系列・付属校に対する法人本部の戦略的マネジメントのあり方(4)

  • 第4回 系列・付属校の改革の進め方

     

    大学系列・付属校でも「ほぼ進学校」!?

     法人本部は、法人全体経営の視点から系列・付属校をマネジメントするのが役割である。そうなると、前提として、法人全体における系列・付属校の存在の意義と位置づけを明確にしておく必要があるだろう。
     小学校もしくは中学校から高校、大学と設置している学校法人は、一貫教育を行うことを目的としているところも多いだろう。例えば、慶應義塾であれば、小学校(幼稚舎)から大学・大学院まで一貫教育を行っている。早稲田大学もそうであるが、正確にいうと同じ学校法人には高校、中学校しかない(中学校は、2010年4月に開校)。小学校を持つ早稲田実業学校は系属校という位置づけである。しかし、卒業生のほとんどは、そのまま大学に内部進学するという意味では完全一貫教育を行っていると言っても間違いではない。異色なのは、早稲田中学校・高等学校であるが、「早稲田」の名前を冠しながらも、大学とは一線を画し、進学校としての歴史を歩んできている。現在では、系属校となり、約半数は早稲田大学に進学しているが、一貫教育の枠からは外れていると言える。
     早稲田や慶應義塾のように、難易度が高い大学の系列の場合は、高校からの内部進学率が高くなるが、大学の難易度が低くなるにつれて、内部進学率は低くなる傾向にある。
     高校卒業生の70%以上が系列の大学に進学する場合を「純付属校」、30~70%の場合を「半進学校」、30%未満を「ほぼ進学校」と分類すると、首都圏の例でいうと、慶應義塾、早稲田や明治、青山学院、立教、中央、法政といったMARCHクラスの系列は「純付属校」が多いが、明治学院、成城学園、玉川学園、日本大学などの系列は「半進学校」が多くなる。帝京、関東学院などの中堅大学や大妻、実践などの女子大学などの系列は、「ほぼ進学校」となっている学校が多い。
     特に、中学校受験をする保護者の場合、大学進学の希望は高く、MARCH以上を望んでいる保護者は多い。つまり、MARCH以上の系列・付属校であれば、そのまま内部進学してもいいが、それ以外であれば他大学受験を志向することになるのである。
     中学入試の難易度でいえば、MARCHクラスの系列・付属校は偏差値が55~60ぐらいである(全国中学入試センター結果R4偏差値)。それ未満の学力の受験生はMARCHクラスの系列・付属校に入るのはなかなか難しい。しかし、コアネット教育総合研究所で行った調査では、偏差値50~55の6年生男子児童を持つ保護者の83%がMARCH以上の大学への進学を希望している。45~50でも81%、40~45でも76%、40未満でも64%の保護者がMARCH以上の大学に進学させたいと希望しているのである(図表1)。

     つまり、その偏差値帯にある他の系列・付属校は、自らの系列の大学に進学させるのでは満足してもらえない。大学系列・付属校であってもMARCH以上の大学を狙う進学校にならなければニーズに応えられないのである。
     こう考えると、多くの大学系列・付属校は高校から大学への内部進学を100%に近づけることは無理なことで、レベルを落としてでも完全一貫を貫くか、完全一貫はあきらめて他大学進学に力を入れてレベルを維持するかのどちらかしかない。法人全体としては、一貫教育を行うことが理想なので、なるべく内部進学をさせるように誘導したいが、入口段階でのレベルを落としてしまったら、数%でも内部進学してくる学生のレベル低下を招くので、痛し痒しなのである。完全一貫を守ろうとすると高校も大学もお互いにレベル低下を招き、共倒れになってしまう。そういう場合は、お互いに自立して頑張るしかない。

