IR(Institutional Research)とは?

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IR(Institutional Research)

コアネット教育総合研究所 横浜研究室室長 福本雅俊

1.IRとは?

IRの定義

昨今、教育においても「IR」というワードを耳にされる機会が増えてきたのではないでしょうか。教育におけるIRとは、Institutional Researchの略称です。そして、その定義を端的に言えば、教育機関において、経営戦略・財務計画等の立案に必要なデータおよび情報を収集し、分析を行うことで、より効果的な経営を支援する活動、ということになります。つまり、学校経営を補佐するための取り組みということになります。もう少し具体的に定義すると、多面的にデータを収集・蓄積・分析することで現状を詳細に把握し、生徒募集・広報活動、教育活動等の課題を解決することで、学校経営に関する取り組みの改善を推進していく活動、ということになるでしょう。

IRのなりたちと経緯

そもそも、IRはアメリカの大学が発祥です。1960年代には各大学での導入が始まっておりますので、既に60年前には実践がスタートしていたことになります。一方、日本では2010年代に入ってから主に大学での取り組みがスタートしているといった状況です。
ただ、アメリカの大学と日本の大学におけるIR実践の経緯は少し異なります。アメリカの大学におけるIR導入の主目的は、学生の獲得から卒業までを維持すること、つまり休退学防止という課題解決のための手法として導入・実践をされています。
一方、日本の大学では、主な活用場面は学修成果の改善というところになります。つまり、内部の質保証が主目的であり、いわゆる「教学マネジメント」の文脈で導入・実践されているのです。共通しているのは、休退学防止も内部の質保証も、いずれも大学経営をより健全なものにするための取り組みである、ということです。

日本におけるIR実践の現状

そのような経緯の差こそあれ、日本の大学でも、この約10年で一気にIRを実践する大学が増加しました。今では、約40%の大学機関が導入していると言われています。これは、大学の規模の大小に問わずです。これだけのスピード感で進んだのは、おそらく文科省から大学に対して「教学マネジメント」の徹底が求められてきたことが背景にあるのではないかと思います。
では、中高ではどうか。現状、中高で組織的にIRを実践している学校はあまりありません。神奈川県にある桐蔭学園は学園全体として取り組んでいますが、そのレベルで取り組んでいるケースとなると、ほぼ皆無といってよいでしょう。ただ、筆者としては、今後中高においてもIRの発想・取り組みが重要になってくると考えています。

2.IRが目指すもの

IR導入の目的

ここからは、日本のそして中高においてIRを導入・実践することについて考えていきたいと思います。先ほども述べたとおり、筆者としては今後、中高においてもIRの重要性は高まってくるものと考えています。なぜなら、そのためのテクノロジーは日々進歩しており、かつそれを活用したIRが実践されれば、現状よりもいっそう効果的な学校経営が実現される可能性が高まるからです。
まずは、IR導入の目的を整理しておきましょう。それは、データを活用してより成果に結びつく学校経営を実現することです。さらに深掘りをすると、データを活用することで自校が直面している問題の真因を探り本質的な課題を設定することで、より効果的で具体的な課題解決策を導き出すということになります。
社会情勢がめまぐるしく変化する中で、子どもたちのより良い成長を促すという、教育の本義は不変であるものの、そのために必要なものや、そこに至るための効果的なアプローチは刻々と変化しています。これまでの学校経営においてひとつのエビデンスとなっていた先生方の経験や勘に、データを活用したエビデンスを加えることで、より高い効果が期待できる施策を実行するということが、IR導入の目的なのです。

IRの落とし穴

時代の潮流もあり、教育においてもデータを活用すること自体に対しては以前と比べてかなり拒絶感はなくなってきており、むしろその必要性を感じている学校、先生方が増えてきていると感じています。ただ、データを活用してIRを実践するにあたっては、陥りがちな落とし穴があります。みなさんがそうならないように、2点特に留意すべきことを挙げておきたいと思います。

