自己調整学習

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自己調整学習

コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長 福本 雅俊

自己調整学習とは

 自己調整学習とは、学習者が自分自身の学習活動に能動的に関わり、自らの学習を調整するという学び方を指します。この学び方で学ぶ学習者は、自分自身の立てた目標を達成するために、自分の学習に対する意欲や学習方法を自ら観察、調整し、効果的に学習を進めていくことができます。

 社会の変化が大きく、そしてスピードが速い現代の社会においてはこれという正解はありません。私たちには、常に学び続け、自分自身をアップデートしていくことが求められています。こういった時代を生きていく子どもたちに必要な不可欠な学習スタイル、それが自己調整学習であるといっても過言ではないでしょう。

自己調整学習を実現する主体的学習者

 では、自己調整学習を実現する主体的学習者とはどのようなイメージなのか。それは、目標とその達成のための計画を立て、実行し、結果をもとにふり返り改善する、というサイクルを回し続ける学習者としての姿です。以前、このコーナーでも紹介した「Education2030」において、ラーニングコンパスの概念の中に示されているAARサイクルと同義のものになります。

自己調整学習が成立するために必要な要素

 学習者が能動的に学習に関与するにあたり、必要な要素が3つあります。それは、「動機づけ・学習方略・メタ認知」です。

(1)動機づけ
 何のために学習をするのか、学習に向かっていくエンジンとなるものが動機づけです。動機づけ理論にも様々なものがありますが、最も馴染み深い動機づけの種類は「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」ではないでしょうか。外発的動機づけというと、褒められることや叱られることを回避することがその源になっている動機づけであり、ネガティブなイメージがあると思います。しかし、動機づけがないよりは外発的動機づけでもあったほうが良く、最も良くないのが「無動機づけ」という状態です。いかにして、動機づけを主体的に学びに向かっていくための良好な状態に持っていくか、ということがポイントになります。

(2)学習方略
 端的に言えば、学習方法ということになります。ただこれも、いわゆる認知的な学習方略と情意的な学習方略の二種類に分類することができます。認知的な学習方略というのは、どのように覚えるか、どのように理解するか、という認知に関わる学習方略。情意的な学習方略は、困難な課題に対する時にどのように気持ちを学習に向かわせるか、といった気持ちに関わる方略です。これらには、一般的な方略が既に存在しています。ただ、最も重要なポイントは、それぞれの生徒に適する学習方略は異なる、ということです。すなわち、学習者自身が自分に適した学習方略を構築することが必要なのです。もちろん、先生方から学習方略を示すことは必要なことでありますが、その中から選び自分のものとして活用していくのは生徒たち自身である、ということです。

(3)メタ認知
 メタとは、高次という意味です。つまり、メタレベルから自分自身を客観視して自己認識を持つことをメタ認知、と言います。メタ認知は、モニタリングとコントロールという2つの段階に分けることができます。自分自身を客観的に観察するという段階と、そのうえで自分自身の学習行動を改善するという段階です。正しく自己認識を持つためには、人のメタ認知に関するメタ認知的知識を持つことが必要になります。そのうえで、いまの自分がどのような状態なのかを理解するということが必要になるのです。

 これら3つの要素をとおして自らの学習に能動的に関わっていくことで主体的な学びを実現する、というのが自己調整学習で目指している方向性ということになります。
 ただ、どの要素からアプローチしていくのか、ということについての正解というものは、それこそありません。学校の文化や価値観、生徒たちの状況や特性によって、学校ごとのアプローチを検討、構築していくことが求められるでしょう。

自己調整学習の教育現場での応用

 自己調整学習そのものは、1990年代にアメリカの教育心理学者であるジマーマンらによって研究が進められた理論ですが、日本でも数多くの実践研究が行われており、書籍も多く出版されていますので、ご参考にされると良いと思います。代表的な一冊をご紹介しておきます。(自己調整学習研究会 編『自己調整学習ー理論と実践の新たな展開へー』2012,北大路書房)

 この理論を実際に現場で活用していく時のやり易さは、先に挙げた3つの要素が枠組みとして示されているところです。先ほども述べたとおり、この3つの要素のうち、どこを切り口にするか、という部分における正解はありません。そのうえで、それぞれの学校、生徒の状況を検証的にふり返り、3つの枠組みをふまえてどこからアプローチしていくか、ということを整理して検討していくことになります。現実には3つの要素は複雑に絡み合っているものであり、相互に影響を及ぼしている部分もありますが、切り口を決めて実践を進めていきながら、ほかの要素にどのような影響が及ぼされているかを分析し、活動を改善していくというサイクルを回していくことで、教育活動の精度は全体的により向上していくことになるでしょう。その枠組みのひとつを示しているのが、自己調整学習理論です。

学習に対する捉え方の拡がり

 Education2030でも、新学習指導要領でも、この「学び方」という部分にフォーカスが当てられています。まさに、世界的な潮流と言えるでしょう。これは、学習とは知識を習得したり思考力を磨いたりということだけではなく、学び方を学ぶ、というところにまで捉え方が拡がっているということを意味しているのではないでしょうか。

 学びに対する考え方が変わっていく、今その転換にあります。自校の現状を、自己調整学習の枠組みでふり返り改善する絶好のタイミングなのではないでしょうか。

[参考文献]

※自己調整学習研究会 編『自己調整学習ー理論と実践の新たな展開へー』(2012,北大路書房)

(2021年12月)