    一貫教育の意義を問い直す

     そうなると、系列・付属校の意義は何なのだろうか。こういう場合に、私が大学や高校の方にお話するのは、「一貫教育」は生徒が一貫して内部進学していくという「形式の一貫」ではなく、各段階の学校で建学の精神を貫く「理念の一貫」が重要なのではないかということである。一人の生徒が小学校から入学してそのままその学校で16年間大学まで通ってくれるのが「一貫」なのではなく、小学校から大学までが「一貫した理念」のもとに教育していればいいのではないか。
     生徒側からみれば、系列の大学に自分の学びたい学部・学科・専門がなければ進学はしない。違う分野で学びたい、違う教授の下で研究がしたいという希望は出てきて当然のことである。それを無理矢理押し込めてそのまま内部進学させようとするのは学校側の驕りである。もちろん、生徒自身が教育理念を気に入り、学びたい学科もあったのであれば、自分の意志で進学すればいい。そのように考えたらどうだろうか。
     つまり、大学系列・付属校であっても、希望があれば他大学に進学させなければならない。他大学の受験ができるだけの学力をきちんとつけることを標榜するのである。この点では、大学の学部が限られている系列・付属校では、「ほぼ進学校」化を徹底させている。
     例えば、芝浦工業大学柏高等学校は内部推薦での進学者は卒業生の14%程度(2010年)で、他大学への合格実績がなかりある。国公立・早慶上理・MARCHののべ合格者数は、卒業生数を超えている。
     東京農業大学第一高等学校も中等部を新設する時(2005年)の広報資料には、「国公立・早・慶・上智大学に50%合格させます」というキャッチフレーズを入れ、「ほぼ進学校」であることをアピールした。今年、優先入学制度で東京農業大学に進学した生徒は卒業生全体の15%程度と形式的には完全一貫にはなっていないが、教育の根底にある「実学主義」は大学と同様に中学校・高校でも貫かれており、教育理念は一貫している。

    大学系列・付属校の改革の動き

     大学系列・付属校の改革の動きとしては、大きくいうと3つある。1つは、一貫化強化のための別法人高校の系列化である。近畿圏の大学でその動きは活発であるが、首都圏の大学でもいくつかの事例が出始めている。中央大学横浜山手中学校・高等学校や早稲田摂陵中学校・高等学校などがその例である。これはブランド力の強い大学だからこそ出来る戦略である。大学のブランドをかぶせることで高校を改革しようという動きである。この場合、形式の一貫化は数年で達成できるかもしれないが、理念の一貫化は本腰を入れて取り組まないとできない。そこが肝といえるだろう。
     2つめの改革の動きは、これも一貫化強化策であるが、中学校や小学校の新設である。より長い年限の一貫化を実現しようという動きである。2010年には、首都圏では早稲田大学高等学院の中学部や中央大学附属中学校が新設された。近畿圏でも関西大学が初等部・中等部・高等部を一気に開校した。これ以外にも近年中学校や小学校を新設する例は多く、一貫化を強めている。特に、中学校・高校の6ヵ年は公立も中高一貫化を進めているように、一貫教育のメリットが広く認められているため、大学との一貫を意識しなくても一貫教育の意味を持っている。
     系列・付属校の改革の動きの3つめは、共学化である。女子大ではない大学では、大学における男女のバランスも考慮して共学化を進めるところが多い。男子学生の多い、明治大学や法政大学は、明治大学付属明治中学校・高等学校が2008年に、法政大学中学校・高等学校(法政大学第一中学校・高等学校から校名変更)が2007年に共学化して女子を受け入れている。2002年には早稲田実業学校も共学化しており、男子校の系列・付属校は少数派になりつつある。
     共学化することでもちろん女子が増えるということもあるが、同時にレベルアップも図ることができる。明治大学付属明治では、女子の比率を絞っているため、中学校入試の女子の難易度が年々アップしている。ただし、レベルが上がってくると、他大学受験のニーズも高まるので、その対応も迫られる。MARCHクラスの系列・付属校でも他大学受験への対応が必要になってきている。
     その点では、入試日程的に中学入試で他の難関進学校との併願で受験されやすい立教新座中学校・高等学校は内部進学率がやや低く、他大学受験の対応にも力を入れている。高校2年から他大学進学クラスを設置し受験対応の授業を展開しており、早慶上智に68名というだけでなく東大にも4名合格させている(2010年)。
     内部進学率が高い純付属校から半進学校、ほぼ進学校に変革していくためには、生徒の学力伸長が重要であるが、その前提として、教師の指導方法の変革と生徒の意識の変革が必要である。これまで系列大学に進学させればよかったものが、受験を意識しなければならないとすると、指導のあり方はまったく変わってくる。他大学の入試問題研究から始まって、受験に対応した学力向上を促す指導法に変えていかなければならない。
     一方、生徒側は、まず意識を変えなければならない。このまま大学に内部推薦で進めるという雰囲気と自分の力で合格を勝ち取るのだという雰囲気はまったく違う。生徒個々に将来を見据えたモチベーションがないと進学校的な雰囲気にはならないだろう。その意味では、キャリア教育の充実が大切である。進学校化のためには、受験対策の前に、まずキャリアデザインプログラムを取り入れることをお勧めしたい。

