コアネット教育総合研究所
所長 松原 和之
教室の心理的安全性とは、学校の教室の中で、児童・生徒が自分の考えや気持ちを安心して発言・発表できる状態のことです。
そのことで、子どもたちの主体性やクリエイティビティが発揮され、対話的で深い学びが促進されるという効果があります。
元々、心理的安全性(psychological safety)という言葉は心理学用語で、ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱したものです。「チームのメンバー一人ひとりがそのチームに対して、気兼ねなく発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる、と感じられるような場の状態や雰囲気」と定義しています。
エドモンドソン教授の著書『恐れのない組織―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』という本が日本語訳で発売されていますので、心理的安全性を詳しく知りたい方はそちらをご覧いただけるとよいと思います。
心理的安全性という言葉は、2016年にGoogleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」と発表したことから、注目を集めるようになりました。Googleが約4年間、成功し続けるチームに必要な条件を探る調査研究を実施した結果、「心理的安全性の高いチームのメンバーは、離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用でき、収益性が高く、マネジャーから評価される機会が2倍多い」ということが判明しました。このことから、企業において成功する組織の条件として心理的安全性が注目されるようになったのです。
このように心理的安全性が注目されると、他の組織・チームでも応用できるのではないかという研究が始まりました。その一つが「教室」「子どもたちのチーム」というわけです。
教室においても、心理的安全性が高いと、子どもたちの関係性が良くなり、他の子が発言・発表した内容に触発されて新しいアイデアが生まれるなど、学びが深くなります。つまり、教室の心理的安全性が高いと、子どもたちの主体性やクリエイティビティが発揮され、対話的で深い学びが促進されるということです。
教室の心理的安全性を確保するために大切なことを3点記します。まずは、異質なものを許容する環境づくりです。変な発言をすると馬鹿にされる、みんなと違う意見を言うと否定される、そんな環境では安心して発言できません。日本は子どもの世界でも同調圧力が高く、みんなが空気を読み過ぎるので、異質なものを認めない雰囲気が強いです。ですから、意識的に異質なものを受け入れる態度をつくり出すような働きかけが必要です。相手の意見を否定せずきちんと受け止めるという話し合いのルールをつくり、唯一の答えがない問いについてみんなで議論してみるとよいでしょう。そのような対話の経験が異質なものを許容する態度をつくり出すと思います。
2点目は、失敗を許容する環境づくりです。失敗を許容しない雰囲気があると、自信がない子は発言すらできません。失敗してもいいんだよ、間違ってもいいんだよ、というメッセージを先生から子どもたちに常に送るようにしてください。子どもたちの間でもお互いの失敗を許容できるようになれば、心理的安全性は高まります。
そして、3点目は、発言が特定の人に偏らないような環境づくりです。教室内では自然に任せると、失敗の可能性が低い子(優秀な子)、元来空気を読まないタイプの子だけが発言するようになります。上記2点を改善できると自然とこの3点目は気にならなくなると思いますが、それまでは意識して、発言の偏りを調整することが必要です。
少人数に班分けして話し合わせる、順番に発言させる、まずは全員に意見を考える時間を与えノートに書いてからそれを読み上げるように発表させる、などの方法があります。発言が多い子を無理に制止することはかえって逆効果になることもあるので注意が必要です。
教室の心理的安全性を確保するには、まず先生方が心理的安全な状態におかれることが大事です。教員組織の中で気兼ねなく発言できる状態をつくる、つまり職員室の心理的安全性をまず確保しましょう。普段の何気ない会話でもいらぬ忖度をしたりしていませんか。職員会議で一部の声の大きい人だけが発言していませんか。まずは、自分の身の回りから変えていくように努力してみましょう。
[参考文献]