コアネット教育総合研究所
人事コンサルティング事業部 事業部長 嘉村謙一郎
今回ご紹介するキーワードは、「組織知」です。
聞きなれない言葉かもしれません。でも、“暗黙知”・“形式知”と聞くと、なんとなく聞き覚えがあるなと、思われたのではないでしょうか。
組織をつくって活動する企業等で、そのリーダーや構成員は、「個人」の知識・経験・ノウハウを「組織」の共有財産にして有効活用したい、という意図をもちます。それを実践する手法をナレッジ・マネジメントといいますが、このナレッジ・マネジメントの対象が「組織知」です。
簡単に整理します。
・組織知 … 組織全体で共有された知識・経験・ノウハウ
・組織知の種類
組織知:暗黙知 と 形式知
→暗黙知…言語化されていない/言語化されにくい ※そのために、共有が難しい
→形式知…文書等で言語化されている ※そのため、共有が容易
例示として、車の運転(運転方法:形式知・運転技術や感覚:暗黙知)、接客(接客方法:形式知・実際の接客時の対話や観察、状況判断など:暗黙知)などがあげられます。実際には、人が関わる領域のすべてにおいて、程度の差こそあれ、この両者の区分があると思われます。
そのため、料理の達人のレシピを真似し、腕を磨くことは誰にでもできますが、誰もが料理の達人になれるわけではありません。同様に、誰もがトップ営業マンになれるわけではなく、人間国宝の宮大工にもなれません。
それでも、組織視点では、この「組織知」の共有・活用には大きな利点があります。全員が達人やトップ営業マンにはなれませんが、達人の知見や経験をある程度、同僚たちの多くが修得するだけでも、共有活動をしない場合よりもはるかに成長できる、業務の品質や業績が高まるはずです。
構成員個々が周囲から何も学習せず、任意の思考・方法で取り組む場合をイメージしてください。両者の違いは容易に想像がつきます。何を学ぶにせよ、誰でも最初は素人で、周囲の経験者に学びながら熟達していくのですから、この行為自体は自然なことです。
効果的な知見共有のために留意したいことを3点、あげたいと思います。
上述したように、暗黙知をどう形式知化し、共有を促進するかが勝負なのですが、もともと形式知化しにくい領域の共有に挑むわけですから、あれもこれも、では効果は期待薄です。達人たちの強みの源泉を確認・目利きし、ここぞという部分を選んでください。
上述したように、励んでも特級クラスに成長できるのは一握りの方々です。その方々の知見・実力を範としつつも、Aランク、Bランクまでせまれれば十分価値があると割り切り、取り組みましょう。
中には、達人の域に達する方も生まれてくるかもしれません。
この共有活動で最も重要かつ困難な部分は、達人・トップクラスの人材の暗黙知を形式知化するプロセスをどう進めるかです。そもそも、達人たち自身には、暗黙知・形式知の区分はあいまいでしょうし、それを意識し、共有することに留意してほしいと期待しても、望み薄でしょう。
達人たちは、その力が必要な活動に時間とエネルギーを投入しており、それこそが最重要かつ仕事の醍醐味です。要するに、他者への共有には、特に興味も、そんな暇もないからです。ではどうするか。
まず、「組織知を豊かにする」ことへの貢献も、組織の期待であることを明確に伝えます。同時に、その 活動を助ける支援者を指名し、知見共有を業務の一環として進めることが有効と考えます。
私自身が現職に就いて見てきた中で、「学校」は、この知見共有を最も不得手とする組織の一つではないか、と感じます。理由はいくつかあると思いますが、教職を選んだ先生方の大半が、「目の前の生徒たちだけに関心がある」方々であり、「知見共有が業務」という認識・感覚は、ほぼないためです。当然、管理職の先生方にもこの認識・感覚は希薄ですから、ナレッジ・マネジメント活動が効果的に機能する土壌はありません。この点は、“人がすべて”の学校組織が今後、意識して克服していかなければならない課題ではないでしょうか。