5.私学において「進学実績」が持つ意味とは(5)- 進学指導体制の確立で進学実績をつくる

  • 進学実績向上のための4つの条件

    ―「組織力」が相乗効果を作り出す!組織で取り組む進学指導のあり方―

    5 進学指導体制の確立で進学実績をつくる

    ≪前へ [第4回]

    次へ[第6回]≫

     

    私学として安定的に進学実績を向上させるために、「組織力」を活かした取り組み方をお伝えしている『進学実績向上のための4つの条件』。レポートNo.1~3では、学校としての方針策定から目標設定へという流れをご紹介した。また、前号では、進学実績向上に不可欠な授業力向上に【私学として】【組織的に】どのように取り組めば良いか、授業アンケートの活用事例を中心にご紹介した。今回は、ご相談の多い進学指導体制についてまとめていきたい。

     

    5.1 データさえあれば大丈夫?!

     進路指導・進学指導の体制、というと、多くの方は進路指導部や高3の学年団を思い浮かべるのではないか。

     確かに、進路指導部が情報をまとめ、担任が生徒を指導するといった連携ができているだけでも一定の効果は望めるかもしれない。そういった意味では、「模試の結果や成績データをまとめるのは学校として必要だけれど、あとは、それを具体的にどう活用するか、教員個々のスキル次第で、体制の問題ではない」といったご意見もあるかもしれない。

     しかし、色々な学校の状況を見ていると、それでは解決しきれていない問題があるように思う。例えば、「高3の学年団によって、合格実績が大きく変わるんですよ。昨年度は早慶が多かったけど、今年度はほとんどいませんね」といったお話をあちこちで耳にする。これは、学校としてそもそも方針がないか、或いは、方針を実際に指導に反映させることができていないということではないか。

     また、「うちは、ベテランの進路指導主任に任せていますよ。彼のノウハウには誰も敵いませんからね。ただ、数年後には彼も退職なので、その後が心配です」といった学校もあるように思う。この場合には、学校としてではなく個としての指導になってしまっており、その個がいなくなった時には、学校としての進路進学指導全体が機能しなくなるということになる。

     授業力向上の考え方と同様に、ここでももちろん、個々のスキル・ノウハウは重要である。重要ではあるが、それだけで良いのだろうか。組織として共通の方針の下、「育てたい生徒像」の実現に向けて教育活動を展開し、生徒を社会へ送り出す中で、進路進学指導は生徒に与える影響も大きく、それだけ慎重に、信念をもって取り組むべきだろう。その要の部分を、担任・ベテラン教員の腕次第としないために、やはりしっかりとした体制を構築し、学校として取り組むことが必要になるのではないか。

    5.2 プロジェクトチームで繋ぐ進学指導

     では、具体的にどのような体制をつくり、指導を行えば良いのだろうか。絶対的な一つの正解があるわけではなく、学校の現状によって最適なものは異なるということを前提とした上で、ここでは、一つのモデルを示したいと思う。

     まず、学校として「進学実績向上を目指す」と決めたのであれば、管理職は学校としての方針や目標を明示し、教育活動をマネジメントする必要がある。一方で、現場の各担任・教科指導担当者は、具体的に何に取り組むべきか考え、日々実行していかなければならない。この間を取り持って、一つひとつの取り組みの方向性を学校としての方向性にそろえ、現状を分析して成果検証を行う役割を担うのが、通常であれば進路指導部長や教務部長ということになるだろう。しかし、進学指導は横断的な課題が多いため、各部長単独では実現が難しいミッションである。

     そこで、進学指導プロジェクトチームを組織し、そのチームが現状把握・分析、方策の検討や各取り組みの検証・改善といった役割を担うことが効果的であると、私たちは考えている。(図5-①)生徒の成績を引き上げるためには、各教科と進路指導部の連携は不可欠であることを念頭におき、プロジェクトチームの構成員は、進路指導部長・教務部長に加えて各教科主任とすることを推奨している。管理職は、各教科や学年それぞれにアプローチするのではなく、このプロジェクトチームを通して学校全体をマネジメントすることができ、意思決定・実行がスムーズになる。

    %e5%9b%b35-%e2%91%a0

    5.3 個で背負わずに学校全体で改善

      このチームがあることにより、“個々の教員がとにかく目の前のことに取り組む”指導ではなく、学校として目指す方向性に則って目標を達成するために何が必要かを見極めて取り組む、組織としての指導が可能になる。生徒の状況は毎年同じではないので、その時に応じた指導が必要であり、一見すると「組織で」取り組むことで柔軟な対応ができなくなるのでは、と懸念される方もいらっしゃるかもしれない。しかし、実際にはその逆で、まさに「組織で」取り組むからこそ、自分のクラスや学年と向き合うだけでは見えてこない、学校全体の現状を把握した上で舵を切ることができるようになるのだ。

    %e5%9b%b35-%e2%91%a1

     例えば、進学指導の施策を見直す場合には、(図5-②)レポートNo.3で述べたように、まずは模試データや家庭学習状況調査を分析して方向性を検証しなければ、問題を正確に把握することができない。また、新たな施策に取り組んでみた後に効果の検証をしなければ、何が良くて何が悪かったのか、うやむやのままになってしまう。PDCAサイクルを回すことが必要であると誰もが認識していながら、手が回っていないのが現状かと思われるが、その部分を担うのが、プロジェクトチームということになる。

