系列・付属校に対する法人本部の戦略的マネジメントのあり方(3)

  • 中高マネジメントReport

    第3回 系列・付属校の教学マネジメントのポイント

    教学改革のスタートはビジョン構築から

     法人本部や法人事務局は、学校法人全体の経営面を管理し、理事会の意思決定をサポートする部門であるため、大学や中学・高校などの教学組織とは一線を画している。しかし、環境変化のスピードが速く、迅速な改善・改革が必要な今の時代において、学校法人の意思決定が現場と切り離されていることは望ましくない。法人本部は今、教学組織の企画立案や計画策定に積極的に関与することを求められている。現場と一緒になって教学面についても企画していくことが必要なのではないだろうか。
     その意味で、今回は、小中高校の教学改革についてのポイントを整理しておこうと思う。

     教学マネジメントは、教学に関するPDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクルを構築することに他ならないが、大きな改革の場合には、まず現状把握を行い、それを踏まえてビジョンを見直し、戦略を策定するところから始めなければならない。教学改革の方向性の定義が必要なのである。「どんな学校になりたいのか」「どんな教育をしたいのか」がなければ、いくら目標を立てても実の無いものになってしまう。
    ということで、教学改革のポイントその1は、「ビジョン構築」である。
     私学には建学の精神や教育理念があり、教育実践はその上に成り立っている。しかし、創立から数十年、百年と経っている私学は、建学の精神が古い時代を前提にしたものになっている場合が多い。そこで、今の時代に合わせた理念の解釈をすることが必要になる。それがビジョン構築=理念の現在化である。創立者の思いをよく心にとめた上で、もう一度「どんな教育をしたいのか(どんな児童・生徒を育てたいのか)」「どんな学校になりたいのか」そして、私たち教職員は「どんな教職員でありたいのか」を考え、改めて形にするのである。
     私は、それを「教育ビジョン」「学校組織ビジョン」「教職員ビジョン」と呼んでいる。

     

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     このビジョン構築は、教学組織のマターではあるが、実は学校法人全体の問題でもある。系列校がビジョンを作るのであれば、理事会が関与すべきである。つまり、法人本部のマターでもあるのだ。ビジョンを検討するには、現在の情勢分析、環境把握が必要である。そのための調査や情報収集は法人本部が積極的に関与すべきことであろう。そして、ビジョンを検討する過程をマネジメントするのは、小中高では難しいので、法人本部が直接サポートするか、サポートするコンサルタントを法人本部で選定したりすることが必要であろう。
     教学組織の現場では、一人ひとりの教職員の思いが強すぎるので、うまくまとまらない場合が多い。私たちが支援してビジョンを構築した私学の例でいうと、おそらく、私たちが関与しなければ、何年経ってもビジョンがまとまっていなかったのではないかと思えるぐらい様々な意見が飛び出してきたこともある。こういう場合は、第三者的に関わることができる法人本部の役割は大きいと思われる。

     

    私学としての特色のための戦略策定

     ビジョンは、ありたい姿を描くのであるから長期的な目標像・理想像である。それを掲げることで方向性は見えてくるが、こんどはそれをどのような道筋で達成するのかという戦略がなければ到達することは難しい。教学改革のポイントその2は、「戦略策定」である。
     それは、同じ頂上を目指すにも色々な道があるのと同じである。例えば、「○○な国際人を育成する」という教育ビジョンを掲げたとしよう。しかし、国際人を目指すにも、色々な道がある。英語力を高めるのも一つであるが、中国語も使えるトリリンガルを目指すというやり方もあるかもしれない。また、英語力はほどほどでも異文化コミュニケーション能力を高めるという戦略をとる学校もあってもよいだろう。はたまた国際人というからには、逆に日本の文化を理解し身に付けることを徹底するのだというやり方もあるだろう。考えれば、進む道はいくらでも出てくる。もちろん、このようなことを全て実現するのだという意気込みの学校もあるかもしれない。しかし、学校の資源は有限である。児童・生徒のキャパシティにも限りがある。すべてを実現するというのは聞こえはいいが、結局は逆に特色のない学校になってしまうだけである。戦略においては、何を選択するかということも大事であるが、何を捨てるかということも一方で大切なことである。何かをしないことが何かをすることを際立たせるのである。私学であれば特色を持たなければ意味が無い。従って、この戦略を策定するということは私学にとってとても大切なことなのである。
     この戦略策定においても法人本部の出番はかなりある。他校がどのような戦略をとっているのか、子どもたちやその保護者のニーズはどこにあるのか、自校にはどのような資源があり、強みを持っているのか、ということを客観的に調査・分析できるのは第三者である。ここにも法人本部の関与できるところがたくさんあるだろう。

     

