というような取り組みを行っているそうだ。このように1つのテーマについて様々な方向からアプローチをさせることにより、指針の①深い教養・広い視野の育成を図っていると言える。また、ディベートやクラスでのアクションプラン決めを行う 過程は、②表現力や③コミュニケーション力を養成する機会となっており、1年間の取り組みの流れを通して、指針が常に意識されたプログラムになっていることが分かる。
さらにC校では、中学3年間の学びを活かす場として、高校1年の総合学習と情報の時間を使って「クエストエデュケーション」に取り組んでいる。「クエストエデュケーション」とは、教育と探究社によるプログラムで、企業からのミッションについてグループで取り組み、最終的に企業に対して提案を行うというものである。全国大会も開催されるほど規模の大きい取り組みのため、導入しているという学校も多いだろう。
ここで注目したいのは、「クエストエデュケーション」を“中学での学習の集大成”と位置づけている点である。中学時代に各テーマについて知識を深め、表現やコミュニケーション力を磨いた経験をフル活用して取り組むグループ活動や企業へのプレゼンテーションは、まさに文字通りの集大成だが、この取り組みを通じて社会に出て働くことのイメージを持たせ、高2以降の受験勉強へと切り替えさせていくという意味でも、1つの大きな区切りとして機能していると言えるだろう。
C校の事例では、キャリア教育プログラムの個々の取り組みが、育てたい人材像に基づく指針を狙いにして設定され、かつそれぞれの取り組み同士にもつながりがあるように体系化されている。ひとつひとつの取り組み内容については、真新しいものではないかもしれないが、各取り組みの意図が一貫していることで、C校オリジナルのプログラムになっているのである。
しかし、現実にはプログラムを完全な形で作り上げることは難しい。C校も同様だが、実際は「走りながら作る」、つまり、やりながら修正を加え、徐々に自校独自のプログラムに仕立て上げていくことが必要になるだろう。
キャリア教育の取り組みの形に、「正解」はない。自校オリジナルのキャリア教育プログラムについても、まずは現状の取り組みを意図・狙いから見直し、整理していくことで、方向性が見えてくるだろう。ただ、いくらそうして用意したすばらしいプログラムでも、実際に生徒の中に残るものがなければ、意味も効果も半減してしまう。
様々な取り組みについて、ただ「知らなかったことが分かった」「楽しかった」という感想に留まらせずに、生徒をきちんと“経験させきる”には、どうしたらよいのだろうか。
私たちは、各取り組みの後に必ず何かしらの形で「アウトプット」(表現)させることをお薦めしている。様々な知識や経験を得た後に、そのインプットした知識・経験に基づいて、自分なりの考えをアウトプットする機会を設けるのだ。それは、感想文やレポートの形でもよいし、壁新聞やレポート、プレゼンテーションでもよい。演劇、絵画など、多様な方法があるだろう。自分の考えを、自分の言葉で表現しようとするには、取り入れた知識や経験について再確認する作業が伴う。その確認作業を経ることによって、生徒は本当に“経験しきる”ことができるのではないだろうか。
1. アウトプットにも“山場”を作る
ひとつひとつの取り組みごとのまとめといった「小さなアウトプット」も実践していただきたいところではあるが、それだけではアウトプットを積み重ね続けるだけ、という状態になってしまう可能性もある。したがって、どこかの段階で「総括する」意味を含めて、卒業論文や調査研究レポートなどのように、その段階の自分自身の考えを大きくまとめ、表現する取り組みを実践されることを提案したい。表現するテーマ・内容や分量が大きければ大きいほど、自分自身と向き合って知識や経験を整理し、表現せざるを得ないからである。このアウトプットの山場に挑み、乗り切る経験は、生徒のキャリア形成に深く影響を与えることになるだろう。
6. キャリア教育と進学実績のつながり
生徒のキャリア形成を担う意味ではとても重要な「キャリア教育」だが、その効果測定の方法について、ご相談を受けることがある。確かに、キャリア教育の成果は、模擬試験の成績や進学実績の数値結果にすぐに反映されてくるとは限らず、どの時点でどのように効果検証をするのがよいかも不明確である。この点に関しては、先生方と意見交換をしながら継続して考えていきたいと思うが、だからと言って何の成果もないということはないだろう。たとえば、文系志望が多かった女子生徒に理工系志望者が出てきたり、第一志望を目指して浪人する生徒が増えたり、研究したい分野が学べる大学を地方や海外を含めて選択をする生徒が出てきたり、といったことは、十二分にキャリア教育の成果である。極端なことを言えば、たった1人の生徒でも前向きに学習に取り組むようになった、となれば、やはり取り組みの成果はあったと言えるのではないだろうか。キャリア教育のプログラムを通じて様々な職業や生き方に触れ、自身の特性や興味を知ることで、将来に対する生徒の目線は上がり、モチベーションも高まっていく。そうした進路意識・進路意欲を高いレベルに保ちつつ、目先の進路実現に取り組ませていくための手段が、前回までに述べてきた進学指導や受験指導なのだろう。
7. おわりに
今回は、「キャリア教育」をテーマとして取り上げたが、進路指導=生徒のキャリア形成にかかわる全ての支援と捉えれば、進路指導は行事やクラブ活動など、幅広く様々な要素をも含むものだと言うことができる。それゆえに、進路指導の充実や進学実績の向上に取り組むのは、たやすいことではない。まずは現状をしっかりと把握・分析した上で、どの分野・領域から手をつけていくのかという方針策定が重要な鍵となろう。
(2016年10月)