私学におけるマーケティング戦略(2)

私学におけるマーケティング戦略(2)セグメンテーションとターゲティング

コアネット教育総合研究所 所長 松原 和之

セグメンテーション

 前回は、私学でもマーケティングが必要であることを述べ、「クルマ」という商品との対比の中で、私学のマーケティングについて少し考えてみた。

 今回は、そのような視点でもう一度、前回述べたマーケティングの定義に従って具体的に整理してみたいと思う。

 まず始めに行うことは、「マーケット・セグメンテーション(市場細分化)」である。自校からみて顧客となりうる市場をいくつかの視点で細分化して捉えるのである。細分化の軸は様々で、どの軸が最も魅力的なセグメントを導き出すものなのかを見つけ出すことが大切である。一般に利用される基本的な軸としては以下の4つがある。

  • 人口統計軸……性別、年齢、所得、職業、学歴、社会階層など
  • 地理軸……地域、都市の規模、人口密度、気候など
  • 顧客行動軸……認知状況、情報感度、利用経験、ロイヤルティなど
  • 心理軸……ライフスタイル、パーソナリティなど

 

 顧客を「中学から私学に入学する生徒の保護者」と考えた場合、これから顧客になる小学校高学年の子どもを持つ保護者をマーケットとして捉えることができる。これをどのようにセグメンテーションできるであろうか。

 学校の通学範囲という物理的制約があることから、まず「地域」は重要な軸となる。また、授業料の支払能力を考えると「所得」や「職業」「学歴」なども重要な軸である。

 例えば、2002年に私どもで行った小学4~6年生の保護者を対象にしたアンケート調査の結果を分析してみると、私学を受験しようと考えている保護者と私学を受験しようと考えていない保護者との間には、「所得」や「職業」「学歴」などに明らかな差があった。つまり、その軸でマーケット・セグメンテーションすると、私学が狙うべきセグメントが明らかになる。しかし、これらの軸だけでは、私学一校一校にとっては、有益なセグメンテーションになっていない。このようなデモグラフィック(人口統計的)な軸から、サイコグラフィック(心理的)な軸へ踏み込む必要がある。保護者のライフスタイルやパーソナリティまで視野に入れて分析すれば、一校一校にとって有益なセグメンテーションができると思われる。
 その場合、マーケットにおけるニーズの構造が明らかになるような切り口を見つけることができれば、自校が狙うべきセグメントが浮き彫りになる。

 私学受験を考えている保護者を「どのようなニーズを持っているか」という視点から考えてみると、例えば、「徹底的に勉強して、より高いレベルの大学に入学したい」「規律や身だしなみなど生活指導を徹底してほしい」「クラブ活動で全国的に活躍したい」「ネイティブスピーカーと話せるぐらいの英会話力をつけたい」などが挙げられる。私学に対するニーズは様々で、かつ個々人が複数のニーズを持っている可能性が高い。つまり受験生保護者は「あれも、これも」欲しがっている。従って、これらのニーズをうまく浮き彫りにする軸を出すのは、かなり複雑な分析になるだろう。いずれにしても、各学校において、それぞれの視点において分析をしなければならない。

ターゲティング

 魅力的なセグメントが見出せたら、続いて、そのターゲットに対して、どのようなサービスを提供するかを考えなければならない。これを、マーケットの中で自らをどこに位置付けるかという意味で、「ポジショニング」という。

 このポジショニングこそが、学校としての独自路線であり、他校との違いをつくり、より存在価値を高めるものである。従って、どのセグメントに対して、どのような教育(サービス)を提供するかが学校として最も注意を払わなければいけないポイントである。

 どのようなサービスを提供するかを考える場合、自校でコントロールできる様々な手段を組み合わせながら検討するので、「マーケティング・ミックス」と呼んでいる。
 マーケティング・ミックスの基本は、企業で考える場合、製品戦略(product)、価格戦略(price)、流通戦略(place)、プロモーション戦略(promotion)の四つに分類され、頭文字をとって「4P」と呼ばれている。

 製品戦略とは、品質や種類、デザイン、ブランド名、パッケージ、サービス、保証などをどのように提供するかということである。私学に置き換えて考えれば、「教育理念」「教育方針」「カリキュラム」「生活指導」「進路指導」など、どのような教育を行っていくかということに他ならない。私学にとっては、この部分が最も大きく、一番時間をかけて検討すべきところである。

 価格戦略は、まさに価格をどうするかということであり、私学では学費をいかにするかということである。顧客側から見れば、同じ教育内容であれば、学費が安いに越したことはないが、逆にいうと、学費が安いだけでは選ばれない。あくまでも教育内容(製品)の良し悪しが最優先されている。とはいえ、やはり気になる部分ではあるので、受験料、入学金から始まって、授業料、修学旅行費、制服代、その他各種費用について再検討する必要はあるだろう。

 流通戦略とは、企業でいえば、運送や在庫、店舗、品揃えなどをどうするかということであるが、私学にとっては、「place」をむしろ「場所」と読み取って、「立地」および「周辺環境」をどうするかという戦略だと考えた方がいいだろう。また、「校舎・設備」は広い意味での製品に含んでいるが、製品は教育内容のソフト部分だと狭義に捉えることもでき、その場合は、この流通(場所)戦略に含めて考えるのが妥当であろう。同様に「教職員」も教育サービスという製品をデリバリーする役割だと考えれば、流通(場所)戦略の一部と捉えられる。

 プロモーション戦略とは、広報、広告、販売促進などである。これは、私学でもまったくそのまま当てはまるが、「説明会」や「塾訪問」など人的な広報活動がかなり重要な位置を占めているということは特筆すべき点である。

 このように、4つのPで始まる構成要素をどのように組み合わせて顧客にアプローチするのかが、ポジショニング戦略としてとても大切なことである。

 

 マーケティングの流れを大きく捉えると以上のようになるが、「さて、実際にマーケティングに取り組もうと思ったら何をすればよいのだろうか」と悩んでしまうかもしれない。

 

 次回は、実際の活動に即して話を進めていきたい。

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《著者紹介》
コアネット教育総合研究所 所長 松原和之
一橋大学社会学部教育社会学専攻卒業後、企業の経営企画部門に勤務。1997年より三和総合研究所コンサルタント。企業や学校法人の経営コンサルティングに従事。2000年よりコアネット教育総合研究所主席研究員、2003年より同所長。現在、私学経営や中等教育に関する調査・研究を行いながら、私立中高からの改革に関する相談や調査の依頼を受けている。