進学実績向上のための4つの条件(4)

進学実績向上のための4つの条件(4)組織で取り組む授業力向上

コアネット教育総合研究所 横浜研究室 室長 福本 雅俊

 前号までで、進学実績向上に組織として取り組む重要性について述べてきた。目標を掲げ、生徒の成績や学習状況についての現状を把握したうえで、その実現に向けた方針を立案する。そうして、組織として進むべき方向性が明確になったところで、いよいよ具体的な取り組みを進めていくことになる。そこには、進路指導の体制構築や、生徒のモチベーション向上策などもあるが、恐らくどの学校においても向きあわなければならない課題として、生徒の学力向上、そのための授業力向上を挙げることができるだろう。今回は、私たちがお手伝いした事例もご紹介しながら、学校全体で取り組む授業力向上について考えてみたい。

1. 私学における授業力向上とは

 生徒の意欲を高め、実力を伸ばすためにはどうすれば良いか、日々試行錯誤を重ねている先生方は皆、授業力向上に取り組まれていることと思う。この時「授業力」という言葉は、授業スキルと同義で捉えられることが多いのではないか。

 確かに、個々の授業スキルを向上させ、そのノウハウを共有することは重要だ。しかし、 私たちは、スキル向上のみならず、先生方の目線を合わせて学校としての軸を持つことが、私学における授業力向上であると考えている。それぞれ私学には建学の精神・教育理念があり、育てたい生徒像がある。それをふまえて、学校として目指す授業の軸を定め、それに則って各教科で足並みの揃った目標を設定し、個々の教員がそこにコミットすることで、学校としての「授業力」が作られるのではないか。

 進学実績を向上させたいと考えた時に、一部の先生の個人的な努力に頼っていては、学校として継続的/安定的に実績を挙げることは非常に難しい。それぞれの教員がバラバラの方向に向かうのではなく、一つの方向を目指した指導を行うことで、学校として生徒の力を伸ばすことが、進学実績向上のベースとしても必要なのである。

 

2. 授業アンケートの活用

 このように「私学としての授業力」を捉えるとすれば、生徒に対する授業アンケートは、 学校としての授業力向上を達成するための有効なツールであると私たちは考えている。学校としてひとつの基準を定め、それに照らして現状を把握し、改善策を考えるというプロセスを経ることで、まさに「私学としての授業力向上」が期待できる。しかし現状では、授業アンケートは多くの学校で実施されているものの、明確に授業力向上を目的として、効果的に実施・活用できている学校は少ないのではないだろうか。実際に、学校を訪問していると「アンケートは毎年取るけれど、取りっぱなしになっている」「結果は個人票を返却して、改善は個人任せになっている」「毎回同じ項目でアンケートを実施していて、形骸化している」といったお話をよく耳にする。

 そのような、“もったいない”状態に陥らず、授業力向上のためにアンケートを活用していくためには、各項目について「できた/できない」を単にチェックするためのアンケートではないという意識をもつことが、前提として必要になる。個々の先生方が項目の内容、即ち学校としての理想や軸を意識することで日々の授業がより良い方向に変わり、学校全体の授業力向上によって進学実績向上も実現されるという状態を最終的に目指すという考え方が重要だ。それを踏まえて、実際にアンケートを作成・実施する際の3つのポイントを以下に整理したいと思う。

 

ポイント①:項目設計

 アンケート結果が出た後、それを誰がどのように受け止め、次にどのようなアクションを取るかということも非常に重要である。現状では、多くの学校がその重要性を認識しながらも、どうすれば良いかわからず苦心しているのではないか。

 現場の教員という立場では、まず自分自身の評価を確認して改善点を把握するだろう。しかし、すべての問題を個人の力で解決できるわけではない。授業の難易度を適正化するには、教科として使用している教材を見直す必要があるかもしれない。あるいは、学校として習熟度別授業などの仕組みの見直しを検討しなければならないかもしれない。このように、個々の課題に加えて、教科単位・学校全体での検討事項も同時に意識し、学校全体での改善活動へ発展させる必要がある。

