社会的に共有された調整(Socially shared regulation of learning)

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社会的に共有された調整
(Socially shared regulation of learning)

コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長 福本 雅俊

要約

近年、学習の調整は個人の自己調整にとどまらず、他者との関わりの中で行われる「社会的に共有された調整(Socially Shared Regulation of Learning)」にも注目が集まっています。学習者は、仲間の学習方略を参考にしたり、動機づけを高めたりしながら、集団の中で自己調整を発展させます。学校という場では、共に学ぶことで学習の調整が自然に生じ、クラス全体での取り組みが自己調整を促します。教師も、教室で学ぶ全員が共に学んでいくような授業デザインを行い、社会的な学習調整を活性化させる役割を担うべきです。

学習の調整

学習指導要領において、学力の三要素のひとつとして「主体的に学びに取り組む態度」が規定されています。これには、教育心理学分野で研究が盛んに進められている自己調整学習理論が強く影響していると考えられます。自己調整学習については、小欄でも以前取り上げました。

簡単に言えば、自己調整学習とは「学習のサイクルを学習者が主体となって自らすすんで回しながら学んでいく」ということです。いわば、「学ぶ力」も学力のひとつとして定義されているということになります。

私たちは児童・生徒たちに、この「学ぶ力」も身につけさせていくことを、教育活動を通して実現していかなければなりません。それは、教師が一方向的に知識を伝授する、教わる側の児童生徒たちは教師が言うとおりに学ぶ、という従来の教育の形とは一線を画するものになります。

学習効果を向上させていくためには、受け身ではなく、学習者自身が自らの学習を観察し、状況に応じて学習の進め方を工夫するという調整を絶えず繰り返していくことが必要という考え方は徐々に一般的になってきています。

学習において調整が発生する場面

前述の通り、教育心理学分野では自己調整学習理論の研究が盛んに行われてきました。学習の成果は、最終的には個人としての結果に帰結するものであり、自己調整に焦点が当たるのはある種当然のことだと思います。

しかしながら、近年は個人の自己調整だけでなく、他者との関わりの中で獲得されていく学習の調整にも注目が集まってきています。

  • 共調整:co-regulation  2者間の調整
  • 社会的に共有された学習の調整:
    socially shared regulation of learning  3者以上のグループ内における社会的調整

自己調整学習で目指されているのは、もちろん学習者個人が自らの学習サイクルを自らの手で回していく力を身につけていくことですが、その過程は必ずしも個人に閉じられたものとは限りません。

そもそも、自分自身の学習状況を正しくメタ認知するためには客観的な情報が必要です。どうしても学習がうまく進まない時には、友人が取り入れている学習方略を参考にしてみることも効果が期待できます。また、どうも学習に対するやる気が出ない、という動機づけが良質ではない時、友人のがんばる姿を見たり、友人からの支援を受けたりすることによって動機づけが変容するということもあるでしょう。

つまり、学習の調整は、とりわけ学校という場所で集団で学ぶことにおいて、あらゆる場面で発生しているものなのです。

私たちが2020年に設立した主体的学びを科学する研究会に共同研究校としてご参加くださっている先生方のご実践を見てみても、他者との関わりや、クラス全体での取り組みをとおして学習の自己調整を促している取り組みが多くあります。

集団での学びをとおして成立する自己調整学習

教育現場において、自己調整学習に対する捉え方にある種の戸惑いのようなものがあると感じます。「自己」という言葉が表すように、どこか自己調整学習は個人に閉じられたものであり自己責任の下に、学習を「進めさせる」ものであるという誤解があるかもしれません。そのように捉えると、教師は一切手出しをしてはいけない、というような極論になりかねません。

しかし実際には、児童生徒が自立的に学んでいくようになるために必要な支援は当然ありますし、自分一人で学習を調整する力を身につけていくのではなく、他者との関わりの中で自己調整するための力を身につけていくものなのではないでしょうか。

ここにこそ、学校という場所で学ぶ意義があるのだと思います。ぜひ、先生方ご自身も含めて、教室で学ぶ全員が共に学んでいくような授業デザインを構想していっていただきたいと思います。

(2025年3月)