コアネット教育総合研究所
所長 松原 和之
教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、「学校が、デジタル技術を活用して、カリキュラムや学習のあり方を革新するとともに、教職員の業務や組織、プロセス、学校文化を革新し、時代に対応した教育を確立すること」です。
単にアナログなものをデジタルに置き換えるという「デジタル化」ではなく、教育や学校に変容、変革を起こすことが不可欠な要素です。
2019年度から始まった政府のGIGAスクール構想により、2021年4月段階で全国の小中学校の9割で一人一台情報端末の体制が整備されたといいます。
いま進めている教育のICT化では、アナログをデジタルに置き換えて業務改善や効率化を起こすという発想にとどまっています。例えば、先生が児童・生徒に紙で配っていたプリント教材をデジタルでタブレットに配信するというようなことです。
校務の面でも、児童・生徒が家庭に持ち帰った書類に保護者がハンコを押して返すというやり取りをデジタル化する(インターネット上で確認する)というフローを取り入れようとしています。
しかし、このような使い方だけはICT活用の効果は小幅にとどまります。
もちろん、教材をデジタル化しただけでも、瞬時に配布、瞬時に回収、瞬時に電子黒板に提示ができますので、かなり効率化が図れます。教科書がデジタルになれば、重い教科書を何冊も毎日持って歩く必要はなくなります。保護者が押印した書類を集めて一枚一枚確認をしてファイリングするという煩わしい雑務が軽減されるだけでも校務の効率化にはなっているでしょう。
しかし、その程度であれば、従来の授業スタイルに慣れたベテラン教員には、魅力に映りません。それでなくても新しい機器の操作を覚えるのが億劫なのに、その効果が魅力的でなければ、ICTの活用を喜んではしないでしょう。
「アフターGIGAスクール」という言葉があります。良い意味では、GIGAスクール構想により児童・生徒一人一台情報端末の体制が整った後に、ICT活用が進んで、学習効果や教職員の業務削減(働き方改革)効果が成し遂げられるということですが、逆の意味で使うこともあります。
つまり、一人一台端末体制にはなったけれども、その活用が進まないという課題を抱え込むという意味でも使います。
筆者は、このままでは後者のシナリオの方が可能性が高いのではないかと思っています。すなわち、「アフターGIGAスクール」は「ICTをいかに活用するかという課題を抱え込む」ということです。
そこで切り札となるのが、「教育DX」の発想です。ちょっと便利になるとか、少し効率化するという効果を狙うのではなく、これまでの学習の在り方、校務の在り方をガラッと変えるような発想をしましょう、ということです。
下図は、Ruben R. Puentedura考案のモデルを参考に筆者が作成したものですが、いまあるものを「代替」「増強」する「デジタル化」に対して、「DX」は、いまあるものを「変容」し「再定義」することだということです。
(出典:SAMR: Getting to transformation,2013)
考え方としては、ICTを活用した結果、「変容」「再定義」されるというよりは、目指す学習の姿、目指す校務の姿があって、そこに向けてICT(デジタル技術)をいかに活用するかという方向になります。
例えば、子どもたちの協働的・創造的な学習をいかに実現するかを考えたとき、ICTの活用方法が見えてくるでしょう。
また、子どもたちの学習や進路指導を個別最適化するという目標があってこそ、ICTやAI(人工知能)の活用が必要になってくるのです。
これまでも長年、学校教育の理想が語られ続けてきました。しかし、方法論的に実現が困難で成果が出ず、別の方向に進むという揺れ動きがありました。探究的な学び、創造的な学び、個別最適な学びなど、従来から理想としては語られ続けていました。しかし真の実現は難しかったのです。
しかし、いまデジタル技術を手に入れた私たちは、これらを真に実現するチャンスを得たのです。ただし、技術の活用が「デジタル化」にとどまっていては、また実現困難で頓挫することが見えています。いまこそ「デジタル・トランスフォーメーション」して、その実現に辿り着きましょう。
ICTは若い先生が使うものという固定観念を捨てて、ベテラン先生のノウハウと教育の理想をデジタルと融合させて「教育DX」を実現していきましょう。
「アフターGIGAスクール」が‟良い意味“の方で実現することを祈りながら、今日は筆を置きます。また、後日、この稿を書き換える時には良い成果が出ていることでしょう。