個別最適化学習

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個別最適化学習

コアネット教育総合研究所
所長 松原 和之

「個別最適化学習」は、文部科学省が目指すべき次世代の
学校・教育現場として掲げた教育のスタイルです。

文部科学省は、「多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学び」という言い方をします。「個別最適化学習」とは、特別な支援が必要な子どもたちも含め、一人ひとりの理解状況や能力、適性に合わせて個別に最適化された学びを行うことを指す言葉です。

一人一台の情報端末によりICTを活用した「個別最適化学習」が可能に

 2019年度から始まった政府のGIGAスクール構想は、小学生、中学生が一人一台の情報端末を持って学習することを目指しています。このGIGAスクール構想のコンセプトの一つが「個別最適化学習」です。一人一台の情報端末を駆使して学習することで、個々の学習ログを蓄積し、その集積である教育ビッグデータをAI等を使って解析することで、個々に応じた学びを実現しようという目論見です。

 学校では通常30~40名程度の集団で授業を行いますが、本来子どもたちの理解状況や能力、適性は様々です。一斉授業を行っていると、様々な状況にある子ども側から見たら、必ずしも最適な授業にはなっていません。それをICTの力を使って、出来る限り個別最適化しようという試みです。

「アダプティブ・ラーニング」とは

 1つの方向性は、「アダプティブ・ラーニング」という、個々の学習者の理解度に合わせ、学習内容や学習レベルを調整し、適切な学びの機会を提供するという取り組みです。もちろん、先生が子どもたちの理解度に合わせて個々に違うプリントを配って学ばせるというアナログな方法も不可能ではありませんが、クラス人数が多ければ多いほど、その困難さは増します。しかし、ICTを活用し、一人ひとりが情報端末を持ち、学習アプリを活用して、それぞれ自分に合わせた異なる学習を行うというデジタルな方法であれば、その実現は容易になります。近年は、AIを搭載した学習アプリも多く、学習者個人の理解度に合わせて問題を生成して個別最適化を行うことが可能になっています。

「パーソナライズド・ラーニング」とは

 個別最適化のもう1つの方向性は、「パーソナライズド・ラーニング」です。個々の学習者の興味・関心に合わせて学習内容や学習方法を調整するという取り組みです。それぞれの学習者がこれまでの学習履歴や身に付けている知識・スキル、現在の興味・関心、将来の目標などを踏まえ、個々に学習計画を立てて取り組みます。
 しかし、このような学び方は米国等の学校では行われていますが、日本ではあまり見られません。ドルトン東京学園の「ラボラトリー」は「パーソナライズド・ラーニング」の数少ない事例の1つだと思います。また、総合的な学習の時間において、個々にテーマを決めて探究学習をしている場合も、「パーソナライズド・ラーニング」に当てはまるかもしれません。

 「パーソナライズド・ラーニング」においても、過去の学習履歴や身に付けた知識やスキルを記録したり、学習計画を立てるにあたってはICTが十分活用できるため、一人一台の情報端末があると可能性が広がります。

「アダプティブ・ラーニング」の課題

 今後「個別最適化学習」を進めていくにあたっては、課題がいくつか残されています。
 まずは、「アダプティブ・ラーニング」においては、各学習アプリ業者に蓄積されている学習ログをどう学校単位や自治体単位、もっと言えば全国レベルで統合できるか、ということです。冒頭に書いたように、「個別最適化学習」が文部科学省が目指す次世代の教育のスタイルなのであれば、民間業者にバラバラに学習ログを蓄積しているだけでは困ります。せめて自治体ごとに、私立であれば学校法人ごとに統合して集積できる仕組みを構築しなければなりません。そして、それをAI等を使って解析し、それぞれの自治体としての、もしくは学校法人としての「個別最適化学習」方針・施策として立案・実行されなければなりません。

 また、そのような大きな施策レベルでの課題に先立って、現場での「ICTを活用した個別最適化学習の指導法」の確立が求められます。学習アプリを使って子どもたちが学習するようになると、一見先生は何もしなくてよくなるように思えます。しかし、そうではありません。先生の役割が変わるのです。先生は「教える」役割から「学びを促進する」「学びを調整する」役割に変わります。つまり「Teacher」から「Facilitator」や「Coordinator」に変わるのです。

 学習アプリを使って子どもたちが学習をすると、一人ひとりの学びの状況が先生の情報端末からリアルタイムに確認できるようになります。どの問題を間違えたか、どの問題に時間がかかったか、家庭学習は進んでいるか、など個々の学習の状況が見えてきます。その情報を使って、児童・生徒一人ひとりに声掛けを行っていくことが大事です。単元によっては全然理解が進まない子がいるかもしれません。家庭学習がまったく進んでいない子がいるかもしれません。しかし、子どもの成長は個々に異なるので、我慢しながらポジティブな声掛けをしていくことが大切です。これまでまったく家庭学習をしなかった子が、10分でも家庭で情報端末を使って学習していたら、その痕跡を見つけて大いに褒めてあげましょう。教えることはアプリでもできますが、褒めたりやる気を出させるのは先生にしかできないことです。このような「ICTを活用した個別最適化学習の指導法」を学校として確立することが求められるのです。

「パーソナライズド・ラーニング」の課題

 最後に「パーソナライズド・ラーニング」についての課題を述べておきたいと思います。学習内容を自分で決める「パーソナライズド・ラーニング」は、学習指導要領や検定教科書がきっちりと作られている日本には相性が悪い学習方法かもしれません。しかし、学習指導要領をよく見ると、学ぶべき項目は書いてありますが、意外と大まかです。工夫によっては、それを外さないように、学習内容を自己決定させる学びは実現できると思います。ましてや総合的な学習の時間は自由度が高いです。学習者一人ひとりが自分で問いを立て、自分で調べ、自分で考え、自分の意見を入れてまとめて表現するような探究的な学習は十分実現できると思います。「パーソナライズド・ラーニング」は、児童・生徒を「自立した学習者」に育てる有力な学習法です。ぜひ実現させるよう工夫をしてみてください。

 「個別最適化学習」を理想論や一時の流行言葉にしないよう、現場で実現できる方策を考えながら進めていきましょう。

(2021年4月)