コアネット教育総合研究所
放課後ラボ事業部 主任 佐々木梨絵
合理的配慮は、障害者が社会参加の機会を平等に得るための適切な調整を行うことです。2016年施行の障害者差別解消法で学校での提供が求められ、2024年からは私立学校を含む全事業者に義務化されました。学校では、当事者との対話を通じた合意形成が重要で、事前の環境整備も必要です。合理的配慮は学びの機会の平等を保証するもので、必ずしも結果を保証するものではありませんが、生徒が「学び」に向かうためのスタートラインを整えることに繋がります。
2013年6月に公布、2016年4月に施行された障害者差別解消法にて、どの学校においても障害のある子どもたちに必要な「合理的配慮」を提供することが求められるようになりました。私立学校における合理的配慮の提供は努力義務にとどまるものでしたが、2021年には障害者差別解消法が改正され、共生社会の実現のため、2024年4月より、すべての事業者において、合理的配慮の提供が義務化されました。これにより、私立学校においても合理的配慮の提供が法的義務になりました。
合理的配慮は、2006年12月に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」にて、障害者の人権と基本的自由を確保するための「必要かつ適当な変更及び調整」で、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。また障害に基づく差別には、「合理的配慮の否定」が含まれることになりました。
そもそも、合理的配慮は、“Reasonable Accommdation”のことを指します。この言葉を直訳すれば、合理的な「調整」という意味ですが、「配慮」という言葉で表現されてしまったことにより、対等ではない関係性が見え隠れしてしまいました。本来はお互いが対等な関係性を持ちながら、合理的に調整するということを意味します。また「配慮」という言葉の意味合いから、「思いやり」として捉えてしまうこともあるかもしれませんが、合理的配慮は「思いやり」ではなく、人としての当たり前の権利であることも理解しておかなければなりません。
合理的配慮を考える上では、障害の捉え方への理解も必要になります。
1980年に出された世界保健機関(WHO)における国際障害分類では、障害という現象は疾病や外傷などの個人的な問題として捉えられ、当事者自身が治療やトレーニングなどで乗り越えるものとされていました。(「医学モデル:medical model」)しかし、2001年のWHOにおける国際生活機能分類では、障害は人間の個性の一つであると捉えるとともに、当事者を取り巻く社会・環境の改善を求める考え方(「社会モデル(social model)」)を取り入れて、医学モデルとの統合を目指すようなりました。合理的配慮とは、この「社会モデル」の実践でもあります。障害や困難さを個人の問題とするのではなく、合理的配慮は、誰もが「参加」する機会を平等に持つことを保障するものであり、それは過重負担を伴わない範囲で社会的障壁を除去することです。合理的配慮を行うことによって、障害の有無にかかわらず、全員が同じスタートラインに立てるようになるのです。
学校での合理的配慮の提供は、当事者(生徒本人・保護者)から、個別の相談や申し出があった際に、学校側がその要求を受け付けるところから始まります。個別の相談や申し出について、対象となる生徒の担任の先生が、個人の判断で合理的配慮を提供するのではなく、生徒本人・保護者と学校側が対話を通じて情報を交換し、お互いが歩み寄る「建設的な対話」を通して、両者が合意できるところでの合理的な調整を実施していくことが合理的配慮の提供です。なお、「建設的な対話」は対象となる児童生徒・保護者と学校側のどちらか一方の主張や言い分の「正しさ」を判断する場ではありません。双方が協同で問題を解決していく場であるとの意識を持っておきましょう。
また、合理的配慮の提供は当事者の相談などからスタートしますが、学校側は事前段階として基礎的環境整備を行っておくことも重要になります。基礎的環境整備には、支援のためのネットワーク形成や多様な学びの場の活用、専門性のある指導体制、個別の教育支援計画、施設設備の整備などがあります。これらの基礎的環境整備を行うことは、生徒たちに学びの機会を平等に与え保障する合理的配慮の土台となります。
合理的配慮は前述した通り、全員が同じスタートラインに立てるように整えることです。生徒に対して、「学び」のスタートラインに立つ機会を平等に与えることであって、決して「学びの結果」までも保障するものではありません。そして、過重負担を伴わない範囲で行うものです。義務化という言葉によって、合理的配慮の提供に対して、強制されるもの、課せられたもの、負担するものとしての意識を強く持ってしまうこともあるかもしれませんが、目の前にいる生徒が「学び」に向かうためのスタートラインを整えていくことであり、そうすることで、その生徒自身が豊かな学びへと向かっていけるかもしれないということを意識して、取り組んでみてください。
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