コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長 福本 雅俊
学習動機の2要因モデルとは、学習の功利性と学習の重要性という二軸で、学習することによって得られるものと、学習する内容自体の重要度、によって学習動機を6つに分類したモデルです。
動機づけの研究は様々な角度から行われており、多くの理論が存在しています。以前小欄でも、そのひとつである「自己決定理論」を紹介しました。
今回は、市川伸一先生が提案されている「学習動機の2要因モデル」を紹介したいと思います。この、「学習動機の2要因モデル」にも「自己決定理論」にも共通しているのは、動機づけを内発的・外発的の2種類だけに留めることなく整理していることです。
「怒られたくないから」「ご褒美が欲しいから」という外発的なものだけでも、「楽しい」「やりがいがある」という内発的なものだけでもなく、動機づけは様々な状態に分類することができます。
学習動機の2要因モデルでは、学習における直接的な報酬をどの程度期待しているのかということを横軸に、学習内容そのものをどの程度重視しているのかということを縦軸としたマトリクス上に6つの動機づけを分類して整理しています。
横軸が右になればなるほど、学習による報酬に対する期待が大きい動機づけであり、縦軸が上のほうが学習する内容そのものに対する重要性が大きいと捉えている動機づけということになります。
このように6つに動機づけを分類して整理したうえで、①から③の充実志向・訓練志向・実用志向を「内容関与動機」、④から⑥の関係志向・自尊志向・報酬志向を「内容分離動機」と名付けています。これらの「内容関与動機」「内容分離動機」はそれぞれの動機づけ同士の相関が高く、関係し合っていることも分かっています。
動機づけを指導に活かしていく際、とても大切になることが2つあります。まず1つは、生徒個々によって様々な動機づけを持った生徒が存在しているということ。もう1つは、「内容関与動機」にあたるものを好ましい動機づけとし、「内容分離動機」を好ましくない動機づけと捉えるべきではない、ということです。
1クラスに35名の生徒がいたとして、その35名の生徒の動機づけの状態というのはまちまちです。あるいは、一人の生徒でも、教科が異なればその教科に対する動機づけが異なるということも起こり得ます。つまり、生徒一人ひとりの動機づけの状態を見取り、その生徒に合った指導やサポートをしていくことが大切になるのです。
また、6つの動機づけを見た時、どうしてもポジティブな印象を受けるのが「内容関与動機」であり、その動機づけを持たせるためのアプローチを採ろうとしがちです。しかしながら、以前の自己決定理論でも触れたとおり、様々な動機づけを持ち合わせて学習に臨んでいるほうが動機づけの状態としては望ましいと言われています。
つまり、すぐに充実志向を強化することが難しくても、クラスメイトとの協働を通して学んだり、極端に言えば、最初は報酬を受けることが学習に対する動機づけであったりしてもかまわないのです。学齢や生徒個々の状況に合わせて動機づけを見取り、適する介入することが求められます。
動機づけは、行動を始発させ、方向づけ、維持する機能を持っています。すなわち、動機づけがなければ、学習行動が始まることも、方向づけられることも、維持されることもないわけです。生徒一人ひとりの動機づけをより良い状態にしていくことを目指して、ぜひこの学習動機の2要因モデルをご参考に生徒たちに関わってください。