コアネット教育総合研究所
所長 松原 和之
教育分野におけるコンピテンシーとは、知識・技能を活用するための思考力・判断力・表現力や学びに向かう力・人間性などの資質・能力を指します。
実はこの定義はコンピテンシーという言葉を正しく表してはいませんが、教育現場が混乱しないための便宜的な定義として示しました。
本来、コンピテンシーは、社会人の人材育成分野で用いられていた言葉で、「ハイパフォーマーに共通してみられる、高い成果につながる行動特性」のことです。
ある企業において、どのような力を発揮している社員が高い業績をあげるのかを調べて、その力を特定することで、他の社員にもその力を発揮させ、高い業績をあげられるようにすることができるという文脈において使われた言葉です。
コンピテンシーの語源はコンピート、つまり競争です。企業が他社に打ち勝つために社員に身につけさせる力がコンピテンシーだったのです。
それが教育分野でもよく使われるようになったのは、OECD (経済協力開発機構)の「キー・コンピテンシー」の発表からです。
1997年から2003年にかけて実施されたOECDのDeSeCoプロジェクトにおいて、国際的に共通する現代人の主要な能力を定義しました。それが「キー・コンピテンシー」です。
OECDは、コンピテンシーを「特定の状況の中で、心理的・社会的な資源(技能や態度を含む)を引き出し、活用することにより複雑なニーズに応じる能力」としながら、以下の提示をしました。
「キー・コンピテンシー」は、3つのカテゴリーに区分される9つの能力で構成されています。
「キー・コンピテンシー」は、OECDが特定した具体的能力の抽出ですが、このことにより、「コンピテンシー」という言葉が、いまの子どもたちが社会に出てから必要になる力という抽象概念(一般名詞)として教育界にも定着しました。
学習指導要領を検討する過程で、何度か「キー・コンピテンシー」や「コンピテンシー」という言葉が使われ、最終的に今回の学習指導要領改訂のコンセプトは、「コンテンツ・ベース」から「コンピテンシー・ベース」への転換だと言われるようになりました。
それは、「何を学ぶか」重視から「何ができるようになるか」重視への転換として示されています。
出展)文部科学省「新しい学習指導要領の考え方」
そして「何ができるようになるか」を重視するということは、すなわち「資質・能力の三つの柱」である「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」のバランス重視ということになるのです。
出展)文部科学省「新しい学習指導要領の考え方」
つまり、コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースへの転換は「知識・技能」重視から「思考力・判断力・表現力等」および「学びに向かう力・人間性等」重視への転換と言い換えることができ、コンピテンシーとは、「思考力・判断力・表現力等」および「学びに向かう力・人間性等」のこと、という理解になります。
ちなみに「資質・能力」という場合、文部科学省は必ずしも「知識・技能」を除くとは言っていないのですが、「コンテンツ」と「コンピテンシー」を対比させるためにも、「コンテンツ」=「知識・技能」、「コンピテンシー」=「資質・能力」=「思考力・判断力・表現力等」および「学びに向かう力・人間性等」と整理すると、理解しやすくなると思います。
ということで、冒頭の「コンピテンシー」の定義に戻ります。いかがでしょうか。
さらに、「思考力・判断力・表現力等」を「認知能力」、「学びに向かう力・人間性等」を「非認知能力」と定義すると、「学力は、a.知識・技能、b.認知的資質・能力、c.非認知的資質・能力の3つに分かれる。aをコンテンツ、bとcを合わせてコンピテンシーという」という単純明快な定義になると思います。
厳密な正確性を欠く定義なので、研究者の方からは異論が出ると思いますが、現場は厳密性よりまずは明快な理解が必要ですので、このように定義してみました。
大人になって社会に出たら、何かを知っているだけで役に立つことはありません。何かができなければ(問題解決ができなければ)仕事上で活躍することはないでしょう。
その「何ができるようになるか」を支えるのが非認知能力も含めたコンピテンシー(=資質・能力)です。
今後、ICTやAIがさらに発展すると、なおさら知っていることだけでは役に立たなくなります。また、世界には問題が山積しており、その解決がすべての人の課題になります。まさに学校教育においても、コンピテンシーを身につけることが重要になっていると言えるでしょう。