 
(1)データの活用だけに終始する

「IRの実践=データの活用」と捉えてしまうと、課題を解決することではなく、ただただデータを収集して分析するということが目的化していってしまう可能性があります。つまり、(言い方は悪いですが)データをこねくり回して終わってしまうという状況です。
 IRの目的は、あくまでもより高い効果が期待できる施策を実行して自校が抱える課題を解決することです。そのためには、データを活用する以前に、どのような学校にしていきたいのか、どのような生徒を育てていきたいのか、そのためにどのような教育活動を行うのか、ということを整理して明確に持つ必要があります。これらの方向性を持ち、自校の目標とするところに到達するために、いま何が問題で設定すべき課題は何なのかということを明確化する場面においてデータを活用するのです。
前者の「学校としての方向性の明確化と目標の設定」があってこそ、後者の「データの活用」が活きてきます。このふたつを統合してはじめて本当のIRとなります。

 
(2)短絡的にデータを捉える

データは使い方によって、いかようにも解釈することができます。したがって、深い思考と探索が必要になります。IRを担当する人材には、データ分析に関する統計的な知識はもとより、むしろこの思考力や探索力が求められるでしょう。しかし、現実には非常に短絡的にデータを解釈されている場面に出くわすことが少なくありません。
例を挙げて説明しましょう。下記のグラフをご覧ください。これはダミーのデータですが、仮にどこかの学校の、どこかのクラスで取った課題提出率と定期考査得点の相関を見たグラフとしてご覧ください。相関係数は0.87となっています。相関係数は非常に高く、相関関係が強いといえます。これを見て、どう解釈するか?
見方によっては、課題提出率を上げれば定期考査の得点が上がる、と解釈することができるでしょう。しかし、本当にそうなのでしょうか?もしかすると、その教科が得意な生徒は課題に取り組みやすいために提出率が高いだけなのかもしれません。つまり、「課題の提出率」と「定期考査得点」に関係があることは分かったけれど、その因果関係はまだ見えていない、ということです。
このように、ある問題に関する相関関係だけを見ても関係性の検証はできても因果関係までは分からない、というケースはたくさんあります。では、課題の提出率に影響している要素は何なのか、もっとほかの要素も含めて探索を繰り返さなければならないのです。重要なのは、因果関係を深掘りしていくという姿勢なのです。

 

 

IRが効果的に実践されている姿

さて、紹介した「落とし穴」に留意したうえで、効果的にIRが実践されている姿とは、どのような姿なのでしょう。それは、生徒が自校を受験・入学し、在学、卒業、そして卒業後も含めた一連の過程に関する情報とデータを調査、蓄積して一貫して学校経営をマネジメントしている、という姿です。これを、大学経営ではエンロールメントマネジメントと呼んでいます。
私たちは、子どもたちのより良い成長と、社会で活きる資質・能力を身に付けさせることに責任を負っています。だからこそ、入学前から卒業後までも含めて、自校の教育活動の質を逐次チェックして改善していく姿勢が求められます。ひいては、そこで得られた成果やそれを示すデータは、募集・広報段階においても力を発揮することでしょう。
つまり、学校経営の方向性として、ディプロマポリシー・カリキュラムポリシー・アドミッションポリシーを明確にし、データの活用によってその検証と改善を絶えず繰り返しているという姿が、IRを効果的に実践されている姿ということになるのです。

3.IR実践における3つのポイント

それでは、IR実践において、具体的にポイントとなることは何か、ここでは3つポイントを挙げておきたいと思います。それは、(1)データを整える、(2)指標を設定する、(3)組織体制を作る、という3つです。一つひとつ、見ていきましょう。

