コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長 福本 雅俊
学習活動の進め方や工夫は、教育心理学において「学習方略」と呼ばれています。私たちは学習するにあたって、何かを記憶したり、学んだことに対する理解を深めようとしたりする際に、意識的か無意識的にかに関わらず、様々なやり方を採用しています。
例えば、何かの物事を記憶する際に、「何度も書いたり声に出して読んだりする」「記憶したことを思い出せるか試してみる」などの工夫をすることがあるのではないでしょうか。
あるいは、たくさんの情報を処理する際に、「同じ特徴を持つものをグループ化して表を作成する」「複雑な事象を構造化して図に整理してみる」などの工夫をすることもあるでしょう。
これらの工夫は、
と呼ばれ、学習方略の種別として整理されています。
中高生が主体的に学習を進める力を身につけるうえで大切なことは、
ということです。
そもそも、学習活動の初心者段階においては、活用できる学習方略が単純なものに限定的になっている可能性があります。これは経験値の少なさの問題でもありますが、単純に知識としていくつかの学習方略を知っているかどうか、という問題でもあります。学習活動において使える「武器」を獲得させるためにも、どのような学習方略があるのか、その具体的な実践方法まで含めて伝えていくということが、効果的な学習方略の獲得に向けては必要不可欠です。
ただし、ここで重要なことは、方略を示したうえで生徒自身に選択をさせ活用すること、そして活動をふり返り改善を促し、より良い方略の獲得に向けたサポートを行っていくということです。つまり、押し付けはNGということです。
私たちはどうしても、自分自身が採ってきた方略を生徒たちに強要してしまいがちです。英単語テストや漢字テストで不合格だった生徒に「10回書かせる」というような課題を課すなどがその典型でしょう。人の認知的特性は様々であり、生徒によっては、「繰り返し書く」という方略が効果的ではないケースもあり得ます。
それ以上に、方略を自分なりに工夫していくという過程そのものも「学習」であり、重要なプロセスであるということを理解する必要があります。教員から方略を強要したり、押しつけたりすることで、「学習は自分で工夫して進めるもの」という学習に対する大切な価値観を育むことを阻害してしまうからです。
仮にそのような状況になってしまっていたとすると、自律的な動機づけを獲得することにもつながらず、効果的な学習活動を実現することができません。「学習は先生や親から指示されたものをこなすもの」「とにかく時間や量をこなせば良い」などといった学習に対する捉え方から脱却し、「学習は自分で工夫をしながら進めるもの」「工夫の仕方によって学習の効果や成果を上げることは可能なことである」という価値観を醸成することが、主体的学習者の育成には欠かせないポイントになるのです。そのためにも、学習方略を生徒自身が工夫して学習を進められるような教育的な工夫を行いたいものです。
しかしながら、教育心理学の研究が進んでいる昨今、有効な学習方略とはどのようなものなのか、ということが明らかになってきています。代表的なものを3つ紹介しておきます。
精緻化方略
学んだことを自分の言葉で詳しく説明するなど、学んだこと、獲得した知識や、学んだ概念同士をつなげたり、日常生活の事象と関連づけたりする方略
検索練習
単語カードなどを活用して記憶したことを思い出したり、教科書やノートを見ずに問題を解いてみたりするなど、インプットした記憶を取り出して再度活用する方略
分散学習
試験の数週間前から毎日少しずつ時間をとって学習したり、あえて少し時間をおいてから復習したりするなど、詰め込みではなく、一定期間にわたって分散させて学習する方略
※詰め込み学習による知識定着は短期間に留まるのに対し、分散学習のほうが定着期間は長いということが明らかになっている
これらの学習方略は、既に「高い効果」が研究によって明らかになっていますので、ぜひ生徒のみなさんに紹介し、使いこなせるように指導してみると良いのではないでしょうか。
[参考図書]
オリバー・カヴィグリオリ、ヤナ・ワインスタイン、メーガン・スメラック著 岡崎善弘翻訳
『認知心理学者が教える最適の学習法 ビジュアルガイドブック』(2022,東京書籍)