本稿の第2回で、マーケティング・ミックスの4つのPについて少し触れた。4Pとは、製品戦略(product)、価格戦略(price)、流通戦略(place)、プロモーション戦略(promotion)の4つであるが、そのうち、プロモーション戦略について、少し詳しく述べておきたい。
「プロモーション」とは、顧客である生徒や保護者へ効果的に情報を伝達するための活動である。言い換えれば、学校を取り巻く外部環境とのコミュニケーションの活動とも言える。
私学のプロモーション活動はその施策の特性によって「広報」と「募集」の二つに大別することができる。
「広報」は、主としてマスメディアを使って自校の教育内容などの情報伝達を行う活動である。私学、特に中学・高校の場合は、媒体としてテレビやラジオなどの電波媒体を使うことは稀であり、主に、新聞・雑誌・交通媒体・看板などを利用している。
広報媒体のメリットは、広範囲に多数の人の目に触れることであるが、逆にデメリットとしては、セグメントの絞り込みがしづらく、また相対的にコストが高いことが挙げられる。
交通媒体や看板は、地域を限定できるため、ある程度のセグメントが可能であるが、逆に対象者は絞り込みにくい。雑誌は、受験雑誌であれば、読者が受験生のみに絞り込めているが、逆に地域などは絞り込みにくい。
広報戦略を策定する場合には、これらの広報媒体をいかに組み合わせるかが重要である。自校がいま、「誰に」「何を」訴えたいかを考えて、媒体を選択しなければならない。そして、広報の効果を最大にするために、広報の「幅」と「奥行」を考えなければならない。
広報の「幅」とは、伝達の範囲であり、広報の対象者の数である。「奥行」とは、伝達量であり、伝える情報量のことである。伝達範囲が広く情報量も多いような、「幅」も「奥行」もある媒体は効果が大きい。逆に、伝達範囲が狭く情報量が少ない媒体は効果が小さい。つまり、「幅」と「奥行」の掛け算で効果を測ることができる。
しかし、実際の媒体の検討の場合には、「高さ」(費用)という第三の次元が必要である。伝達範囲も広く伝達量も多いテレビ広告は効果が大きいことは分かるが、その分費用が高くなる。私立の中高にとっては過分な広報量になるため、費用対効果という視点からは利用はあまり得策ではないということが分かる。
広報媒体にはそれぞれ一長一短があるので、予算の範囲でうまく組み合わせることが大切である。
一方の「募集活動」は、企業で言えば「販売促進活動」にあたるもので、ある程度ターゲットを絞り込んだ上で行う活動である。「広報」の機能が「知らせる」ことを主としているのに対し、「募集」の機能はさらに一歩踏み込んで「受験行動を起こさせる」ものである。
募集活動は、「募集ツール」によるものと、「人的活動」によるものに分けられる。
募集ツールには、学校案内パンフレット、リーフレット、ポスター、チラシ、ダイレクトメール、ホームページなどがある。人的活動には、学校説明会、学外の合同説明会、塾訪問などがある。
募集活動は、受験行動を起こさせるための施策であるため、ツーウェイ・コミュニケーションによる説得が可能な人的活動が最も効果的である。募集ツールは、その活動を支える道具として活用していくという捉え方が必要である。
ともすると、募集ツールの制作のみが独立して進んでしまうことがあるが、あくまでも人的活動の補助であることを考え、「いつ、誰が、どのような募集活動を行うのか」といった計画を先に立て、TPOに応じたツールを用意するように心がけたい。
近年、学校説明会や学外の合同説明会の回数も増え、また受験生への直接的なアプローチだけでなく塾を通じたプロモーション活動を活発に行うなど、人的な募集活動は複雑化・多様化している。効果的で効率的な活動を行うためにも、年間を通じた計画を策定することをお奨めしたい。
そしてもう一つ、人的活動に含まれるものとして、在校生や卒業生によるクチコミが大切であることを付け加えておきたい。
良くも悪くもクチコミの影響力は強い。「最高のプロモーションは満足している顧客である」ということを心にとめ、日々の教育活動を通じて生徒および保護者の満足度を高められるよう教職員が一丸となって取り組んでいかれることをお願いしておきたい。(完)
4回にわたり「私学のマーケティング戦略」について考えてきました。本稿では、どちらかというと理論的な方向から私学のマーケティングについて考えてきました。日々広報や募集活動をなさっている学校の先生方は、ふだんのご自身の活動をこのような視点から再整理してみて、今後の活動に活かしてみてください。