 そうした論点を整理し対応することも含め、管理職にはマネジメントが求められる。個々の先生の“良し悪し”を評価するということではない。学校の目指す理想とのギャップが大きい教員や、定められた軸から外れている教員がいる場合には、しっかりとしたフォローが必要となる。管理職が育成責任を自覚し、現場の先生方と共に悩みながら改善策を考えて支援しなければ、授業力向上を実現することはできないだろう。

ポイント②:結果の受け止め方

 アンケート結果が出た後、それを誰がどのように受け止め、次にどのようなアクションを取るかということも非常に重要である。現状では、多くの学校がその重要性を認識しながらも、どうすれば良いかわからず苦心しているのではないか。

 現場の教員という立場では、まず自分自身の評価を確認して改善点を把握するだろう。しかし、すべての問題を個人の力で解決できるわけではない。授業の難易度を適正化するには、教科として使用している教材を見直す必要があるかもしれない。あるいは、学校として習熟度別授業などの仕組みの見直しを検討しなければならないかもしれない。このように、個々の課題に加えて、教科単位・学校全体での検討事項も同時に意識し、学校全体での改善活動へ発展させる必要がある。

 そうした論点を整理し対応することも含め、管理職にはマネジメントが求められる。個々の先生の“良し悪し”を評価するということではない。学校の目指す理想とのギャップが大きい教員や、定められた軸から外れている教員がいる場合には、しっかりとしたフォローが必要となる。管理職が育成責任を自覚し、現場の先生方と共に悩みながら改善策を考えて支援しなければ、授業力向上を実現することはできないだろう。

ポイント③:継続意識

 前述の通り、あくまでも「個々の先生方が項目の内容、即ち学校としての理想や軸を意識し、それによって日々の授業がより良い方向に変わっていくことが最終的な目的である」ということを考えると、一度アンケートを実施して課題を認識するだけでは不十分である。次年度の各教科目標を考える際にも、アンケート項目を意識するなど、継続的に授業力向上を図れるような仕組みを作ると良いだろう。

 

3. 事例紹介

 ここで、中高一貫のA校で実際に取り組んだ「授業力向上」の事例をご紹介したい。
 A校では、毎年教科ごとの年度目標を作成していたが、各教科が提出されたものを取りまとめて終わり。よく見ると、視点や目標のレベル観にズレがあった。また、授業アンケートも実施していたが、個々の教員に結果を返却して終わり。授業の質をマネジメントするという考え方がなく、「このままでは授業力が低下してしまう」という危機感からプロジェクトが始まった。

 

1. プロジェクトの概要

 取り組みは大きく3つの段階に分かれている。

 

 まず、ステップ1として、全教員を巻き込んだワークショップで授業の「軸」作りを行った。学校として生徒にどのような力を身につけてほしいのか、そのためにどのような授業を目指すのか。その具体的な要素について議論し、「生徒が論理的な思考をする場面がある授業」「常に新しい知識や技術が取り入れられた授業」「先生と生徒がやりとりをしながら行う授業」など、学校として重視する15項目を決め、課題の把握や施策の立案を行った。

 この際、教科主任・管理職を中心としたリーダーだけで、先にプレワークショップを実施した。(図4-②)そこでまず学校としての考え方・方針を浸透させると同時に、個がばらばらに取り組むことでは実現できない「授業力向上」のあり方についても理解してもらった。そして数日後に行ったメインプログラムでは、リーダー達が中心となって一般の先生方を巻き込んでいただく形をとり、今回のテーマが全員にとっての“自分ごと”となるようにプログラムを進めた。

 

 

 ステップ2として次に実施したのは授業アンケート・授業観察そして自己評価である。通常であれば、「板書の見やすさ」「声の大きさ、話し方」といった授業スキルに重点を置いた項目が多いと思われるが、今回は、ワークショップで決定した15項目を、そのままアンケート項目・観察項目として採用した。授業アンケートは生徒に回答してもらい、集計分析を実施。授業観察は、管理職・教科主任が中心となって実施し、被観察者には自己評価を記入してもらった。