     また、このプロジェクトチームは、先生方のご負担を軽減できるというメリットもある。各担任が進路指導を担い、その責任を負うというシステムの場合、クラスの生徒それぞれが抱える問題を一人で抱え込むことになる。大学の学部・学科が多様化し、入試制度も複雑化している現状において、その状況は酷だろう。また、各教科と連携して何か生徒のために取り組みたいと考えても、実施するのは難しいのではないか。

     もしプロジェクトチームがあれば、生徒個人の問題も教科指導に関する問題も、組織の問題として引き受けることができる。学校として一つのテーブルで議論し、学校として答えを出すというプロセスを踏むことで、トラブルや失敗を個人の問題とするのではなく全体の問題として捉え、改善へとつなげることができるだろう。

    5.4 事例紹介

     ここで、都内にある中高一貫B校の事例をご紹介したい。B校では、「進学実績を向上させよう」という目標を掲げていながら、進路指導部があまり機能していなかった。そこで、意思決定のスピードを上げ、現状に即した最適な指導に学校全体で取り組むために、進学指導体制の整備に着手した。

     まず、各学年から必ず1名は進路指導部に所属する形にし、各学年の情報の吸い上げを可能にした上で、図5-①のプロジェクトチームにあたる組織として「進学推進委員会」を立ち上げた。委員会は管理職・主要教科の主任によって構成され、校長直属として位置づけたことにより、迅速な判断が可能になった。この委員会では、宿題や小テスト・補講といった学習指導についても検討しているが、今回は進路進学指導にフォーカスし、委員会が中心となって学校全体を巻き込んでいる取り組み「出願指導検討会」をご紹介したい。

    5.4.1 出願指導検討会

     B校では、「GMARCH60名」という具体的な目標を掲げていたが、なかなか達成できずにいた。その要因の一つが、生徒一人当たりの出願数が少なく、そもそも受験に至っていないということであった。この出願時点での課題に取り組むために発足したのが、「出願指導検討会」である。

     進学推進委員会に高3学年団が加わって行われた検討会では、7月に高3生の成績推移を分析し、生徒一人ひとりの受験候補校を挙げた。それを面談で本人に伝達し、モチベーションを高めた上で夏休みの講習に参加してもらった。検討会では夏休み明けの模試結果も継続的に見ていき、最終的な出願校まで指導を行った。

     また、その動きとは別に、高2の学年団が加わっての検討会も冬から開始してい る。これは、志望分野が完全に固まってしまう前に目標を持たせることによって、 生徒の可能性を広げ、モチベーションを高めたいと考えた高2学年団の先生方の要望による。

     こうした取り組みの結果、一人当たりの出願校数も増加し、「伸びしろがあるのにもったいない」「もっと挑戦できるのに易きに流れてしまう」という生徒が減少しつつあるという。

    5.4.2 解説

     B校では、「出願校数の増加」という具体的な課題を抱えており、その解決の中心 となったのは、進学推進委員会が主体となった出願指導検討会である。仮に、こうした組織がなかったとすれば、個々の先生がそれぞれのやり方で出願指導に取り組まざるを得ず、進路指導部と学年団で、或いは教科担当者間で見解が異なっていて も、すりあわせをすることは難しかっただろう。

     進学推進委員会というチームがあったことで、学校の抱える課題に対して「出願指導検討会」という解決策を迅速に打ち出し形にすることができた。そして、検討会に学年団がコミットして明確な方策を打ち出し、一丸となって動いたことにより、担任によるばらつきもなく、すべての生徒が「B校としての」進路進学指導を受けることができたのである。

    5.5 生徒の可能性を引き出すために、組織力

     進路進学指導は、難しい。特に、合格実績が学校選びの一つの基準となっている私学としては、学校として求める実績がある一方で、一人ひとりの希望進路を叶えてあげたいという先生方の想いもある。そのためか、学校としての合格実績を作る、という考え方に対する反発や葛藤をぶつけられることも多い。

     例えば、前述のように学校として受験する大学を決めて生徒に勧めることについて、「それは学校の勝手だ。あくまでも生徒を尊重し、可能性を広げなければだめだ」といったご意見も頂く。それはもちろん、その通りだ。最終的な受験校の決定、進学先の選択においては生徒の意思を尊重すべきである。しかし、だからこそ、その決定・選択のプロセスで、できるだけ視野を広げるよう多様な選択肢を示すことが、学校としての進路進学指導に求められるのではないだろうか。

     そうであるとすれば、その重要な進路進学指導に“当たり外れ”があるようでは困る。一人の担任が「個の力」で指導するだけではなく、進路指導部も教科担当者も含めて「学校として」個々の生徒の希望進路に向き合っていく必要がある。戦略的に学校の目標を達成するためということではなく、まずは生徒の可能性を広げるために「組織力」を活かした指導に取り組んでみてはどうだろうか。その取り組みが、次の学年、その次の学年へと引き継がれ、やがてB校のように「我が校の進学指導」として根付くことが、私学としての理想といえるのではないか。

    5.6 おわりに

     ここまでは、進学指導に重点を置いて論じてきたが、「どの大学で学ぶか」だけでなく、 その先にある「どのように生きるか」ということを考えることも、中高生にとって非常に重要なことである。今やほとんどの学校で“キャリア教育”として取り組まれていることと思うが、「何をどのようにすれば良いかわからない」と悩んでいるところも多いのではないか。次号では、このキャリア教育のあり方について、また事例を交えながらご紹介したいと思う。

    ≪前へ [第4回]

    次へ[第6回]≫