系列・付属校に対する法人本部の戦略的マネジメントのあり方(1)

  • シリーズ概要 系列・付属校に対する法人本部の戦略的マネジメントのあり方
    大学法人、短大法人にとって小中高といった系列校や付属校のマネジメントの重要性が高まっている。特に、生徒募集面および教学面のマネジメントをいかに行うかは、今後の系列・付属校の経営を左右する大切な課題となっている。系列・付属校の改革の進め方を紹介する。

    中高マネジメントReport

    第1回
    系列・付属校マネジメントにおける法人本部の役割とスタンス

    今こそ、系列・付属校のマネジメントが重要!

     長引く景気低迷と少子化。私学にとっての経営環境は決して良くない状態が続いている。大学では設置基準大綱化以降の新規参入による競争の激化と定員充足率による助成金のカットで経営がままならない法人も少なくない。
     その上、近年問題が表面化してきているのは系列校や付属校の経営悪化である。大学ほどではないにしても、小中高校でも競争は激しくなっている。私立の小中高校でもかなり多くの学校が定員割れになっている。大学系列・付属校は大学の知名度が助けになって、比較的まだ状況は良いほうだが、中高法人などは小回りの効く経営を活かして急スピードで改革を進めており、安穏としていられない状況である。今後、自治体によっては、定員が充足できない学校の助成金をカットするというような政策がとられないとも限らず、そうなったら収支のバランスを保つことが不可能になり経営破綻する学校も続出するだろう。

     大学を持つ法人にとっては、収支予算のほとんどが大学で占められており、小中高などの系列・付属校のマネジメントにはなかなか目がいかないだろう。しかし、大学で血のにじむような努力をして節約したコストが系列・付属校の経営悪化で消し飛んでしまうということもあり得ないわけではない。
     法人本部からみて、とりあえず収支がバランスしていればいい、と放っておいた系列・付属校は、爆弾を抱えたまま、導火線を火が静かに進行しているかもしれない。今こそ、系列・付属校のマネジメントに本格的に取り組むべきである。

     

    系列・付属校のことをどれだけ知っているか?

     これまであまり経営上の課題として上らなかった系列・付属校については、法人本部ではあまり理解していない場合もある。いざ、きちんとマネジメントしようと思っても、マネジメントの要点が分からないのではないだろうか。
     まずは、以下の質問に、資料などを見ずに答えてみてほしい。

     

    1. 1. 系列・付属校の入試における各日程ごとの形式倍率と実質倍率はどれぐらいか?
    2. 2. 入試各日程ごとの合格者の歩留率はどれぐらいか?
      日程ごとに異なるとすると、それはなぜか?
    3. 3. 入試各日程ごとの偏差値はいくつか?高校入試であれば推薦入試の基準はどれぐらいか?
    4. 4. 学校説明会参加者の何%が出願しているか?また、出願者の何%が受験しているか?
    5. 5. 出願者の出身塾で一番多いところはどこで、何%のシェアか?
      居住地をエリア別にみると、どのエリアが多いか?それはなぜか?
    6. 6. 系列・付属校の生徒募集上のアピールポイント(“売り”)は何か?
    7. 7. 生徒募集上ライバルとなっている学校はどこか?併願されている学校はどこか?
    8. 8. 周辺の学校で人気があるの学校はどこで、それはなぜ人気があるのか?
    9. 9. 小中高の受験人口はどのように推移しているか?今後増えるのか減るのか?
    10. 10. 受験生やその保護者が求めているものは何か?

     

     さて、きちんと答えられたであろうか。ここに挙げた質問は、系列・付属校の生徒募集に関することである。1~5は、入試や生徒募集のテクニカルなことを聞いているが、これが把握できていないと生徒募集の戦略を考えることができない。6は生徒募集上もっとも大切なことである。アピールポイントが明確になっていないと生徒募集は厳しい。7~8は周辺他校の状況を把握できているかどうかである。そして、9~10はマクロな受験生動向である。1~6のような自校のこと(School)、7~8の周辺他校のこと(Surrounding)、9~10の受験生のこと(Student)の3つの領域をきちんと把握していないと生徒募集のマネジメントはできない。我々はこれを「3S-Check」と呼び、改革を進める際の一番始めに取り組むことを推奨している。上記10項目のうち、半分以上明確に答えられない場合は、系列・付属校のことをもう少し真剣に把握するように努めるべきであろう。

     