 それらの結果を管理職に報告するだけではなく、再び全教員が集まって共有するのがステップ3である。管理職からは、アンケート・観察の結果をふまえて練った次年度の方針を全教員に発信。ステップ1で教科として考えた各項目についての「実現度」と、アンケート結果のギャップを認識した上で、何をどのように解決しなければならないか考えると同時に、次年度の重点項目や達成目標を、教科別にじっくりと議論した。

2. 解説

 A校の事例を前述のポイントに照らし、私たちの考える良かった点を以下にいくつか挙げてみたい。

 ステップ1では、教科に関係なく「学校として目指す授業の姿」を定め、「それを自分の教科で実現するためには?」と落とし込んで考えるという順番が重要だ。 「数学だからできない」「英語だから関係ない」ではなく、学校としての考え方・ 方針がすべての教科を貫く15項目として位置づけられることにより、学校が目指す姿を全員で追求することができる。

 先生方の感想を振り返ると、授業の質という本質的な問題についてじっくり議論する機会は、忙しい日常の中ではなかなかないため、ワークショップの場そのものにも価値を感じたという意見が多く聞かれた。また、全教科が同時に議論を進め、お互いに発表し合ったため、「他教科の問題意識や取り組み内容がわかってよかった」という声も多くあった。詳細は、以下にまとめるアンケート集計結果をご参照いただければと思う。

 


 

 ステップ2において重要なことは、ステップ1との連続性である。ワークショップで全員の共通認識の下に決まった項目を用いて実際の授業を検証することにより、話し合いの内容が実際に活かされることになる。評価・観察項目に学校の価値観が反映されているため、その項目内容を意識することで、個々のベクトルと学校の方針とが自然にそろうことになる。

 ステップ3では、次年度目標を設定するために、という目的意識をもつことが鍵となる。ステップ1におけるワークショップでの議論や自己評価結果を加味して考えることで「教科としてできていると思っていたが、生徒の評価は低かった」「自分達が意図していることが、生徒には上手く伝わっていない」といったように、一つの授業を多角的に見ることができ、教科としての対策を議論することができる。ポイント②③として述べたように、前向きに受け止めて次へと繋げるためには、全教員で取り組む場を設けることの意義は大きい。

 

4. 点ではなく線で、面ではなく立体で

 A校での授業アンケート・観察は「ダメな先生を見つける」「先生ひとりひとりに点数をつける」ことを目指していない。あくまでも、学校としての授業の軸を明確に定めること、全教員がそれを共有し自覚し、近づけるように努力する仕組みを作ることに主眼を置いている。

 しっかりとした「項目設計」のプロセスを経てアンケートを実施し、その結果を管理職として、教科として、個人として「受け止め」、それが反映された年度目標の定期的な振り返りが「継続的に」実施されれば、マネジメントのサイクルが回り、学校として理想の授業を追求することが可能になるのである。

 授業力の向上、そしてその先にある進学実績向上のためには、個の努力ももちろん不可欠だが、それだけでは限界がある。6年間というスパンの中で、生徒をどのように育てていくか、そのために何が必要か、そうしたことを学校組織として考え、試行錯誤を積み重ねなければならない。ある先生の一時間の授業を点で捉えるのではなく、教科や学年といった様々なつながりの中で捉えること。或いは、生徒からのアンケート結果という一面のみではなく、教科としての自己評価等を組み合わせて一つの授業のあり方を多角的に考えること。大切なのは、「点ではなく線で、面ではなく立体で」捉えることではないだろうか。

 

5. おわりに

 今回取り上げた授業力と並んで、よくご相談を受けるのは、進学指導の仕組みについてである。こちらも、やはり個の努力だけではうまくいかない問題であり、しっかりとした体制が必要になってくる。

 次号では、「進学指導体制の構築」について、事例をご紹介しながら考えていくことにする。

(2016年10月)

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《著者紹介》
コアネット教育総合研究所 横浜研究室 室長 福本雅俊
私立高校の教員を経て、2006年コアネット教育総合研究所に入社。
現在は「キャリア教育」を主領域としながら、教育活動に関する支援を中心に生徒募集活動支援など、学校経営を全般的にサポートしている。