    改革を根づかせるためのマネジメントシステムの構築

     ビジョンを構築し、それに従って戦略を策定したら、こんどはそれを元に具体的な中期・短期の目標づくりと計画づくりが必要になる。ここからは教学組織の専門マターになってくるのであるが、法人本部としては、その検討の枠組みを提示し、検討されている内容が必要十分条件を満たしているのかをチェックする役割がある。
     まず、このPDCAの枠組みをきちんと構築しなければならない。「マネジメントシステムの構築」が教学改革のポイントその3である。目標・計画を立てたら、それを実行し、実行の結果をチェックする仕組みが必要である。いわゆる学校評価の仕組みであるが、大学のように第三者評価ではなく、小中高校の場合は、まず自己評価の仕組みを作り上げることから始めなければならない。自己評価のためには、在校生や保護者の評価を把握する必要があり、そのためのアンケート調査などを設計しなければならない。アンケート調査などは、私たちのような外部の機関に外注することも可能であるが、法人本部が主導する形で、外部機関を導入するほうが後々のマネジメントがやりやすくなる。外部の専門家を導入すれば、評価する観点などはアドバイスをもらえるが、法人本部としてもある程度理解しておく必要はあるだろう。
     小学校、中学校、高校で細かい部分は違ってくるが、基本的な教学面の評価観点は共通している。一つは、教育理念やイメージである。そして二つ目は教育内容。ここには、カリキュラム、生活指導、進路指導、行事、クラブ活動などが含まれる。三つ目は教育環境である。施設設備だけでなく立地や周辺環境、安全管理体制なども含まれる。四つ目は教職員である。スキル・授業技術だけでなく、熱意や態度なども評価しなければならない。そして、最後に保護者との連携やケア体制である。このような観点を持っているだけでも、教学組織と話が通じやすいだろう。

     

    教学改革の本丸はカリキュラムの見直し

     教学改革のポイントその4は、「カリキュラムの特色づくり」である。戦略策定のところで述べたように、私学であれば、必然的に独自性や特色を求められる。その特色をもっとも色濃くだすことができるのが広い意味でのカリキュラムである。小中高校は、大学と比較すると専門度が低いので、いわゆる正課のカリキュラムでは特色を出しにくいことは確かである。しかし、同じ科目を履修するにしても、異なる観点や異なる方法で授業を行ったら、まったく違う授業にすることもできる。そういう意味では、指導方法も含めてカリキュラムであると定義したほうがよい。また、正課だけではなく、プラスαで行う授業や行事、特別プログラムなど、特色を出すことが可能なものはたくさんある。ビジョンや戦略を踏まえて、具体的にどのような教育を行うべきかを徹底して考えるべきである。
     例えば、かえつ有明中学・高等学校(東京都)は、2006年の校地移転・共学化の際に、「サイエンス」という国語と理科のクロスカリキュラムを作り、特色を打ち出した。それは、「技術立国日本を支える人材を輩出する」という校長のビジョンがあったからこそ生まれたカリキュラムであり、特色である。
     また、麹町学園女子中学校・高等学校(東京都)は、「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性を育てる」という教育ビジョンを達成するために、キャリアデザインのための「みらい科」というカリキュラムを作った。
     このように、ビジョンから一貫したカリキュラムの特色を作ることが私学としての教学改革のポイントである。
     法人本部は、カリキュラム改革そのものの検討には加わらないかもしれない。しかし、そういう検討が必要なのだという枠組みを示すことはできる。検討の枠組みや進め方を示し、改革を促す役割は法人本部として重要であろう。

     

    改革の壁は組織改革

     最後に、教学改革のポイントその5であるが、それは、「組織改革」である。小中高校の教学組織は、教科・学年・校務分掌の三次元マトリックス組織になっている場合が多い。一人の教員がいずれかの教科に属し、いずれかの学年に属し、いずれかの校務分掌に属しているのである。一人の教員が3つの組織に属しているわけであるが、どの組織のつながりが強いかは、学校によって異なる。私学には学年によるつながりが強い学校が多いが、これは担任が児童・生徒の生活面まで含めてきめ細かくケアする風土がある学校である。こういう学校は、大きな職員室があり、その中の座席が学年ごとにまとまっている形態となっている。
     教科のつながりが強い学校は、伝統的な進学校に多く見られる。職員室もないことはないが、各教科に準備室や研究室を持ち、教員はそこに常駐している。高い教科指導力が強みで、アカデミックな雰囲気の学校である。
     校務分掌のつながりが強い学校は、教務(学習指導)、進路指導、生徒指導など機能別の組織なので、校長・教頭からの縦のマネジメント体制が比較的強い学校である。
     それぞれに一長一短はあるので、絶対にこの形態が良いということはないが、今何をすべきで、どのようなことに力を入れるべきかを考えて、組織を作らなければならない。
     女子校から共学校に転換し、進学校を目指した鶴見大学附属中学・高等学校は、校舎を建て直す際に、教科教室型校舎とした。この校舎では、すべての教科が教科専用の教室を持ち、その直ぐそばに教科の教員室を置いている。教科指導力を強くするという意図を持った組織改革の表れである。
     このように意図的に組織の形を変えることができれば、改革は速く進む可能性が高くなる。しかし、多くの場合はこのような変化のチャンスというのはつかみにくい。そして、さらに大きな問題は、教職員の意識改革の壁である。教職員の意識改革については、拙著「学校改革のための5つのヒント」に詳しく記したので、そちらをお読みいただきたい。
     ここでは、一つだけ法人本部の方々にアドバイスをしておきたい。それは「郷に入りては郷に従え」ということである。これまで色々なところで、系列校の校長と法人本部の担当者とのやり取りを見てきたが、あまりにもお互いに自分のやり方を通そうとするのだ。完全に相手に合わせる必要はないが、ある程度は系列校のことを理解し、そちらの立場も分かった上でやり取りをしてほしいと思う。これからの時代に求められる法人本部は、上から目線でチェック・管理する役割ではない。系列校と一緒になって伴走し、改革をサポートしていく役割である。相手を変えるには、まず自分を変える――それがもっとも大事なことである。