    大学とは異なる小中高校のマネジメント

     さて、生徒募集のことだけではなく、小中高校のマネジメントを行うことは容易ではない。まず、教学の考え方が大学とは異なる。そして、いわゆる組織のマネジメント論理が通用しにくい。
     法人本部の方は、企業出身の方も少なくない。共通言語は、組織の論理とPDCAマネジメントをベースとしている。そういう方にとっては、小中高校のマネジメントは異国のことのように感じるだろう。議論をしても、ちゃんと組織の論理が通用しないことがあるのはご経験済みであろう。しかし、異国側は異国側で、それが自分たちの文化であり言語であると思っている。異国の人々に対して我々の言語を使えと開国を迫っても反発があるだけだろう。黒船のような強力な威圧力をもって制圧するつもりなら話は別だが、法人本部はあくまでもスタッフ組織である。ライン組織(事業部)である小中高校の現場に対してはサポートする立場であることを忘れてはいけない。黒船ではなく、大陸から伝来してやがて日本の文化に合わせて発展していった仏教のように、その国の文化に合わせた変化を加えて布教を図らなければならないのである。それが、法人本部が系列・付属の小中高校をうまくマネジメントするための第一歩である。

     

    企業組織に見るスタッフ組織の役割

     法人本部はスタッフ組織だと述べた。企業の典型的な組織形態は、「ライン&スタッフ組織」である。「ライン」とは事業を行う直接部門であり、直接的に収入を得る事業を行っている部門である。「ライン」は、経営トップから現場まで指揮命令系統が縦につながっている。社長ー役員ー部長ー課長ー係長ー係員という縦のラインがはっきりしている。いわゆるピラミッド型組織である。
     一方、スタッフ組織は、この縦のラインには入らず、横の関係になる。この横の関係は指揮命令系統ではない。専門的な立場からライン組織を補佐する役割である。「マネジメント・サポート」と「テクニカル・サポート」を行うのである。スタッフ組織は、例えば、人事部、総務部、経理部、経営企画部といった部門である。
     スタッフ組織は、企業の中枢にあり、場所もいわゆる本社に存在するので、偉い人たちだと勘違いする場合が多い。「人事部長は時期社長候補だ」などと言われたりもする。そうなると、スタッフ組織の人たちは、ライン組織を自分が統括している気になってしまう。予算を牛耳って、「俺の言うことを聞かないと、金を出さないぞ」と財務課長が事業部長に言うのである。これは、企業の中でもしばしば軋轢を生んでいる。事業部に言わせれば、「金を稼いでいるのは俺たちだ。俺たちが暑い日に汗水たらして稼いでいるのに、財務部のやつらは涼しい本社から偉そうなことを言いやがって」となってしまうのである。
     マネジメントしているのは、本当は社長や担当役員というラインの上長である。スタッフ組織は、社長や役員のサポートをする役割であって、統括しているわけではない。
     ともすると、学校法人の中でも、このような勘違いから、法人本部と系列・付属校との間に軋轢が起こってしまうのである。校長が法人本部の財務課長や企画課長のことを「あいつら偉そうにしやがって」と言っているのを私は何度も見たことがある。組織には人間関係も大切である。恨まれたり嫌われたりするのは百害あって一利なしである。まず、立場を認識してコミュニケーションのデザインから始めなければならない。

     

    法人本部に求められる戦略的サポート機能

     もう一つ、学校法人の事務組織が陥りやすいパターンは、完全にテクニカル・サポートしかしない場合である。財務部はお金の計算しかしない、総務部は事務用品の発注や施設の営繕しかしないというパターンである。経営トップのブレインになって戦略的なマネジメント・サポートをしないと、安定的な組織運営はできても、組織を変えていくことはできない。改革が必要な学校においては、この戦略的サポートの役割がとても重要なのである。
     経営が安定している平時には、予算管理だけをきちんとやっていれば良かった。しかし、改革期には、教学面も生徒募集面の現状と課題もきちんと把握し、戦略策定の専門家としてのサポートをしなければならない。
     このシリーズでは、系列・付属校の戦略的マネジメントについて、主に中学校・高校を想定して具体的なマネジメントのポイントをご紹介し、法人本部の業務の一助にしていただきたいと考えている。

     次回は、小中高校の生徒募集について具体的な施策のポイントをご紹介します。

    次へ[第2回]≫

    <著者紹介>

    コアネット教育総合研究所所長 松原和之
    一橋大学社会学部教育社会学専攻卒業後、企業の経営企画部門に勤務。1997年より三和総合研究所コンサルタント。企業や学校法人の経営コンサルティングに従事。2000年よりコアネット教育総合研究所主席研究員、2003年より同所長。現在、私学経営や中等教育に関する調査・研究を行いながら、私立中高からの改革に関する相談や調査の依頼を受けている。