調整授業時数制度(2030新学習指導要領検討のポイント)

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調整授業時数制度
(2030新学習指導要領検討のポイント)

コアネット教育総合研究所
神戸研究室 藤澤 憲人

要約

「調整授業時数制度」は、授業時数の柔軟な配分を可能にし、教育の質向上と教師・児童の余白創出を目指す新制度のことです。この制度によってすべての学校が独自に教科時数を調整し、探究や研修等に活用することができるようになります。今後選ばれる学校になるためには「量から質」への転換やカリキュラム設計力が重要になります。

「調整授業時数制度」とは、義務教育段階における授業時数の取り扱い方(授業時数の増減や使用用途)に一層の柔軟性を持たせることで、「教師の仕事や子供の学びに余白を生み出すとともに、教育の質の向上に資する」ことを目的に、中央教育審議会(中教審)が次期学習指導要領の施策の1つとして検討している制度です。現状でも「教育特例校制度(新教科の設定が可能)」や「授業時数特例校制度(総授業時数を維持しつつ1割を上限に各教科の標準授業時数を下回ることが可能)」など、同様のことができる制度が存在していますが、使用用途に制限があったり、申請に時間と手間がかかったりすることから、国への申請が不要な「常に利用可能な選択肢」とすべく、議論が進められています。

具体的な制度の内容

現在も議論進行中であり、今後も変更される可能性はありますが、現時点(2025年9月5日)では、下記の4つの取り組みの実施を可能とすべく議論が進められています。

  1. ① (全体の授業時数は維持(1,015単位時間)しながら、)教科単位では標準授業時数を(上限の範囲内で)下回る時数設定(以下、調整授業時数)ができる
  2. ② 調整授業時数の活用方法(他教科の時数増や必要な教科の新設等)を学校が決められる
  3. ③ 調整授業時数の活用方法として、現状の教科には該当しないが「児童生徒の資質・能力の向上に資するプログラム」を実施する時間(以下、裁量的な時間)にあてることができる
  4. ④ 裁量的な時間の一部を「授業改善に直結する組織的な研究・研修等」に充てることができる

具体的な上限の設定(授業時数特例校制度では各教科の標準授業時数の上限1割が削減可能)や、不適切な運用(児童生徒の負担過重、受験対策への過度な傾斜 等)を防ぐ仕組みづくりなどの課題は多く残りますが、現行の制度下での事例の創出と知見の蓄積は進んでおり、より地域や子供のニーズに寄り添った、特徴ある教育課程が生まれることが期待できます。

 

※高等学校段階での議論※
 高等学校段階においても、「単位制の大幅な柔軟化」は議論が進められています。高等学校段階においては、必履修科目の減単や学校設定科目の増単の判断の柔軟化に加え、取り組みは2つです。

  1. ① 単位の増減をより細かく調整できるように、年間の単位数を細分化する(74単位を分割し148単位とし、学期ごとの単位認定を容易にする)
  2. ② 既にその内容を十分に習得していると判断できる生徒に、必履修科目であっても、当該教科・科目の履修を免除・振替えができるようにする

 

私学にとっての「調整授業時数制度」の議論の意味

これまで多くの私学は「標準時数+α」で独自の教育を展開してきました。進学指導の強化や英語・ICT教育の拡充、探究的プログラムなどはその典型例です。また、標準授業時数よりも「どれだけ授業時数が多いか」を「特色」として競い合ってきた側面もあります。そうした私学にとって、今回の「調整授業時数制度」の議論は「さらに主要教科の時数を増やせるようになる」と受け止められてしまう恐れがあります。しかし、正しくは配分や編成を“調整できる”裁量が制度として認められたと受け止めるべきでしょう。

これまでは教科ごとの標準時数を下回ることができなかったため、独自プログラムを導入するには上乗せしか選択肢がありませんでした。その結果、生徒の負担増や時間割の過密化、いわゆるカリキュラム・オーバーロードにつながっていました。しかし、授業量を増やすだけでは学習効果や探究の深化に必ずしも結びつかないことは共通認識となりつつあります。主要教科の授業時数を過剰に増やすのではなく、探究・情報活用・表現力育成に配分したり、学年縦断のカリキュラム編成を行うことで学びの重複を削減したりするなど、「調整授業時数制度」の議論を契機に「量から質への意識の転換」を行うことが大切です。

一方で、柔軟化は教育の質を教育時数の多さによって表現してきた学校にとっては、逆に「量を採る」ことへの説明責任が発生することを意味します。今後は「学校の方針に基づくカリキュラム設計力(=カリキュラム・マネジメント力)」が問われる時代になっていくことが予想されます。

学校は、教育目標や生徒の実態に合わせて授業時数や内容を、意図を持って設計し、学習成果を検証・可視化し改善に活かしていく必要があります。また、それを実現するために校内外の人材を活用し、持続可能な運営基盤を構築することも求められます。こうした取り組みができる学校こそが、今後も選ばれ続ける学校になるのではないでしょうか。

 

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[参考]

(2025年9月)

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