 
(1)データを整える

実は、学内には既にデータがたくさん蓄積されています。受験している外部模擬試験の成績データ、学内の定期考査、実力テストのデータ、授業評価、学校生活満足度調査、大学入試結果データ等など多岐にわたるデータが存在しています。ただ、ここでふり返ってみてください。これらのデータを、ひとつの目的に沿って収集されていますか?多くの場合、そうなっていないのです。
各部署、各部門がばらばらに、それぞれの問題意識に沿ってデータを聴取、蓄積しているのが現状ではないでしょうか。繰り返しになりますが、学校経営の方向性を検証しながら目標を実現していくことがIR実践の目的であり、ゴールです。だからこそ、その目標や方向性に沿って、それらを検証するように各種データを取得して蓄積することが必須なのです。この視点を持って、再度自校に蓄積されているデータの質をふり返ってみてください。そのうえで、各データの質を向上させていきましょう。

 
(2)指標を設定する

目標を実現していくために学校経営の方向性を絶えず検証していくこと、その必要性を繰り返し指摘させていただいています。それを現実に行うためには、最終的な目標だけでなく、そこに至るまでの細かい指標の設定も必要です。これをKPI(Key Performance Indicator)と言います。目標達成に向けた過程における目標数値ということです。例えば仮に、「大学受験における希望進路実現率」が目標のひとつとして設定されているとしましょう。そこに至るプロセスにおいては、模擬試験の成績や共通テストの得点率、あるいは希望(志望校)そのものの決定率など、細かな指標が達成されていくことになります。これらの指標のうち、本当に目標に影響をおよぼしている要素は何かを掴み、具体的に数値としての細かい目標を設定していくことが指標の設定が意味ところになります。
 もちろん、この部分でこそ、経験や勘だけに頼ることのない設定が必要になりますから、データの分析は必須のものとなります。データの分析をしながら設定していくことになりますので、大切なのは実践・検証を繰り返しながら徐々に精度を上げていくという姿勢を持つことになります。

 
(3)組織体制をつくる

既に述べたように、IRの実践では、生徒が自校を受験・入学し、在学、卒業、そして卒業後も含めた一連の過程に関する情報とデータを調査、蓄積して一貫して学校経営をマネジメントしている、という姿を目指しています。既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この姿を実現しようと思うと、そこに絡んでくる部署は非常に多岐に亘るのです。つまり、各セクションの協力を仰ぎ、ひとつにまとめて一体となった活動を展開していくことが必要ということです。
それは難しい試みだな、と感じられる方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。筆者も同感です。閉鎖的になりがちな学校組織において、どこか既存の特定のセクションが上記のような取り組みを推進するのは困難なことでしょう。従って、筆者はIRを担当する独立したセクションを管理職に直轄する形で設定することをお奨めしています。数少ない中高での実践先進校である桐蔭学園も、IR担当セクションを設置してIR活動を推進されているということでした。

 

 まだまだ細かい部分に説明が不足していると思いますが、まずは以上の3点を意識して、自校でのIR活動導入まで検討すべきことを整理していっていただければと思います。

4.いま、なぜIRなのか?

では、最後になぜいまIRなのか、ということに触れておくことにしたいと思います。それは、いま私たちが置かれている先行きが見えない状況において、我々がそれぞれに「自分たちなりの解を持つ」必要に迫られているからだと、筆者は考えています。
教育はいま、転換期にあります。今後益々その変化は加速していくと、考えています。ただ、新しい時代に突入していけばいくほど、私たち大人や先生方にすら「正解」が分からない状況になっていくわけです。例えば、学習指導要領では、これから求められる資質・能力は示されていますが、どのようにすればそれらを身に付けることができるのかは示してくれていません。課題解決能力が必要である、ということを批判される方はもういらっしゃらないでしょう。ただ、それはどのようにすれば身につくのかに正解はないのです。だからこそ、私たちは目標に向かって教育活動を実践し、それを常に検証してふり返りながら、より効果的な取り組みへと改善していくという姿勢を持たなければならないのです。その先に、「自分たちなりの解」があるのではないかと思うのです。そして、その実現に必要なものが、従来通りの「先生方の経験値」と「データの活用」なのです。ぜひ、IR活動を推進し、本当の意味での私学の独自性を追求していってもらいたいと思います。

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