リスキリング

3分でわかる! 今話題の教育キーワード特集

学校で働くための
リスキリング

コアネット教育総合研究所
人事コンサルティング事業部 事業部長 
嘉村謙一郎

 今回は、最近、日々のニュースや新聞記事等でも関連記事をみかける「リスキリング」を取りあげます。
一般的には、リスキリングとは「現職とは異なる職務に就くために必要なスキルを、新たに習得すること」という意味で使われています。
 数年前から、日本より転職が一般的な欧米、特に労働生産性の高さが注目されるスウェーデン、フィンランドなど北欧諸国の取り組みを紹介する記事などを見かけることがありました。
 日本でも、コロナ禍からの回復とともに、IT関連にとどまらず様々な業種で人材不足が顕在化し、国家的課題である生産性向上のためにも成長産業への積極的な労働移動の必要性が指摘されるようになりました。国が今年(令和5年)5月に『三位一体の労働市場改革の指針』を打ち出し、その第一項目に「リ・スキリングによる能力向上支援」を掲げたことは、誰もが認識しておくべきことでしょう。

 教育キーワードの学校で働くための「リスキリング」という観点でみると、以下の二つの視点で考察しておくことがいいのではと考えています。

1.学校人(教職員)のリスキリング
2.外部から学校をめざす人(社会人)のリスキリング

順に着眼点を整理します。

 

1.学校人(教職員)のリスキリング

 学校管理職と意見交換、対話していると、よく伺う人事、業務分担等のお悩みとして、以下のようなお話(お嘆き)があります。

  • どうしても担任を任せられない人がいて困っている…
  • クラブ顧問には熱心なのはいいけど、もう少し授業研究や探究活動…
  • 新教育プログラムの開発に挑戦しようと発信しても、若手の先生方以外は…

 学校組織には一般の企業組織にはみられない特徴があります。教員/職員という明確な職種区分があり、どちらも自らの領域の中で職務を進めようとし、協働が進みにくい傾向です。やはり教員免許の存在が大きいと思いますが、教師自身に「教育=教師の領分」という自負、自分たちの領域という意識が長く存在してきたことや、また、職員側にも「職員の領域は事務・教育は先生たちのもの」という所属意識が同様に存在してきた歴史を感じます。近年、“教職協働”の掛け声とともに、教育活動でも両者の協働、外部機関・人材との協働が増えつつあると思いますが、まだまだこの区分意識は強固と感じます。
 その結果、長年、教育活動に従事してきたベテラン教師たちに、生徒・保護者の変化、教育ニーズ/トレンドの変化、自校の教育活動バージョンアップへの適応・協力を期待しつつも、理解されない、変わらなさへの失望、嘆き節が聞かれるという構図です。

 この変わらないベテラン層は、程度の差こそあれ、業種を問わず多くの企業等にも存在しています。ただ、大半の企業等では目標管理、人事評価制度運用における年数回の面談等の機会に、自身の業務遂行の振り返り、改善点、スキルアップ課題、キャリアの次のステップについて上司・部下で対話する場があります。十分かどうかは別として、自身の職務を振り返る機会、変化・挑戦の必要性を感じる機会が、少なくとも年1~2回はあるでしょう。

 一方の学校は、この目標管理、人事評価や面談が制度として導入・運用されているか、という点では、残念ながら未だ途上です。国策として制度自体は導入されているはずの公立校ですが、育成者・評価者・面談者は「校長・教頭等の管理職」のみで、数10名の一般教員を対象に面談・対話が効果的に機能しているというお話を伺ったことがありません。私学ではさらに厳しい状況です。未だに制度自体を導入・運用する学校自体が少数派にとどまっているようです。
仕事の振り返り、キャリア意識を持つという習慣、機会を設け、定期的に上司や人事担当と対話し、適宜フィードバックを受けられる等の環境整備が課題といえます。
 ただ私自身は、この環境整備が進みさえすれば、多くのベテラン教師の皆さんが、自ら積極的にリスキリングし、新たな教育活動の創造・実践に邁進できると楽観しています。そもそも、教師になろうと決めた方々は、根っこにある使命感、成長意欲は人一倍の方々です。長年、振り返りやキャリア展望、成長ステップを考える機会もなく・・という環境が、いつのまにかその資質を覆い隠し、姿勢を失わせてしまっただけ。そう信じています。

2.外部から学校をめざす人(社会人)のリスキリング

 この視点は、今後の学校経営を考えるうえで重要と感じます。担当する講座などでもお伝えしていますが、これからは「社会連携教育」の時代と考えているからです。
 教科書や教師の中にある知識を伝えることにとどまらず、社会の動向や様々な変化、それを創り出すテクノロジーや、大学・企業等の組織、実際に活動する多くの社会人たちとの接点・交流の中から体験・体感しながら成長する。それが学校教育の常識となっていくでしょう。
 これまで教育活動の中核にいた教師の役割がいらなくなる、ということではありません。教師の役割が、「自ら教える人」から「生徒自身が学び、成長する環境をつくる人」に変わっていく、ということです。
 既存の教師陣の役割意識変革、フットワークよく連携・協働する行動様式への変化にも期待します。同時に、もともと企業人として、あるいは官公庁やNPO等の様々な組織で職務を担ってきた社会人たちが、どんどん学校に入り、新教育への協力者・実践者になる。一定の経験を積んだ社会人が、次世代を担う子供たちを逞しく育む、という社会で最も大切な仕事に就くことを改めて選択する。教育を志す熱意ある社会人たちが増えてほしいと願います。

 私自身は、新しい学校教育の担い手に必要なものは、ライセンスとは思いません。自ら考え、行動し、選択し、また挑戦して自身の人生を切り拓いていく、逞しい未来人を育むために貢献する意志、情熱、行動力、対話力を持つ人材が学校に集い、協働し、新教育を共創していく。その過程で、学校が必要なライセンスを取得する支援を行い、着任後も多様な方々との協働機会を持てるように交流・研修などの機会を奨励・支援する。そんな環境づくり(=継続的なリスキリング支援)を進めることが大切と考えています。

 

[参考]
人材マネジメント支援はこちら
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(2023年11月)