ねた。「名前だけは知っている」が認知したが興味を持っていない層(=A層)、「少しだけ知っている」「ある程度は知っている」が興味を持ったが理解はしていない層(=I層)、「よく知っている」が理解し志望も考えている層(=D層)だと仮定すると、首都圏の最難関男子校「開成中学校」が、D層8.4%、I層50.5%、A層39.2%、合わせて98.1%であった。一方、偏差値40程度のある学校(X校)だと、D層0.3%、I層4.0%、A層47.9%、合計52.2%であった(図表1)。

    <図表1>
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     いずれも山手線内にある都心の学校なので、首都圏全域から受験しやすい立地であることは共通している。認知をしている保護者は、開成はほぼ100%であるが、X校も半数程度にはなっている。開成の2010年度入試の受験者数は約1,000名、X校は複数回入試ののべ人数で約200名である。認知をしているだけでは受験には結びつかないことはこのデータからもお分かりいただけるだろう。
    開成とX校では、興味を持っている層(I層)、理解をしている層(D層)に大きな差が出ている。名前を知られているだけのA層をいかにI層以上に持っていくかが生徒募集上のポイントといえよう。
    生徒募集施策との対応でいうと、新聞・雑誌広告や交通広告、塾や中学校に貼るポスターはA層を増やすことに効果を発揮する。外部の相談会や学校訪問、塾訪問はA層だけでなくI層を増やすことに有効だろう。ウェブサイトや学校案内等の印刷物はI層を、学校説明会はD層を増やすことに効果を発揮する。入試制度を改革することは話題を作り出すのでI層を増やすことにつながる。
    先に、I層を増やすことが生徒募集上のポイントであると述べたが、調査結果を分析すると、A層以上の合計が70%を超えると、I層以上の増加が顕著になる傾向があることが分かっている(図表2)。つまり、A層以上が70%以上になるまでは、認知そのものも向上させることを考えるべきである。ちなみに、本調査では首都圏の私立男子校・共学校では、114校が対象となっているが、A層以上が70%になっている学校は49校(43%)であった。残りの57%の学校は、まず認知度を上げることに注力すべきなのである。

    <図表2>
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    新たな学校選択行動の動き

     ここまで述べると、ではA層を増やすための施策は具体的にどのようにすればよいのか、I層を増やすためにはどうすればよいのか、ということを知りたくなると思うが、これについては、学校の状況(レベル、地域、生徒数等)によっても異なるし、当コーナーのスペースでは書ききれないので別の機会に譲ることとしたい。
     ここでは、再度、受験生の学校選択行動を整理して終わりにしておきたい。一般的な消費行動のモデルとして、AIDMAの法則、AISASの法則などがあるが、それを応用して受験生の学校選択行動をAISDAS(アイスダス)の法則と銘打ち紹介しておきたい。注目・認知(Attention)し、興味・関心(Interest)を持ち、検索・評価(Search)し、欲求・志望(Desire)を持ち、行動・出願(Action)し、そして共有(Share)するという行動パターンである(図表3)。

    <図表3>

     インターネット時代になっているので、受験生(保護者)は、興味を持った学校については、必ずといっていいほどネット検索をして、受験情報サイトや掲示板・ブログ等から情報を得ている。そこでの情報や風評を見て(完全に鵜呑みにしないまでも)判断をしているのである。学校選びは、手にとって確かめられる商品を買うこととは違って、入学して体験してみないと良さ・悪さが本当には分からないものである。その意味では、通学している生徒やその保護者が共有してくれる情報が大きな判断材料となることは間違いない。
     学校説明会に足を運ぶのも検索・評価行動の一つと捉えることができる。ネット等で得た情報が本当にそうなのか、自分の目と耳で確かめるという最終判断の機会である。説明会等で在校生の保護者の話を聞かせる学校が増えているのもこれに対応したものである。生徒募集・広報活動をいくらきちんとやっていても、学校の中身がきちんとしていなければ、すぐに風評で断罪されてしまう。今はそういう時代なのである。その意味で、系列・付属校のマネジメントでは、生徒募集のマネジメント以上に、教学面のマネジメントが重要となってくる。教学面は現場に任せるという法人本部も多いと思われるが、最低限のポイントは押さえてチェック機能を果たす必要があるだろう。次回は、教学マネジメントのポイントをお伝えしていきたい。

    <著者紹介>
    コアネット教育総合研究所所長 松原和之
    一橋大学社会学部教育社会学専攻卒業後、企業の経営企画部門に勤務。1997年より三和総合研究所コンサルタント。企業や学校法人の経営コンサルティングに従事。2000年よりコアネット教育総合研究所主席研究員、2003年より同所長。現在、私学経営や中等教育に関する調査・研究を行いながら、私立中高からの改革に関する相談や調査の依頼を受けている。