コアネット教育総合研究所
所長 松原和之
教師エージェンシーとは、学校改革やカリキュラム改善などの変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する資質・能力のことです。
「OECD Future of Education and Skills 2030 project(教育とスキルの未来2030プロジェクト)」において、生徒の「エージェンシー」とは、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」と定義しています。エージェンシーは、ウェルビーイングの実現に向けて生徒たちが身につけるべき資質・能力として位置づけられているのですが、世界をより良くするのは、決して一人では成し遂げられず、友人や教師、保護者や地域との協力が必要だとしており、「共同エージェンシー」という言葉で表されています。
その中でも教師によるサポートの存在は大きく、生徒エージェンシーは、生徒が主体的に行動する力ではあるものの、教師の専門性によるサポートなしには成しえないと考えているのです。
その意味から、OECDでは、教師エージェンシーは,教師が専門的な知識、スキル、専門性を用いて、カリキュラムを共同設計し、効果的に支援するための力という定義をしています。
しかし、ここでは、このOECDの定義を超えて、教師エージェンシーに冒頭のような定義を与えました。つまり、教師エージェンシーは生徒エージェンシーを支えるためだけの力ということではなく、教師自身が主体的に学校改革やカリキュラム改善を推進するための力でもあるという定義を与えたのです。教師は学校をよりよくすることで、ウェルビーイングを実現していくのです。そして、生徒や保護者を含めた周りの人々との共同エージェンシーを支えとして教師エージェンシーを発揮するのです。
教師がエージェンシーを発揮し、学校改革やカリキュラム改善を進めるためには、周りの協力が必要です。生徒のウェルビーイング、教師のウェルビーイング、そしてステイクホルダー(関係者)のウェルビーイングがあってはじめて、学校という場がウェルビーイングを実現する場になるのです。
学校改革やカリキュラム改善は学校管理職の役割だと思われている方が多いかもしれません。しかし、学校をよりよくするための知恵を持っているのは、日ごろ生徒たちと接している現場の教師一人ひとりです。そして、実際に教育を日々実践しているのも現場の教師一人ひとりです。その教師一人ひとりが主体的に、そして責任を持って改革を推進する行動をとることが学校を変えていくためにはとても重要です。
しかし、一人では学校を変えていく力にはなり得ません。学校全体で情報を共有し、しっかりと話し合い、共通理解を形成していくことが大切です。教師同士の共同エージェンシー、そして生徒や保護者、卒業生、地域の人々などを巻き込んだ熟議による共同エージェンシーを発揮することで学校をよりよいものにしていくことができるでしょう。