アントレプレナーシップ教育

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アントレプレナーシップ教育

コアネット教育総合研究所
横浜研究室 主任研究員 熱海 康太

アントレプレナーシップ教育とは

 アントレプレナーシップ教育は、起業家精神教育と訳すことができます。この文字だけを見ると、会社を起こすためのビジネススキルを教育する、と捉えがちですが、学校現場で使われる広義のアントレプレナーシップ教育はそれが本質ではありません。文部科学省では、アントレプレナーシップを「急激な社会変化を受容し、新たな価値を生み出していく精神」と捉えています。つまり、ただ起業をするためのビジネススキルを身に付けさせるのではなく、私たちを取り巻く諸問題(既存の企業内での新たな発想や技術開発、地域課題の解決など)に対して幅広く主体的に解決する力をつけていくことを目的としています。

 

アントレプレナーシップ教育の必要性

 現代はVUCAワールドとも呼ばれ、日々予測できない変化を見せる社会の中で、我々は生きていかなければなりません。そんな時代に、単純なインプットとアウトプットを繰り返す教育ではもはや対応することができません。むしろ情報をそこまでインプットしなくても検索することができる世の中では、それらを精選し、つなぎ合わせて、新たな価値を作っていくことが重要になります。また、課題に対して、主体的に関わり、他者と協働をして、困難にめげずに取り組んでいくことのできる力も必要になるでしょう。アントレプレナーシップ教育は、そのような力を育み、現代の荒波に上手に乗りながら逞しく生きるために施されるものです。

 

アントレプレナーシップ教育の具体的な活動

 アントレプレナーシップ教育の具体的な活動内容として、分かりやすいのは、疑似企業として商品開発や企画を社会に発信していく活動です。中学校・高等学校のアントレプレナーシップ教育を掲げる探究学習では、この例が多いです。ただ、上記にも示した通り、もう少し広い意味でアントレプレナーシップ教育を捉えるならば、地域課題の解消のために、ものづくりを行ったり、与えられたタスクを自ら立てたプランで実行していったりすることも「急激な社会変化を受容し、新たな価値を生み出していく精神」を育むためのアントレプレナーシップ教育の例と言うことができるでしょう。

 
アントレプレナーシップ教育の全体像

令和4年度科学技術人材養成等委託事業「全国アントレプレナーシップ醸成促進に向けた調査分析等業務」における調査結果の公表について:文部科学省 【第1章】全国アントレプレナーシップ醸成促進に向けた調査分析業務報告書 P.7より

 

中学校・高等学校におけるアントレプレナーシップ教育

 文部科学省が示している「アントレプレナーシップ教育の全体像」では、理想の未来社会像や目指す人材の育成には、「大学卒業までに広く身に付けるべき能力」「アントレプレナーシップの醸成」「アントレプレナーシップの発揮」が必要としています。

 特に、中学校・高等学校での探究などを通してのアントレプレナーシップ教育では「アントレプレナーシップの醸成」の部分の関わりが深いと考えられます。

 

アントレプレナーシップを育んでいくためには

 アントレプレナーシップを子どもたちに育んでいくためには、「動機付け・意識醸成」と「コンピテンシーの形成」を繰り返していくことが記されています。

 「動機付け・意識醸成」とは、気持ちの部分の成長を促すことです。
 「この問題は自分に関係あることだ」という共感力や、「困難なことがあったけれど負けずにがんばろう」とする折れない心を育てるということです。これらは、例えば、動画や資料による問題提起、ゲストによる講演、グループで行う課題解決学習において養うことができます。意識の醸成というと精神論に陥りがちになることがありますが、どこに目をつけるというのかという型の提示や合意形成を行う際の具体的な手法について助言をしていくこと等が重要です。

 「コンピテンシーの形成」とは、創造力、協働力、行動力などの資質・能力をつけていくことです。
 この力は、チームを組んで問題解決に取り組む活動によって、効果的につけることができます。子どもたちは自分たちの計画と現実のずれを経験し、試行錯誤を繰り返していく中で、力を伸ばしていきます。これらの活動では、失敗を恐れさせない雰囲気作り、視点を明確にした効果的なふりかえりが大切になります。

 

(2024年1月)