デジタル・シティズンシップ教育

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デジタル・シティズンシップ教育

コアネット教育総合研究所
所長 松原 和之

デジタル・シティズンシップ教育とは、子どもたちが、デジタル社会の一員として、よりよく生きていくための資質・能力を身につけるための教育のことです。

 

デジタル・シティズンシップ教育とは?

 デジタル・シティズンシップは、直訳すればデジタル社会における市民権ですが、ユネスコの定義では「情報を効果的に見つけ、アクセスし、利用し、創造することができ、他のユーザーやコンテンツと積極的に、批判的に、繊細に、そして倫理的に関わり、自らの権利を認識しながら、オンラインとICT環境を安全かつ責任を持ってナビゲートできること」となっています(A Policy Review: Building Digital Citizenship in Asia-Pacific through Safe, Effective and Responsible Use of ICT, UNESCO, 2016)。
 つまり、デジタル社会の中で、積極的に、そして責任を持って行動することを指しています。

デジタル・シティズンシップ教育と情報モラル教育との違い

 デジタル・シティズンシップ教育は、従来学校で行われている「情報モラル教育」と同一視されることもありますが、それとは本質的に異なります。

 情報モラル教育では、ネット上の権利問題や犯罪被害に合わないような危険回避、ネット依存にならないような利用方法など、子どもたちの行動を抑制するような教育を行います。新しく訪れたデジタル社会を怖いものだという前提で捉え、子どもたちを危険から守るために、「やってはいけないこと」を教えるという立場をとります。
 それに対し、デジタル・シティズンシップ教育は、同じデジタル社会における行動を扱いながらも、どのようにしたらデジタル社会でよりよく生きていけるかをポジティブに捉えて、必要な資質・能力を育てるという立場をとります。より自立的にデジタル社会を生きる姿を目指しているといえるでしょう。

デジタル・シティズンシップ教育の9要素

 米国では、日本よりも早く、子どもたちのネット利用に関するトラブルが問題化していましたが、子どもたちに、デジタル機器やネットの利用制限を課す方法ではうまく解決できませんでした。そこで出てきたのが、逆に積極的に関わるデジタル・シティズンシップの考え方です。子どもたちを子ども扱いして籠の中に閉じ込めることでは問題は解決しないのです。デジタル社会では子どもたちも立派な一員として扱われてしまいます。きちんと自分で考え自分で行動することを教えることが大切なのです。

 2019年に米国で刊行された「学校リーダーのためのデジタル・シティズンシップ・ハンドブック」では、デジタル・シティズンシップ教育の9要素を明確に示しています(The Digital Citizenship Handbook for School Readers, Ribble & Park, 2019)。

  • デジタル・アクセス
  • デジタル・コマース
  • デジタル・コミュニケーションと協働
  • デジタル・エチケット
  • デジタル・フルーエンシー(情報技術の利活用)
    ※フルーエンシーとは流暢さ
  • デジタル健康と福祉
  • デジタル規範
  • デジタル権利と責任
  • デジタル・セキュリティとプライバシー

情報科授業とデジタル・シティズンシップ教育

 デジタル・シティズンシップ教育の9要素を見ると、デジタル社会の仕組みやデジタル社会における活動を包括的に捉えており、いかに危険を避けるかという従来の情報モラル教育とは異なることがよくわかります。
 ここでは、9要素の詳細な内容には触れませんが、末尾に参考文献を示しておきますので、詳しく知りたい方は、そちらをお読みください。

 GIGAスクール構想により、すべての小中学生が1人1台の情報端末を持って学習するようになりました。そのことはデジタル技術により学習効果を高めるとともに、子どもたちをデジタル社会の一員として扱うことを容認したことになります。早急に子どもたちにデジタル・シティズンシップを育まなければなりません。
 新しい学習指導要領における「情報科」においては、デジタル・シティズンシップという言葉は登場しないものの、従来の情報モラル教育よりは一歩進んだ積極的な関わりを前提とした記述が見られます。
 情報科の授業については、とかく大学入学共通テストの出題内容について話題になりがちですが、一方でデジタル・シティズンシップ教育についても意識し、デジタル社会で強く生きていけるデジタル市民を育てることに力を入れてほしいと思います。

[参考文献]

※坂本旬ほか著「デジタル・シティズンシップ」(2020、大月書店)

(2022年7月)