インクルーシブ教育

3分でわかる! 今話題の教育キーワード特集

インクルーシブ教育

コアネット教育総合研究所
放課後ラボ事業部 主任 佐々木梨絵

インクルーシブ教育とは、「すべての子どもを包括する教育」のことであり、すべての子どもが、障害の有無、性的マイノリティーであること、外国にルーツがあるか等に関係なく、どんな特別な教育的ニーズを持っていたとしても共に学び合う教育のことです。

インクルーシブ教育の登場

 1994年スペイン・サラマンカで行われた特別ニーズ教育世界会議において、すべての子どもがインクルーシブな教育システムの中で教育されるべきことが確認されました。
 本会議で採択された「サラマンカ宣言および行動枠組み」では、「障害を持つ子どもは、もし障害がなければ通った近隣の学校に通えなければならない」と規定しています。当時、多くの国々が法的に就学義務や無償性を認めつつも、障害を持つ子どもが普通教育を受けることに制限をしていた状況下では、これは大きな一歩でした。
 また、「サラマンカ宣言」に続き、2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」では、インクルーシブ教育は以下のように規定され、インクルーシブ教育は権利に基づくものになりました。

学習、文化および地域社会におけるインクルーシブな実践、教育における排除と教育からの排除の軽減により、すべての学習者の多様なニーズに注目し、かつそれに対応していくプロセス。これには、通学適齢期のすべての子どもを対象とした共通のビジョンと、すべての子どもを教育することは、普通教育制度の責務であるという確信をもって、教育内容、教育方法、組織体制および戦略を変革し修正していくことが伴う。

 また、同条約第24条においては、インクルーシブ教育システム(inclusive education system)について、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みと規定しました。
 この第24条は、すべての学習者が独自のニーズを持っている前提に基づくものではありますが、障害のある学習者と障害のない学習者を、一般的な教育システムに単純に統合することが目的ではなく、インクルーシブ教育システムを構築していく上で必要な義務を提供することで、これまでの慣行を変えて、インクルーシブ教育を広く行き届かせることが目的でした。

日本での取り組み

 国連での「障害者の権利に関する条約」採択を受けて、日本でも共生社会を目指すべく、文部科学省は2012年に「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」という報告書を発表しました。本報告書では、①障害のある者と障害のない者がともに学ぶ仕組みであること、②障害のある者が教育制度一般(general education system)から排除されないこと、③個人に必要な「合理的配慮」が提供されること、が必要であるとされています。
 2014年に日本は「障害者の権利に関する条約」を締結しましたが、2022年に国連は、日本では障害のある子どもの分離された特別教育が永続しているとして、日本に対して分離教育を止めるように勧告しました。日本においてインクルーシブ教育が十分に進んでいないことが、課題として浮き彫りになったのです。
 インクルーシブ教育を理解していくためには、通常の学校はインクルーシブな方向性を持たねばならず、全ての学校がインクルーシブであるべきと考える必要があります。また、インクルーシブな方向性を持つ通常の学校という存在が、差別的な態度と闘い、インクルーシブな社会を構築し、万人のための教育を達成する上での最も効果的な手段となり得るものであるとの認識も必要になります。インクルーシブ教育を理解して普及してくためには、まず、私たちの考え方自体から変えていかなければならないでしょう。

合理的配慮の義務化

 2012年の文科省報告書にもあった合理的配慮の提供について、日本では2016年に障害者差別解消法の施行により、どの学校においても障害のある子どもたちに必要な合理的配慮を提供することが求められるようになりました。私立学校における合理的配慮の提供は努力義務にとどまるものでしたが、2021年には障害者差別解消法が改正され、共生社会の実現のため、2024年4月よりすべての事業者において、合理的配慮の提供が義務化されました。これにより、私立学校においても合理的配慮の提供が法的義務になりました。
 合理的配慮とは「社会的障壁によって生じた機会の不平等」を示すものであるとの考えを以て、その提供を進めていく必要があります。学校現場においては、障害をもつ児童・生徒の個別対応・調整が合理的配慮ということになりますが、そもそも環境整備がされていれば、その調整が必要にならないこともあります。
 学校内の設備に限らず、校内委員会の立ち上げや相談窓口の設置といった体制整備を行うとともに、現状実施している教育内容や教育方法において、学びの機会の不平等が生じていないかを把握し、それらへの配慮提供の準備をしておくことが大切です。そのほか、様々な障害に対する教職員の研修も環境整備に該当します。
 また、内閣府が提供する「合理的配慮サーチ」(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/)や、国立特別支援教育総合研究所の「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」(https://inclusive.nise.go.jp/)では、取り組み事例が掲載されていますので、これらも活用しながら、まずは学校内での環境整備を行い、合理的配慮の提供を進めていくようにしましょう。

[参考文献]

編著ラニ・フロリアン、監訳倉石一郎・佐藤貴宣・渋谷亮・濱元伸彦・伊藤駿『インクルーシブ教育ハンドブック』(2023,ミネルヴァ書房)

弊社の私学マネジメント協会では2024年11月7日に早稲田大学大学院 教育学研究科教授 高橋あつ子氏をお招きし、インクルーシブ教育に関するセミナーを行います。是非ご参加ください。

(2024年07月)