コアネット教育総合研究所
横浜研究室 中村 恭弘
エンゲージメントは従業員の、仕事や組織との間に生じる心的繋がりを指し、高いエンゲージメントは、従業員の受動的ではなく主体的な、傍観者意識ではなく当事者意識を持った業務の実現に強く影響します。
エンゲージメントは従業員の、仕事や組織との間に生じる心的繋がりを指し、高いエンゲージメントは、従業員の受動的ではなく主体的な、傍観者意識ではなく当事者意識を持った業務の実現に強く影響します。なお、エンゲージメントは大きく2つの概念に切り分けることができます。1つは、仕事と従業員の関係の間に生じる感情や認知を指す「ワークエンゲージメント」。もう1つは組織と従業員の関係の間に生じる感情や認知を指す「従業員エンゲージメント」です。
ワークエンゲージメントとは
オランダのユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱した概念であり、主に学術界で普及した概念です。シャウフェリは、自身の論文の中で、ワークエンゲージメントとは「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。エンゲージメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である。」と定義しています。
「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)
「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)
「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)
の3つが揃った状態
従業員エンゲージメントとは
主に産業界で取り沙汰されてきた概念であり、多様な意味を内包する言葉として使われます。ワークエンゲージメントとの違いは、ワークエンゲージメントが「仕事」と「従業員」との関係の間に生じる感情と認知であることに対し、従業員エンゲージメントは、「組織」と「従業員」の関係の間に生じる感情と認知である、という点にあります。
「自社に愛着を持っている」
「現在の会社にとどまりたいという意思を持っている」
「仕事に満足感を覚えている」
「自らの役割を超えた行動をとる」 など
学校現場の先生方とお話をしていると、学校では「生徒との関わり」に関するワークエンゲージメントが非常に高い傾向にあるようです。その背景には、教員志望の方の中には、採用活動時点でそうした「対生徒」に関する業務のイメージを特に強く持っている、という特徴があり、これは一般企業における新入社員の場合とは大きく異なる点です。
「組織」と「従業員」の関係の間に生じる感情と認知である、高い従業員エンゲージメント(学校現場に即して、ここでは仮に「教職員エンゲージメント」と呼ぶことにします)は、組織のパフォーマンスの向上や、教職員の役割外行動、職務継続志向といった要素に影響を与えることが明らかになっています。しかし、学校(特に私学の)現場においては、教職員の入職前と入職後で、職務内容に対するギャップを感じやすい構造となっており、教職員エンゲージメントが高まりにくい状況であるといえます。そのひとつの要因に、学校の採用活動の在り方があります。企業は採用活動における予算規模も大きく、「良い人材」を獲得するために様々な打ち手を講じます。一方、私学においては、採用活動における予算規模も多くなく、組織と教職員の入職前の「対話」を十分に取ることができない課題があります。私学では1人の教職員が担う業務も企業と比べて非常に多岐に渡るため、入職前には想像もしていなかった業務を行っている、と感じることも珍しくないのではないでしょうか。こうした構造が、教職員エンゲージメントを高めづらい環境を作ってしまっているといえます。
先行きが見えない中で、価値を創造していくためには、柔軟な発想はさることながら、それを実現するための、組織の高いパフォーマンスや、従業員の役割外行動が必須です。それを改善できる考え方の1つが、今回ご紹介した「エンゲージメント」です。ここでは、学校現場におけるエンゲージメントの課題と、その要因となる一例として、採用活動を挙げました。現在すでに在職されている教職員に対するアプローチももちろん必要ですが、それには、経営陣の覚悟と粘り強い根気が必要です。今回述べた内容を、自校の状況と照らし合わせて振り返った際に、漠然とでも該当するような不安があれば、まずは、採用活動の在り方から見直されてみてはいかがでしょうか。
[参考資料]