コアネット教育総合研究所
横浜研究室室長補佐 中村 恭弘
学校組織文化とは、学校組織の構成メンバーの間で共有された、組織に固有の価値や規範を指します。
組織文化は大きく3つの要素で構成されます。
1つ目が「文物」です。これは、校舎の構造から、掲示物、生徒・教職員の服装、授業、言葉遣いなど、知覚可能なものやことを指します。
2つ目が、「価値」です。これは、生徒・授業・生徒指導など、あらゆる場面において「こうあるべき」という、組織のメンバーの間で暗黙のうちに了解されている共通の価値観を指します。私学の場合、建学の精神や教育理念、教育ビジョンも「価値」にあたるものです。
最後に、「仮定」です。「基本的前提」とも呼びますが、組織のメンバーの様々な言動の前提になっている「あたりまえ」となっている感覚や考え方を指します。
組織がうまく機能していない(意思決定が遅い、仕事を押し付け合う、責任の所在がはっきりしない等)と感じる際、その問題は組織の体制や意思決定プロセス、人材配置の最適化等のハード面によるものではなく、組織文化のようなソフト面の問題が原因となっている場合も考えられます。
組織文化というもの自体は、あくまでもその組織を構成するメンバーの日々の行動の結果として表れるものです。そのため、いかに組織のメンバーの行動を、より望まれる行動に変容させていくか、という視点が重要になります。
その際、多くの組織は「価値」の明確化と徹底した共有によって「文物」の変化を期待するアプローチを検討される場合が多いと思いますが、組織文化を構成する要素の一番土台となるところである、組織固有の「仮定」についての理解とアプローチが欠けてしまえば、より大きな問題となってしまう危険もあります。ただし、長い期間を経て根付いてきたそうした「あたりまえ」は、それ自体が自覚しづらいものであるため、その変革は一朝一夕でできるものではなく、長期的視点を持って取り組む必要があります。
こと学校における組織文化は、一般企業と比較すると特殊な面があるといえます。
ここではその特殊性に繋がっていると思われる2つの視点について触れます。
①人材育成の面
学校組織においては、人事機能が一般企業ほど整えられていないというのが実態であるといえます。特に、最近では導入済、または導入を検討される私学も増えてきましたが、「人事評価」の仕組みを持つか持たないか、という点は非常に大きな違いだと言えます。「人事評価」の仕組みには、企業が人材に対して求める役割を示し、双方の向かうべき方向性をすり合わせ、人材に対しての成長を促す、という重要な役割があります。その仕組みが無ければ、組織として目指す方向性をすり合わせる機会を、さらに言えば組織文化の構成要素である「仮定」に対してアプローチできる機会を逸してしまうことになるでしょう。
②採用活動の面
一般企業への採用希望者が、企業選びの際に「業務領域や職種」「企業の理念・スタンス」といったことを重視する一方で、教員志望者は「教育」という明確な「業務イメージ」と「教師としての理想像」を持っている傾向が強いといえます。この「業務イメージ」「教師としての理想像」が、入職後のギャップを生じやすくさせている、という側面もあるのではないでしょうか。
私学においては、一般企業以上に組織文化の変革には多大な労力と時間がかかるかもしれません。なぜなら、多くの場合、上記のような特徴を抱えた状態であるにも関わらず、文化醸成のプロセスが十分に意識されないまま、これまでの文化とは異なる文化を根付かせようとするために、現場教職員との軋轢が生じてしまいがちだからです。
また、組織文化にはここまでに焦点を当ててきたような悪しき文化もあれば、組織ならではの美風や美徳といった良い文化もあります。学校の組織文化を変革していく際には、すでに存在する良い文化を土台とし、教職員の行動の変容に繋げていくことが重要です。
そのため、組織変革へのアプローチとしては、①【短期的視点で】まずは組織の「今」に寄り添い、現状の組織文化に合ったマネジメントを行うことで、組織の一体感を醸成させること、②【中長期視点で】学校組織文化の変革に繋がる地盤づくりを行うこと、の両輪で改善を図っていくことが有効であると言えるでしょう。
学校組織文化改善のためのポイント
①【短期的視点】
組織運営のハード面において、組織文化に合ったマネジメントの手法を用いること。(図の①)
②【長期的視点】
教職員の「意識」にフォーカスし、絶えず評価・フィードバックを与えながら、文化変革の空気を創り出していくこと。(図の②)
(参考)