中核的な概念(2030新学習指導要領検討のポイント)

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中核的な概念
(2030新学習指導要領検討のポイント)

コアネット教育総合研究所
所長 松原 和之

「中核的な概念」とは、学習指導要領において、各教科等の単元(内容のまとまり)や学習領域を通じて児童・生徒に理解して欲しい主要な概念等を表したものです。教育学における「ビッグ・アイデア(Big Idea)」にあたるもので、学習内容の中核にある大きな概念や原理を指し、細かい知識や手続きに対して「学習の柱」になるものです。

次期学習指導要領の検討状況

現在、次期学習指導要領の改訂に向けて、中央教育審議会教育課程部会教育課程企画特別部会で改訂内容の検討が行われています。2025年9月19日の部会において、論点整理案が議論されました。論点整理は学習指導要領改訂の方向性を示すものであり、改訂に反映される可能性が高いといえます。これは、現学習指導要領(2017年告示)の検討の際の論点整理(2015年8月)からおよそ10年後であり、このまま順調に検討が進めば、2027年頃に新学習指導要領が告示され、2030年頃には小学校の新学習指導要領が全面実施されることになるでしょう。

 

なぜ「中核的な概念」という言葉を定義するのか

今回、この「中核的な概念」という言葉を定義しようとしている目的は、学習指導要領を構造化して理解しやすくするためです。現学習指導要領では、各教科等の授業において、個別の知識を学びながら、新たな知識が既得の知識及び技能と関連付けられ、各教科等で扱う主要な概念を深く理解し、他の学習や生活の場面でも活用できることを目指しています(深い学びの実現)。しかし、実際に授業をつくる上で、個別の知識や技能が関連付けられた状態や各教科等の主要な概念の深い理解との関係のイメージができず、深い学びが実現できていないことが課題となっています。

そこで、個別の知識を羅列する前に、それらの中核となる概念を結集・統合して、学習指導要領に表そうという検討がされているのです。

 

「複雑な課題の解決」とは

現学習指導要領では、身につける項目として単元ごとに「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」を羅列していますが、この「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」との関係がわかりにくいため、これを並べて表記する表形式での記載も検討されています。個別の知識及び技能を結集・統合するものとして「中核的な概念」を明示するとともに、個別の「思考力、判断力、表現力等」を結集・統合するものとして「複雑な課題の解決」という言葉を使用して表そうと検討しています。

 

「中核的な概念」「複雑な課題の解決」の例

論点整理の資料の中では、中学校数学「数と式」という単元(内容のまとまり)を取り上げ、「中核的な概念」として「数の範囲を拡張することにより、より広範な事象を一般的かつ明確に表し、計算が能率的にできるようになることを理解する」という例をあげています。また、一方で「複雑な課題の解決」については「数の範囲を拡張し、それらの新たな数を用いて、日常生活や社会におけるより広範な問題を解決することができる」という例をあげています。

「中核的な概念」は個別の事実的な知識を抽象化して理解したり、意味を理解したりすることを目標として明示しているものだといえるでしょう。また、「複雑な課題の解決」は各教科におけるコンピテンシー(活用能力)を表現しています。

 

「見方・考え方」と何が違うのか

現学習指導要領から各教科等における「見方・考え方」という言葉が定義されました。見方とは、物事を捉えるときの着眼点や視点であり、考え方とは、その見方に基づいて物事を解釈・整理・説明するための考えの道筋です。それを教科ごとに整理したのです。

今回の「中核的な概念等(複雑な課題の解決を含む)」は、この「見方・考え方」とどこが違うのでしょうか。そもそも「見方・考え方」は「①各教科等の学びの深まり」と「②各教科等を学ぶ本質的な意義の中核」という2つの側面を有しています。この①は、教科の特質に応じて深い学びが実現するような資質・能力を育成するものという意味だったので、「中核的な概念等」に包含されるものだと理解されます。次期学習指導要領においても「見方・考え方」という概念を残すのであれば、②の意味(教科の学びをよりよい社会や幸福な人生に繋げていくという本質的な意義)を中心に再定義しなければ、現場は混乱し、また不完全な実施状況を生み出してしまうでしょう。

 

今後の学習指導要領検討への期待

いずれにしても、日本の学習指導要領は、個別具体的に記載し過ぎており、学習内容の画一化や浅い学び、学習内容過多(オーバーロード)の要因となっています。その教科において児童・生徒に身につけてほしい大切なことを精錬して定義した上で、明確に意識しながらカリキュラム・マネジメントを実践することが重要です。新しい学習指導要領における「中核的な概念等」の検討がその方向に進むきっかけになることを期待しています。

 

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[参考]

(2025年9月)

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