    大学と切り離した系列・付属校の改革

     これまで例に挙げてきたような比較的有名な大学ではなく、大学としてはそれほどメジャーではない法人の場合は、また少し違った系列・付属校戦略が必要になる。つまり、簡単に言えば、大学をあてにしないで戦うということである。
     洗足学園中学校・高等学校は、大学を持つ法人であり、以前は洗足学園大学附属中学校・高等学校という校名であった。しかし、大学が音楽大学であるため、進学校化を方針とする改革にはメリットにならなかった。そこで、2002年に今の校名に変更をした。むしろイメージとしては大学との切り離しを図ったのである。進学校に向けた様々な改革が功を奏し、今では押しも押されもせぬ進学校になった(2010年の東大合格者数は5名)。今年、唯一系列大学につながっていた高校の音楽科も募集停止を発表し、名実ともに大学とは切り離された中高一貫進学校になったのである。
     また別の事例であるが、2006年に校地移転、共学化、校名変更の大改革を実現した、かえつ有明中学校・高等学校は、大学を有する嘉悦学園の学校である。しかし、女子校から共学校へと変革をする時に、同時に進学校化しなければならないという認識もあり、あえて「嘉悦女子」から「かえつ有明」へと校名を変更したのである。校名の“ひらがな化”は、必ずしも大学との訣別を意味したわけではないと思うが、進学校としての新しい学校への変化を十分に感じさせるものであった。そのお蔭もあって(もちろん、それ以外に新しい教育コンセプトをたくさん打ち出したのだが)、共学化初年度の中学校入試の志願者数は前年度の6倍以上に跳ね上がった。
     このように系列・付属校だからといって、大学のブランドに頼るだけでは生き残れないと判断し自立して改革に踏み切った学校は多い。それほど有名大学ではなくても、大学があることでそれなりに知名度が高いといメリットはあるはずである。それを活かしながらも、大学とは一線を画する中学校・高校としてアピールしていくことが戦略上重要である。
     法人本部は、そのような系列・付属校のポジショニングをきちんと行い、戦い方を決めてあげなければならない。このようなケースでは、大学とはまったく別の戦略をとることになるので、小中高のマネジメントに詳しい専門のコンサルタントなど、外部資源を活用することも必要であろう。事実、私たちの研究所にも、系列・付属校の改革を支援してほしいという法人本部からの依頼も多い。大学と系列・付属校、お互いが自立して生徒募集をできる状態を作り出すことが法人本部の役目である。
     伝統的な女子大学や中堅大学の系列・付属校の中には、以前のイメージから脱却できずに隘路にはまってしまっている学校も多い。法人全体の教育理念を一貫させながら、形式では必ずしも一貫を狙わないという一貫教育のコンセプトをきちんと整理し、大学と小中高の位置づけ、役割を明確にして戦いやすくするのが法人本部の役割である。新しい学校法人としてのトータルのブランディングを考えていってほしい。
     そして、繰り返しになるが、付属・系列校のマネジメントは、大学のそれとは異なる部分が多いことから、大学で使った方法をそのまま適用したり、大学での成功体験をそのまま当てはめることはやめたほうがいい。法人本部の方々も一度、付属・系列校の授業を見学しに行ったり、学校説明会や合同相談会に足を運んでみてはいかがだろうか。現場を見れば、今まで抽象論で考えていたことが、具体的にイメージでき、戦略にも厚みがでるはずである。
    <著者紹介>
    コアネット教育総合研究所所長 松原和之
    一橋大学社会学部教育社会学専攻卒業後、企業の経営企画部門に勤務。1997年より三和総合研究所コンサルタント。企業や学校法人の経営コンサルティングに従事。2000年よりコアネット教育総合研究所主席研究員、2003年より同所長。現在、私学経営や中等教育に関する調査・研究を行いながら、私立中高からの改革に関する相談や調査の依頼を受けている。